第29話 初めての休日

「メイちゃーーーん! 行くよーーー!!」


 俺の腕時計時間で朝の9時、既に開いている薬屋の中で俺は叫ぶ。


「待ってー! ちょっと待ってー!」


 騒ぎながら2階でドタバタしているメイちゃんを放っておきつつ、メイちゃんのお母さんと今日はお父さんまで登場で談笑する。


「今日は4人で川に行くんだって?」


「えぇ。なんでもこの時期は川遊びが恒例のようで、一度は行くべきだと誘われちゃいました」


「確かにこのくらいまで暑くなると、子供たちは川へ遊びに行くことが多いね~。僕も昔はよく遊びに行ったもんさ」


「あなたは今でも暇を見つけては釣りに行くでしょ! それにしてもロキ君には娘がお世話になりっぱなしね。森に入らなければ危ないことはないと思うけど、メイを宜しくね?」


「僕も13歳なので似たり寄ったりですけど……一応最年長ですし、メイちゃんが川で流されないようにしっかり見張っておきますよ」


「はははっ、僕はメイが煩くして、他の釣り人を邪魔しないか心配でしょうがないよ。あまりはしゃぎ過ぎるようだったらガツンと言ってもらって構わないからね?」


「あー想像できるだけに困りましたね……まぁジンク君達もいますしたぶん大丈夫でしょう! 僕もちょっとワクワクしてますしね!」


「ふふっ、折角行くんならロキ君も楽しんでらっしゃい。これ、持っていってね」


 そう言われてメイちゃんのお母さんから渡されたのは、パンに何かのお肉と野菜を挟んだサンドイッチみたいなもの。


 四角い籠に結構な量が入っているので、たぶん4人分ということで準備してくれたのだろう。


 そしてもう1つは木と石が組み合わさった謎の箱。


「ありがとうございます! ちなみにこの箱はなんでしょう?」


「これは火を起こす魔道具だよ。中に魔石の欠片も入れてあるから川に行ったら使うと良いよ。みんな獲った魚を食べたいって言いだすだろうからね」


「おぉ! 魔道具でしたか! えーと……どうやって使うんだ……」


「この手の魔道具も知らないとは、ロキ君も変わっているなぁ……横にあるツマミを引くと、この穴の開いた部分から火が出てくる。一度試してみると良いよ」


 そう言われてツマミを引いてみると、カチッという音がして、日本で言うチャッカマンくらいの火がボッと出てくる。


(ヤバっ……これめっちゃ便利じゃん!)


 箱の横には別のつまみがあり、ここを引くと中は魔石を入れるスペースになっていて、小指の爪の先ほどの欠片が4つほど転がっていた。


 うーん、中に火打石でも入っているのだろうか……構造がさっぱり分からん。


「凄いですね……でもこんな希少な物を大丈夫なんでしょうか?」


「こんなのどこの家庭でも1つは持っているものさ。この町でも6000ビーケくらいで買えるはずだよ? 最古の魔道具と言われているくらいに一般的で、物凄い数が流通しているからね」


「ほっほ~魔道具屋さんはまだ発見できていなかったので見逃してました。6000ビーケ程度なら僕も欲しいですね」


「この町に魔道具の専門店は無いからなぁ。君はハンターだし水筒とか野営具を置いている店に行ったことがあるだろう? あそこの商店で売っているよ」


「なんと! 水筒だけ買ってすぐ店を出てしまったので気付いてませんでした……情報ありがとうございます!」


 これがあれば、忘れ去られていた火魔法の存在。いては狩場で肉を食べるということも可能になる。


 パルメラ大森林はすぐ帰ってこられるし、ロッカー平原はネズミとカマキリで焼いて食べるという感じではなさそうだけど、今後ルルブの森に行く時にはかなり重宝しそうだね。魔石も現地調達できるし。


 とうとう遠征先で肉か――……



 そんな妄想に浸っていると、どうやらメイちゃんの準備ができたようで、お父さんとお母さんの後ろからひょっこり姿を現した。


「お待たせー! さぁ行くよー!」


 そう言うメイちゃんの格好、というより装備はなんとも不思議な感じだ。


 背中にはこないだ釣具店で見かけたような短めの木の竿を引っ提げ、腰に掛けられている小さい籠に釣り針などの釣具関連が入っている。


 そして手にはザル。なぜかザル。


 そして水筒を肩から掛けており、麦わら帽子みたいなものを被っている。


(なんだかやり手の釣り師みたいだなぁ……)


