警視庁捜査6課怪異係
さいのす
第1話
「ぎゅあっ」
蛙の悲鳴をすり潰したような声に、僕は痛む頭を必死に上げた。
ぬるぬると肌が滑るのはどこか派手に切ってしまっているのだろうか。
目の前を”それ”がドタバタと通る。
そう、ドタバタと。
「なんだよ、これ」
”それ”はゴミ収集車だった。ゴミの投げ込み口からゴボゴボと赤黒い液体を溢れさせ、今悲鳴をあげた主の骨をバキバキと砕きながら飲み込んでいる以外は。
ゴミ収集車はまるで巨大な蛙のように人間を咀嚼し、飲み込んでいく。
僕はぬるぬるする手で必死に腰の拳銃を取ろうとした。
探しながら、先ほど”それ”に轢かれた太ももから大きく骨が突き出していることに気づいた。
「ちくしょう、ちくしょう」
目がかすむ。
目の前のゴミ収集車はまるで満腹になったとでもいうかのように走り去っていく。
血の海には被害者のカバンと、携帯と。
「こちら、目黒3、至急、応援を」
無線機にゆっくりと伝えると、僕の意識は闇に溶ける。
交差点には小さなミニカーが血に染まって落ちていた。
「────それで」
目の前で猪熊警部が言葉を切った。
「そのゴミ収集車はどこに行ったかわからないんだよ」
身体中いろいろな管で繋がれた僕は白い天井をぼんやりと見つめていた。
「でも、いたんです」
「わかっている。現場に残った大量の血痕からも、君のその怪我からも”何か”が”何か”したことはわかっているんだが」
猪熊警部の言いたいこともわかる。殺人ゴミ収集車なんて到底現実的にあり得ない話だ。
「だから、早くあいつを追わないと」
唯一自由に動く右手を握りしめるとシーツが小さく音を立てた。
「お前の気持ちもわかる───だから」
猪熊警部が僕の肩を小さく叩き、部屋の扉を指差した。
痛む首をゆっくりと回すと、そこには真っ赤な女が立っていた。
その女は足首まである真っ赤なロングコートを着ていた。漆黒の髪の毛は背中まであるだろうか。白い肌に赤い口紅と黒い大きな瞳が吸い込まれそうな雰囲気を出している。
「この事件は、6課預かりとさせてもらう」
女はツカツカとこちらに歩み寄るとにっこりと僕に微笑んだ。
「怪異の生存者は本当に貴重なの。君は退院しだい6課(うち)で一緒に捜査してもらうよ」
そうして僕は、警視庁捜査6課・怪異係へ異動となったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます