413話 シベルの荒技



「ご馳走様でした! メサイアのご飯って、結構美味しいんですね…! てっきり私……。 …っぁと…」



神聖国家メサイア、その聖都。とあるお店で食事を終えたさくらは、満腹交じりにそんなことを。そして少し失礼なことを言いそうになったことにハタと気づき、慌てて口を噤んだ。



「ふふっ。いえさくらさん、そのお考えも当然かと。 もっと粗食だとお思いだったのでしょう?」



と、クスリと微笑んだのは彼女と共に食事をしたマーサ。さくらが少しバツが悪そうに頷くと、彼女は胸を張るように説明を。



「よく誤解されるのですが、メサイア様は別に粗食を奨励なぞしておりません。あの御方が是としておられるのは、『バランスの良い食事』。健康的で心安らぐような、そして命に感謝を捧げながら頂くことのできる食事が主なのですよ」



彼女の言葉に、さくらは納得。先程のお店で頂いたご飯は、野菜中心であったとはいえ、肉や魚も普通に使われていたのだ。味付けも濃すぎず、かといって薄すぎもしない丁度いい塩梅だった。



実を言うとさくら、神を祀る地…即ち一大宗教のメッカであるここの食事がどのような精進料理なのか少し不安だったのである。けど、出てきたのはそんな素晴らしい御膳。これには満足しきりであった。 と、マーサは更に一言。