 そう感じながらも、次なる目的地があるのでご両親に挨拶だけして店を出た。


 我ら二名が向かうは釣り具屋。


 俺にはこの時代も、前の世界でもまともに釣りをした経験が無いので、どんな物を買えば良いのかさっぱり分からない。


 なので誘われた時、町の中心地に住んでいるメイちゃんについてきてもらおうと約束をしていたのだ。


 まぁ店の中で説明されても、結局何がなんだかさっぱりだったわけだが……


 とりあえずたまの息抜き程度で本格的にやるわけでもないので、安い木の竿、鉄製っぽい釣り針2個、魔物の毛だという釣り糸を数本、狩りで使うほどは大きくない中型の籠を購入。


 餌は?と聞いたら、「川の近くで捕まえるんだよ!」と有難い言葉をメイちゃんから頂き、これにて準備完了とばかりに急ぎ足で南の出口へと向かう。


 この世界はワイルドだぜ……


 するとジンク君とポッタ君は既に待っており、それぞれ門番さんの横で串肉を頬張りながら、これから狩りに向かうであろうハンター達と談笑していた。


 ジンク君もポッタ君もいつも通りの格好で、狩りでもないのになぜかポッタ君はいつもの籠を背負っており、その中に釣り竿なんかが突っ込まれている。


「ごめんごめん。釣具屋に寄ってたら遅れちゃったよ」


「俺らも朝飯の最中だったから大丈夫だぞ。おっ! 釣り竿買ったのか」


「安物だけど一応ね」


 そしてもう見慣れた門番さんに「今日は川行ってきます!」と伝えてゾロゾロと向かう一行。


 門番さんも川に行く人は多いのか、特に心配している様子もなく楽しんでこいと手を振ってくれていた。


 途中ジンク君が


「ポッタの籠に釣り竿とか邪魔になりそうな荷物は入れちゃってくれ。まず大丈夫だと思うけど、一応俺とロキで両端を歩いていざという時に備えよう」


 と提案するのでお言葉に甘える。


 メイちゃんもなぜかその言葉に甘えてポッタ君の背負う籠に釣り竿放り込んでいるが……ポッタ君を見たらまだまだ元気そうに頷いているので気にしないでおこう。


 そして俺は一応年長者だし、魔物が出る可能性の高い森側へ。ジンク君も納得したように頷いて逆側へ陣取る。


 たぶんジンク君は剣持ちゴブリンの件があってから、俺の方がジンク君より強いと思っている節があるけど……


 たぶんそれ勘違いなんだよなぁ。


 ステータス画面が見られるというだけで、無双できるようなチート能力でもなんでもないからね。


 精々計画性を持ってスキル取得や狩場選びができるくらいだ。


 実際はレベルもスキルもジンク君と似たり寄ったりだろうと予想している。パルメラ大森林で狩っている限りどうしても頭打ちになっちゃうし。



 そこでふと、川までどれくらい距離があるのだろうか?と気になった。


 如何せん正面は草原だらけで川が見えないのだ。


「ねぇねぇ。川までってどれくらい歩くの?」


「んー。昼前には着くと思うぞ?」


「……えっ?」


 時計は革袋にしまってあるが、たぶんまだ9時半とかそのくらいだろう。


(2時間? 遊びに行くのに2時間くらい歩くの!?)


