399話 メサイアの健診



「さ、リュウちゃん! また喧嘩が始まらない内に、呪いの再封印をしちゃいましょう!」



結局ニルザルル達を元の位置に押し込めたメサイアは、巨大な姿のまま竜崎へ微笑みを向ける。…そして、衝撃の一言を口にした。




「―ということで…。服、全部脱いじゃって!」









「え゛」


「へっ…!?」



顔を引きつらせる竜崎と、目をしどろもどろさせるさくら。 服を…脱ぐ…!?しかも…全部…!?!?



―なんだ清人。やっぱり前来た時のこと、忘れてたな?―



そう困惑しているさくらを余所に、ニアロンは竜崎を小突く。それで思い出したらしく、彼は頭を抱えた。



「……そんな恥ずかしい記憶、それこそ消したようなものだったよ…」



どうやら、前回来訪した際も同じ目に遭ったらしい。そしてあまりにも羞恥な記憶だったため、自ら記憶を封印していたようである。





「こうだったって思い出していれば、あの二人を……」



ハァ…と大きく溜息をついた彼。そのままチラリと後ろの方を。 その先にいたマーサとシベルは、心得たように回れ右。壁を見つめる形に。



当の彼らは、賢者辺りから既にこのことを聞いていたのであろう。忘れていた…記憶を抹消していたのは竜崎のみである。




―いや今更だろ。あいつらが何時間、お前の裸を眺め続けてたと思う?―



と、そんな彼を茶化すように、ニアロンは笑う。 確かに傷の治療の際、参加していたあの二人は確実に竜崎の裸体を見ているのだ。当然、全身くまなくを。




「それはそうかもしれないけど……。 …というか、そういうこと言うのは止めてくれ…」



恥ずかしそうな、そして若干苛立ったような様子でニアロンを睨む竜崎。 ―ふと、その目をハッとさせ…ゆっくりと横に…―。



「…さくらさん……」





そう…この場にはもう一人、前回のことを知らぬさくらがいる。しかも花も恥じらう、うら若き女の子である。



しまった…と顔をに出ている竜崎に見つめられ、さくらは……。



「え、えっと……み、見ません…!」



狼狽しつつも両手で目を覆い、必死の見ないアピール。…ただ、ちょっと手の隙間から覗いちゃっているのだが…。




その様子に、竜崎は苦笑い。そしてメサイアに頼みごとをした。



「とりあえず…さくらさんとマーサとシベルには、一旦部屋から退出させてあげた…―」



「良いわよもう面倒だし! マーサちゃん達はあれだし、さくらちゃんの目は私が隠してればいいでしょ」



――と、竜崎の言葉を遮ったのはソフィア。 さくらをちょいちょいと手招きし、確保。彼女の目を手で包んだ。



「ほら、いつ呪いが再発するかわからないわよ。ちゃっちゃと脱ぎなさいな!」




「……ソフィア、なんか俺で遊んでないか?」



―遊んでるな。 ま、これも、お前が私達を心配させた…―



「『埋め合わせの、ほんの一部』か? なんか腑に落ちないけど…もういいや…」




にやにや笑うソフィアを横目に、同じように笑むニアロンと、諦めた竜崎なのであった。









「キヨト。ローブ、広げとく。 …いつもの逆」



「有難うアリシャ。 …爺さん賢者も、私の周りに壁ぐらい作ってくれればいいのに…。傍観してるし…」



ちょっと嬉しそうなアリシャに礼を言い、着ていたローブで出来た簡易壁の奥で、ぶつくさ言いながらシュルシュルと服を解いていく竜崎。と、その一方で…。





「……あ、あの…。…ソフィア…さん…?」



「なーにさくらちゃん。 声、もうちょっと落としてね」



「いや…あの…その…。 ……目隠しに…隙間が……」




離れている所に待機していたさくらはすごく困惑し、顔を赤くさせていた。 だって…ソフィアの手による目隠しが、ガバガバだったのだから。



おかげでメサイアの光に照らされた竜崎の脱衣が、ローブに軽い影となって映っているのが丸見えで…。目のやり場に困ってしまう。




…勿論、ソフィアに閉じてと頼んだり、自分の手で更に覆ったり、目をつぶれば事足りることなのだが…。何故かさくらは、その行動ができない。見てしまう。 見届けるのが、自分の罪償い…と思っているわけでは勿論ない。




というか、今のソフィアの口ぶり…。恐らく、確信犯。 気の置けない関係性とはいえ、酷いものである。












「…メサイア、下着も……だよね…?」


「えぇ、そうよ!」



そんなことは露知らずの竜崎。メサイアの指示に従い、渋々と裸になっていく。身体がふらつくため、ニアロンに介助してもらいながら一枚ずつ。




因みに、その竜崎の光景を、他の魔神7柱はどう見ているかというと…。 彼らは見ていない。




目を背けているわけではない。全員が全員、目を閉じ意識を集中させ、力を溜めているのである。



証拠に彼らの両手の上…そして神竜の口元には、色とりどりの輝く巨大光球が生成されはじめていた。恐らく、これから使うものなのであろう。




…まあ、魔神と言う特殊存在である彼ら。人の在り方性格には興味を抱くが、人体の仕組みなんぞはどうでもいい代物なのだろうが。










「よいしょ…と…。 はぁもう…。 アリシャ、ローブを…」



全ての服をパサリパサリと脱ぎ終え、最後の砦とばかりにローブを羽織り直す竜崎。前をしっかり押さえ閉め、複雑な表情を浮かべている。



「はい、よくできました! それじゃあ…私の手の上へどうぞ!」



子供相手のように褒め、巨大姿のメサイアは彼の前に手を広げる。 竜崎は服をアリシャに任せ、その上に。



「上に参りま~す♪」



乗っかってきた竜崎を一切揺らすことなく、その手を空中へと持ち上げるメサイア。そして…。



「じゃあリュウちゃん、まずは健診のお時間よ。 そのローブを…脱がなくてもいいから、前を大きく開けてね」



「ぅ……」



―何今更恥ずかしがってるんだ。 ほら脱げ脱げ!―



「っおいニアロン…! 止め…! 自分で脱ぐから、変に引っ張るな…!」



メサイアの手の上で、わちゃわちゃする竜崎達。その様子にメサイアもさくら達もクスリと笑いを漏らしてしまうのであった。








―よしよし、最初からこうすればよかったんだ―



「こんな露出狂みたいな……後で覚えてろよ…」



結局…ニアロンの勝利…というべきなのだろうか。 無理やり肩掛けにさせたローブを彼女がガバリと開き留め、竜崎は恨み節を吐いていた。



「どれど~れ……」



その隙に、メサイアは大きい顔を竜崎の身体へと寄せマジマジと確認する。 竜崎は流石に恥ずかしくなり、姿勢を変えようとするが…。



「隠すのはめっ!よ~」



メサイアは親指と小指を器用に動かし、竜崎の腕をズラし気をつけの姿勢に固定させる。もはや抵抗は無駄と悟った竜崎は、目をつぶり全てを委ねてしまった。



するとメサイア、これ幸いともう一方の手の指先で、彼の裸体をくまなく優しく撫でさする。何かを確かめているようだが…。



――直後彼女はまたも……なにかとんでもなさそうな台詞を口にした。




「ふふっ!衰え知らずねぇ。 相変わらず、すごぉく、ご・立・派♡」



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