「因みにリュウザキ先生も、さくらさんと同じ勘違いしていたようなのですよ」



同じ世界出身だからですかね。と含み笑むような言い方の彼女に、さくらもクスっと笑ってしまう。――ふと、そこで鼻息を吐いたのは……。



「フン…。ここの食事は俺には物足りないがな」



同じく席を共にしていたシベル。肉が好きそうな見た目の獣人族の彼だが、まさにその通りらしく、肉も食事の総量も足りないと言わんばかり。



それを耳にしたマーサは、珍しいことに何も返さず、さくらに続きを……



「――逆に、メサイア様が奨励されていないのは『食べ過ぎ』や『偏った食事』です。身体に悪いですから。つまり……シベルみたいなのは真っ先に嫌われるのです!」



……違った。わざとらしくさくらを巻き込んで手痛い皮肉を叩きつけただけだった。そして…開戦のゴングである。



「よく言う! ここにだってそう言うのを食べさせる店はあるにはあるだろうが!」



「えぇありますとも! けど、それは一応不浄扱い! 心の平穏が維持できなくなった時、身体の健康が崩れない程度にこっそり行くのが普通だって知ってるでしょうが!」



シベルの牽制に、ビシリと返すマーサ。…が、それが失敗だったのか、シベルは良い手を得たと言うように笑い飛ばした。



「ハッ! じゃあお前はどれだけその不浄に身を沈めているってんだ? 知ってるぞ、お前が結構な頻度でステーキをたらふく食いに行ってることをな!」





「なっ…!? なんでそれを……!」



ビクッと身を揺らしてしまうマーサ。シベルは『アリシャバージルのあの通りにあるあの店だろう?』と勝ち誇ったように店の場所まで口にし、にんまりと笑った。



「あそこは俺の行きつけでもある。 この前、俺がいた時に平然と入って来て、俺よりも量食っていたのを見ていたぞ!」



「ぁ……ぁ……こ、この馬鹿シベル! 居るなら居るって言いなさいよ!」



「言ったら店壊すほどの大乱闘になるのは目に見えてるだろうが!」



顔を真っ赤にして怒鳴るマーサに、怒鳴り返すシベル。さくらは慌てて仲裁に入った。




「あ…あの! シベルさん、マーサさん…! 周りの人、こっち見てますから…!!」












――事は少し前に遡る。先程、シベル達の同期にして竜崎の弟子の1人である現聖騎士部隊の隊長『セン』と会った時の事。



彼は歓談もそこそこに、先に向かわせた兵に続いて森へ入ろうとしたのだ。先の騒動の犯人を捜索するために。シベル達は当然のように協力を申し出たが…。



「いや!ここからは俺達の仕事だ! 御客人達にこれ以上迷惑はかけられないさ!」



と水も滴るような笑いを見せ、それを辞退。そして……。



「さくらちゃんの観光目的でもあるんだろう? なら存分に案内して、メサイアを堪能して貰ってくれ!」



そう残し、職務を全うしに行ってしまったのだ。これ以上は野暮であり、また彼の実力を知っているシベル達はそれに従うことに。




そして再度竜に乗り神殿に戻ると、そこには祭司長が。門限の時刻を教えてくれ、報酬であるお金が入った袋を渡してくれた。



しかし…その中身は、想像以上の金額であった。こんなには頂けませんと揃って一部を返そうとするシベルとマーサだったが――。



「正当な報酬なんだから、受け取ってくれないとママ困っちゃう!」



と、聖なる魔神メサイア(の分身)が現れ、有無を言わさず押し付けられてしまった。致し方なしにさくら達はそれを頂き、晴れて街中に繰り出したという訳である……のだが……。







「大体シベル! あなたはいつもいつも…!」


「よく言う! お前だって……!!」



……まあこのように、事あるごとに衝突しあい。観光案内どころではない。全く、さっきは息の合った戦いぶりを見せていたというのに……。



「…あ、そうだ!  マーサさん、シベルさん!」



ふと、一計を思いついたさくらは二人の名を呼ぶ。そして、こう質問をした。



「さっきの戦いでお二人が使っていた技、どんな魔術なんですか?」



要は喧嘩を他の話題で誤魔化そうとしているのである。加えてさくらは、先程マーサ達が使っていた色んな技が気になってもいた。まさに一石二鳥。



そして聞かれた二人も語るのはまんざらでもないらしく、喧嘩をパッと止めて教えてくれ……。



「「あれは―。……っ゛!」」



……る前に、まーた……。口切りが被ったのをきっかけに、どっちの技が先に話すか睨み合いを始めたのである。



仕方なしにさくらが音頭を取り、披露された技の順に説明をして貰うことに。ということは――。





「俺からだな!」



開幕飛び出していったシベルから。彼はマーサを煽るようにハッと笑いつつ、教えてくれた。



「あの『ウォークライ』は見た通り……」



「そして私が軽くお話した通りの技なのですよ。じゃあ次は私の……」



「ガゥルルッ!」



仕返しとばかりにシベルのターンを短縮しようとしたマーサ。いつも通りの威嚇をしたシベルは、ゴホンと咳払いして改めて続けた。



「まあマーサからある程度聞いてるなら話が早い。俺の声に誘導魔術や拡声魔術等諸々を付与し、魔獣共を引き付ける技だ。誘導魔術と言うのは使役魔術の一種でな、グレミリオ先生にも監督して頂いて作り上げた」



吼えることで発動し、大方の獣…特に猛っている中型の魔獣程度であれば誘導できる。吼え方を変えることで範囲も調整できる―。そう説明しているシベルに、またもマーサが横槍を。



「ただ、範囲内の全ての獣を巻き込んでしまうのです。ですから先程乗っていた竜には防音魔術等をかける必要がありましたし……。 ……その魔術も危険だから、出来る限り控えるようにとリュウザキ先生は仰っていたでしょう?」



さくらに補足説明をした返す刀で、問題児を叱るような口調でシベルを睨むマーサ。 確かにあの技は危険極まりない。多数の獣を同時に引き付ける故に下手をすれば蹂躙され、そうなれば即死は免れない。



だからこそ彼は獣人の脚力に魔術を付与し強化、囮として逃げ回っていたのだ。マーサの準備ができるまで。





「――そして後は私が聖魔術を揮い、粗方を鎮圧したのがあの時の流れでしたね。あの武器はシベルの動きに対応しやすいよう、そしてその後の残党処理で片方をシベルに渡しやすいよう…――」