 心の中でこの世界の遊びが随分と遠いことに驚愕するも、考えてみたら初めて森の中から出る時、川沿いを行くと遠回りだという話は聞いていた。


 日本じゃほぼ安全とは言え、2時間も徒歩で歩くような場所に子供だけで行かせるとかあり得ないのに。


 やっぱりこの世界はワイルドだぜ……


 そう心の中で呟きつつ、果たして休暇になるのか謎な遠出をするのだった。





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





(すぅ――――はぁ~……長閑な景色だなぁ……心が落ち着くわぁ……)


 釣りをしながらの、本日何度目か分からない深呼吸。


 目の前にはせせらぐという表現が適切な、浅く緩やかに流れる透明度の非常に高い川。


 その川には距離を置いて、数組の釣り人や川遊びをしている人達がいる。


 川を挟んで見えるのは、草原と奥に見えるいくつかの小屋、そしてその奥に延々と広がる穀倉地帯。


 川の向こうも森とはある程度の距離を空けているものの、そこからは土地を全面に使って作物を育てているようだ。


 魔物の気配なんてこれっぽっちも感じないし……


「たまにはこういうのも良いねぇ」


 ついつい親父臭いことを言ってしまうもしょうがない。それだけ心落ち着く場所なのだここは。


 横ではかなり真剣な眼差しで針の先を睨みつけるジンク君。


 ボーッとしている、というよりヘブン状態で口を開け、半目になっているポッタ君。


 既に飽きたのか、釣り針は見ずに石を積んで遊んでいるメイちゃん。


 川での楽しみ方もそれぞれなんだろうな、きっと。


 ちなみに釣りを始めてから体感1時間くらい経った現在、釣果は俺0匹、メイちゃん0匹、ポッタ君3匹、ジンク君4匹と、ジンク君はなんでも器用にこなしそうなので予想通りだけど、ボーッとしているポッタ君がなぜか調子が良く、メイちゃんは集中力が無いのか予想外に凹んでいる。


 俺は……まぁ釣りなんて釣り堀の経験しかないし、初心者なんだからこんなものだろう。


 川に来た目的は釣りじゃないので、雰囲気が味わえればそれで十分だ。


「メイサは相変わらず釣りが下手くそだな」


「私は釣り竿が苦手なの! もう川の中入っていい? 良いよね!?」


「一人1匹分はあるから……僕は良いと思うよ」


「余ったらギルドに売ろうと思ってたんだが……まぁ後半頑張ればいいか。そんじゃ飯の準備にしようぜ!」


 その言葉を聞いて俺の心は躍った。


(とうとう焼き魚ですか! この世界で初の焼き魚ですか!?)


 泊っている宿『ビリーコーン』でも魚料理は出る。


 ただシンプルに焼くのではなく、香辛料や香草を使って蒸したような料理だったので、なんとなく日本食が恋しくなってきた俺にとって、焼き魚がとてつもなく魅力的な食事に思えてくる。


 だが俺は釣ってない人。すってんてんの人。


 ここは働かねばと、率先して石を簡単に組み上げなんとなく竈風にし、木の小枝を搔き集めて火を起こす準備をする。


 もちろん魚を刺す用の細長い枝も忘れない。


 こんな時に新聞紙でもあれば良いのだが~と思いながらもそんなものはないので、乾燥していそうな葉っぱや倒木の欠片が上手く着火できるよう配置を整える。


「ロキは魚釣れないくせに、こういうとこは手慣れてるな……」


「見よう見真似だけどね。これで魚に串を通せば良い感じに焼けるんじゃない?」


「いつも地面に刺してたけどなんか凄いね! よく分かんないけど凄い!」


「そして、取り出したるはメイちゃん家の魔道具! お母さんとお父さんがこれ持ってけって」


「おっ助かる! うちは外に持ってこうとすると怒られるからな。いつも自力で火起こししてたんだ」


「おまけに! こんなこともあろうかと塩も持参してきました!」


「「おぉ~!」」


 釣り具用意しないで何を塩だけ準備してんだと、ここに突っ込み役がいればボコボコにされていただろうが……このメンツなら問題無い。


 着火して釣った魚に火を通しながら、メイちゃんお母さんが用意してくれたサンドイッチを皆で頬張る。


 まるでピクニックに来ているような気分も相まって余計に美味しく感じる。


 ついでに自称川仙人(生魚齧っていただけ)の名に恥じぬよう、メイちゃんから借りたザルを片手に石をひっくり返し、海老や蟹なんかも捕まえてついでに火に投下。


 これで塩をかければ、殻まで食べられそうな香ばしい食材が1品増える。


(火と塩さえあればとりあえずは生きていけるな……)


