人里を目指して
寝て起きて、ここが現実の世界であることを再確認した。
家から出る──家といっても、雨を凌げるように木や葉等を使った屋根がある程度だが。
道具が足りなくて、それぐらいしか出来なかった。
「うーむ……これ以上の生活をするには、やっぱり人がいる場所に行った方がいいのかな」
ぶっちゃけ行きたくない。嫌悪感を示されるのは嫌だ。でも……ここにいても良いことは何もない。
それになにより、今の俺には無視できない気持ちがある。
「正直、文化的な生活はしたいよね……」
前世の記憶が蘇った事で、かつての水準ほどでなくても、人間的な生活はしたい気持ちが芽生える。
山の中で生きていく事も出来なくはないが、病気にかかればそのまま死ぬ可能性だってある。
「どっちにしろ、この世界のことを詳しく知るには、人のいる街にでも行かないと……」
行きたくないなぁ……という心がある。同時に、未知の世界で生きる人達の生活を見てみたい気持ちもある。
「────よし、取り敢えず山で食糧探して、ある程度旅路に必要な物作るか」
考えていても始まらない。
覚悟は決まった。行きたくないけど、ここにいたいけど────山から出て、前に進もう。
◆◆◆
……もしかしたらこの山は、わりと危険なのかもしれない。
「……死体だ」
取り敢えずご冥福を祈る。最近死んだのか、今まで見てきた死体の中では、原型をとどめている方だ。それがまた、この世界の残酷さを物語っていて────。
「慣れないとっ……この8年間ずっとそんな環境と隣り合わせだったんだからっ」
記憶が戻っただけでここまで心境が変わるとは……でも、慣れてかないと生きていけない。
この死体は冒険者か何かだったんだろう。装備品がそのまま放置されている。
「まぁ、いいか。この装備品は貰っていこう」
といっても、防具はサイズの問題で持ってけない。持っていけるのはこのフード付きのコートと武器だろう短剣と盾だけだ。
コートはその大部分を短剣で切れば、まぁ顔隠しぐらいは出来るだろう。
黒猫族を象徴する黒猫の耳と黒髪を隠せるのは大きい。
まぁあっても色々と邪魔だったろうから、無くてよかったのだけど。
他になにか頂けるものはないかと探したところ、お金らしきものと食糧らしいものを見つけた。しかし食糧は、腐っていた。さすがに腐ったものは食べたくない。
それとは別に干し肉を見つけた。保存食というやつだろうか?
ずっとサバイバル生活をしていた俺が言うのもあれだが、この世界の料理の文化は現代に比べて全然発展していないのだろう。
正直な話、母の料理も凝ったものがつくれる環境では無かった事を加味しても、そんなに……というものだったのを覚えている。
「……まぁ、こんなところかな」
余ったコートを元々持ってた布切れとあわせて寝袋に、これで旅路の準備は出来た。
サバイバル生活にはなるが、それ自体は慣れているし問題はない。ここで簡易的な寝袋や武器を手に入れられたのは大きな成果だろう。
「よし、行こう」
土地勘なんてない、この死体も地図は持ってなかった。だから、あてもない旅になる。
もしかしたら集落とかに辿り着かずに死ぬかもしれない。嫌ではあるが、その時はその時だ。
……じゃあ、この山ともお別れだ。
「ありがとう──さようなら」
二度と戻らない。そう決意して、俺は山を降りる。
──それから3ヶ月の時間をかけて、俺は人の住む場所へと辿り着いた。
その時は、まだ俺も人のいる場所にこれて浮かれていて、何だかんだ人の考え方も変わってると思っていて。
ここまで
◇◇◇
3ヶ月かけて
転生後に野山で生きていくにはこれぐらいの能力が事前に必要と思い、このような設定と、そのような技術や知識を仕込める知り合い達が誕生した。
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