ぐぅっ…と押し黙ってしまったシベルを差し置き、今度はマーサが先程使っていた双頭刃の聖光武器について解説を。…が、ここで――。



「フンッ…! ここがメサイアでなければ…リュウザキ先生からああ厳命されていなければ、俺一人で片付けられたものを…!」



シベルがぶつくさ。竜崎はさくら達の出立前、『ここがメサイアの領地だと忘れず戦うように』とシベルに命じていた。その意は戦い前のマーサの説明通り。ここでは無暗な殺生は禁止されているのである。



彼曰く、先の戦いは律儀にその命を守った結果であり、マーサなんぞいなくても1人で解決できたと言いたい様子。するとマーサは大きく溜息。



「で、しょうけどねぇ…! 結局リュウザキ先生が眉をひそめた『あの技』を使うなら意味ないでしょう!」



そうツッコまれ、シベルはまたもぐぅっと抑えられてしまう。流石に可哀そうに思えたさくらは、慌ててマーサに疑問をぶつけた。




「『あの技』って……シベルさんが火に包まれたあれ、ですよね?」



「えぇ、そうなのです。精霊を自身の毛に纏わせて、即席の鎧とする技なのですが……彼をもってしても火傷や焦げ等のダメージは受けてしまって……」



「フン…! その程度、回復魔術で幾らでも治せる。大体、鎮痛魔術や耐火魔術とかの対策を施してからやっているのは見ているだろうが!」



そこでたまらず言い返しに入ってきたシベル。確かにあの技は全身に長い毛が生えているタイプの獣人族且つ、回復魔術のエキスパートの彼だから出来る技かもしれない。だが、マーサは殊更に溜息をついた。



「そういうことを言っているんじゃないの……。はぁ……リュウザキ先生の身体を張る癖を真似なくとも、戦い方は色々あるでしょうに…」



「ハッ。俺は単純な膂力なら先生を上回る。なら、そんな俺が先生並みに身体を張らなくてどうする!」



「もう!昔っっっから無駄に頑固なのだから!!  先生だって、『危険な思いつきを話さなきゃよかった』って後悔してるの知っているでしょう!」



どうやらその精霊鎧?を発案したのは竜崎だったらしい。またも言い合いを始める二人を呆れて見つめながら、さくらはふと思いだしたことがあった。





(そういえば……この杖の変身機構って…)



ついこの間、新しい武器として手に入れた専用短杖に触れるさくら。これはさくらがこの世界に来たての時、『発明家』ソフィアの娘であるマリアにお願いして作って貰っていたものなのだ。



この間武器として借りていた『神具の鏡』が奪われて以来、代わりの武器として使っているが……実はこれ、未完成品。最も魔術杖としては充分な性能なのだが……。




未完成の要因は、さくらが思いつきで提案した変身機構。折角異世界に来たのだから、杖を振って魔法少女のようなドレスを纏いたいという可愛らしい願い。



しかしそれは中々上手くいかず、マリアは竜崎にアドバイスを求めた。そしてその時に竜崎が口にしたのが…。



『服そのものを出すんじゃなくて、服みたいなもので体を包んだら?精霊やニアロンみたいに』



というものであった。精霊による服みたいなもの…。それ即ち、先程のシベルの精霊鎧に近しいもの。




どうやらその発想自体は前々からあったものらしく、マリアへのアドバイスはそれの流用であった様子。 恐らくマリアとソフィア魔術士ではない者達であれば、危険を取り払い形としてくれると考えたのかもしれない。



そして確立してしまえば、シベルが無駄に身体を張る必要がなくなる―。もしかしたら、そんな企みも竜崎の胸中にあった可能性すらある。



最も、それは当の本人に聞かなければわからないことではあるが…。上手くいけば、さくらだけではなくシベルにとっても役立つ機構となるのは間違いない。




なら、なんとか完成させないと! さくらは胸の内で、そうフンスと意気込んでみるのであった。

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