 そう思えるくらいに生と味が違うことに感動しつつ3人を見てみると、普段魚は取っても海老や蟹は取らなかったみたいで、実は美味いことを知って超感動。


 ジンク君は「飯食ったらこいつら取りまくろうぜ!」と大騒ぎである。


 ポッタ君も当初は少ない魚に不安を感じていたっぽいが、今は思わぬ食材に満足しているし、メイちゃんはザルって凄い物なんじゃ?と無言で凝視している。


 これで全員腹を壊したら俺の立場がないけど、ちゃんと火は通しているし、生で食べても1回しかお腹を壊さなかったのでたぶん大丈夫だろう。


 そして食後休憩を挟み、今、謎の大会が始まろうとしている。


 海老と蟹をどれだけ取れるか選手権のようだが……ザルを持ってきているのはメイちゃんだけなので、ザルはズルいということで不採用。


 一人だと結構大変だということを経験談から俺が伝えたら、それならと2対2のチーム戦をすることになった。


 どう分けるのだろうと疑問に感じていると、どうやら俺と組めば3人は勝てると思い込んでいるのか俺の取り合いに発展してしまったので、ここは大人の俺がを提案する。


 3人共頭にはてなマークが浮かんでいたので、グーとパーの手の形を教え、同時に出して組み合わせが一緒の人同士で組むということを伝えると3人とも納得。


 本当はこれにチョキがあって勝負ができるなんてことを教えつつ、俺とポッタ君、ジンク君とメイちゃんペアが決定し、どちらが多く取れるかの勝負と相成った。


 しかし、この組み合わせは俺にとって一番厳しい状況だ。


「ポッタ君! 最初は俺が掬うから、石をどけてもらえる?」


「……?」


 どうしよう……会話が成り立たない……


 しょうがないのでジェスチャーを交えて石をどかす仕草をした後にポッタ君を指さし、俺が水を掬い上げる仕草をして自分を指さす。


 すると理解はしたようなので、気持ち大き目の石をひっくり返しながら海老や蟹の捜索開始だ。


 気配察知が使えれば内心有利になるんじゃ? とは思ったものの、川の水が動いているので、その中の生き物に対してはあまり反応が掴めない。


 ただ石をどかした時に驚いて動けばその反応は掴めるので、どかしたそばから動く物を中心に手で掬って俺の背負う中型の籠へ放り込む。


 チラリとジンク君メイちゃんペアを見れば、向こうはそれぞれが単独行動をしているようなので、気配察知を持っているジンク君はまだしも、メイちゃんは慣れるまで簡単には捕まえられないだろう。


