銀鼠、白練、海碧

淡朽 不言

プロローグ


 狭い室内に響き渡る赤の警告音。


 側面を彩るランプたちが燃え上がるように光り輝く。

 俺を嘲笑うように徐々に数字を落としていく目の前のメーター。

 左手の操縦桿そうじゅうかんは機嫌を損ね、だんまりを決め込んでいる。


 何もかもが主人あるじの言う事を聞かず、好き勝手に各々の「現実」を叩きつけてくる。


 この室内に在る全てが己の役目に辟易としながら、

 主張し合い、

 反発し合い、

 連鎖し合って、

 加速度的に破滅へと向かおうとしている。


 —―ぞくり


 背筋を走る予感に呼応して、全身の毛が逆立つ。

 先程から額を流れる汗が煩わしくて仕方がない。


 周りを囲んでいた天色は、いつの間にか錫色へとその身を翻した。

 さきほどから視界を遮る水蒸気の塊が、ひどく鬱陶しい。


 響き続ける警告音アラート

 不快な赤が、集中力を掻き乱す。


 唐突な天啓が、脳髄を駆け巡った。


 —―そうか、ここで死ぬのか


 自覚した途端、自ずと唇の端が緩む。

 —―どうせなら、己の愛する恋人と共に墜ちたかった

 絵の具を水に落としたように、「諦念」が心を緩やかに染め上げる。

 徐々にひらいていく、操縦桿を握る掌。

 背もたれに、身体を預ける。


 —―いっそ、目を閉じてしまおうか。何も見なくて、済むように


 目の前の鈍いしろかねを、瞼の奥に閉じ込めようとしたその刹那。

 光り輝く紺碧が、俺の瞳を染め上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る