「ポッタ君! 次その石いこう!」


 指を差しながら言葉を伝えれば


「あい!」


 しっかり返事が返ってくる。


「いた! 2匹だからそっちお願い!」


 俺が取りこぼしそうな獲物に指を差せば


「あい!」


 これもしっかり返事が返ってきて、ポッタ君は頑張って掴もうとする。


 子供達に混ざって何を大人が本気になっているんだと自問自答はしてしまうも、これはこれで真剣な遊びだ。


 彼らが楽しんでいるなら俺もノッてあげよう。


 そして成果は魚のように皆で食べれば良い。


「次、横の石いってみよ!」


「あい!」


「ここは無し! 次そっちの怪しい石いってみよ!」


「あい!」


「いたっ! 1匹だから俺が捕まえる! ポッタ君次はあの大きい石いける?」


「あい?……あいっ!!」


「?……いたよ3匹だ! ポッタ君そっち捕まえちゃって!」


「…………あいっ……あいっ……!!」


 ポッタ君の返事がおかしくなってきたので、これはハイペース過ぎて疲れさせてしまったのかと反省。


「ごめんちょっとペース早かったね。次は俺が石どかすからポッタ君が捕まえてみよ!」


「……大丈夫。疲れてないから。大丈夫だから」


「そう? 無理はしないでね、遊びなんだから……ん?」


 なんだこの違和感は? 会話が成立しているような……


 そう思ってポッタ君を見上げると、ポッタ君は汗とは違うものを目から流していた。


「ポッタ君……?」


「うぅ……言葉……分かったよ……ロキの言葉、分かった!……もう仲間外れじゃないっ!」


「――――ッ!? た、大変だっ!! ジンク君! メイちゃん!!」


 怪我か魔物かという勢いでこちらに向かってくる二人に対し、なぜかポッタ君が俺の言葉を理解したことを伝えると、まるで自分のことのように二人は大喜び。


「ポッタ! 本当に分かったの!? 凄いじゃん!」


「うんうん。ロキが何を言っているか、やっと分かったよ!」


「ポッタやったじゃんか! たぶんロキと話してたからか? それでスキル取れたんじゃないか?」


(マジかよ……俺が異世界語の先生になっていて、それで覚えたってことか? スキルが【異言語理解】ということなら、ポッタ君が知っている言葉で話されるより、別言語で話した方が確かに成長はしやすそうだが……でも今はそんなことどうでもいいか)


「ポッタ君、本当におめでとう! きっと俺の言葉を理解しようと努力してくれた結果だね」


 そう言って肩をパンパンと叩くと、よほど今まで理解できなかったのが悔しかったのか、それとも念願の【異言語理解】を取得できたことが嬉しいのか、ポッタ君はその場で号泣してしまった。


 身体は大きくてもまだ11歳。


 思い返してみれば、4人でしゃべっている時も一人寂しそうな顔をしていたし、疎外感を覚えていたのは間違いないだろう。


「もう勝負なんかしてる場合じゃないな! って、メイサ! 俺達圧倒的に負けてるんだけど!?」


「えー! 私頑張ったよ! ジンクがあまり獲れなかったからじゃないの!?」


「バカ! そんなちょっとの差じゃないぞ!」


 俺の籠を覗き込んで驚愕する二人に「ポッタ君がかなり頑張ってたからね」と言いつつ、この蟹や海老をどうするか確認する。


「どうする? 今食べちゃう? それとも家持って帰る? それなら水に浸けとかないとマズいだろうけど」


「どうせならお祝いってことで食べちゃおうぜ!」


「僕もお腹いっぱい食べたい!」


「さっきいっぱい食べてたじゃん! 魚も2匹食べてたじゃん!!」


「まだ食べられる。今いっぱい動いたからお腹空いてきた」


「「「はやっ!」」」


 まぁポッタ君のお祝いということならこれも有りだろう。


 先ほど一度食べているので3人に調理は任せ、俺は川へ来た一番の目的。


 行水をおこなう。


 といっても川床が簡単に見えるくらい浅い川なので、上半身だけ脱いで川辺に寝転ぶ形だ。まさに寝湯ならぬ寝水。寝川。


 毎日お湯に浸けたタオルで身体を拭いているとは言え、元現代人の俺としては身体に水を浴びるという作業を不定期にでも挟まないとやっぱり気持ち悪い。


 良さげなサイズ感の石を枕にし、降り注ぐ日差しを浴びながらも冷たい水に身体を浸す。


(あぁぁ……めっちゃ気持ち良いなコレ……密かに石鹸も持ってきてたけど、さすがにここで使うのはマナー的に無しだろうなー……)


「あぁー!! ロキ君ずるーい! 私も!」


「へ?」


 何事? と思って顔を上げれば、既に服は脱ぎ捨てたのか、パンツ1枚でザルだけ持って突撃してくるメイちゃんが。


 そのまま俺の横を水飛沫を上げながら通り抜け、川の真ん中あたりを陣取りながらなぜかザルを掬っている。


「私はこういう魚の取り方が得意なの! お腹いっぱいだし、さっきのやつはポッタ達に任せて私は魚獲る!」


(どう見ても裸でドジョウ掬いしているようにしか見えないんだが……というか、10歳ってもう羞恥心あるよな?……まぁいっか……)


 ロリコンなら狂喜乱舞する状況かもしれないけど、俺にはその手の趣味が無いので放っておくことにする。


 メイちゃんのせいで飛んでくる水飛沫が、これはこれで気持ちが良い。


 (祝い事かぁ……)


 目を瞑って身体に心地良い冷たさを感じながら、いくら考えても一つしか出てこない祝い方を徐に提案する。



「ねぇポッタ君さ、それにジンク君にメイちゃんも…………辛いのは好き?」

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