かたわらに路線図

埋もれていく言葉の数々

プロローグと希求

 昨日と同じものがあったとしても、それが昨日を保証してくれる訳ではないだろう。なら、昨日とはまるで異なるものが、昨日の全てを否定することはできないはずだ。ここには大きな円を描いた路線が一つある。その一つだけだ。私はそれをずっと見ていた。昨日も、一昨日も、昨年も……当然のことだが、今日も見ていた。一つの円が絶えず大きくなっていく様を……。


 しかし、この話は後にしたい。勿体もったいぶるほどに興味深い話でもないが、これにまつわる様々な話もある。それを語ってからでも遅くはないだろう。しかし、それを語るのは私ではない。というのも、私は少しばかりのエッセイを借りてきただけなのだ。資料的な価値があると言って、当事者の言葉を頂戴ちょうだいし、そうして私の言葉にいくばくかの説得力を生み出そうとしているのである。だから、ここで語られるほとんどの話は、私が知る由もなかった筈のものだということを念頭に置いて頂きたい。私は決して、探偵稼業を営んではいないということだ。しかし、変態的ではあるかもしれない。私のように路線図を気にしている者など、他に一人として出会ったことなどないのだから……。


 これは、その様な人物に出会うことを希求する者が助けを得ようとした結果なのだ。羞恥しゅうちはもう十分に経験してきた。これから何と思われようと、私は構いはしない。だが、これから語られる出来事の当事者に対しては、温かい目でもって見守ってもらいたい。彼等はただ、そこに生きている者である。純粋な気持ちをどこかにたずさえて、この世にしがみついている者である。皆そうであり、彼等もそうなのだ。あなたもだ。そのことを心に留めて頂きたいのだ。いや、しなくてもいい。それもまた、一つの生き方なのだろう。私はあなたを止めることはできない。そして、あなたを突き動かすことも。だが、それでも私は伝えようとするだろう。それもまた、一つの生き方だということだ。


 前置きはここまでにしよう。これ以上は私の話になってしまう。今でさえそうなのだから……とにかく、もう十分だろう。路線図の話に戻るべきだ。そう、そこには様々なる人がいるのだ。今はそれが分かっていればいい。さて、私は少し席を外すことにする。頃合いになれば戻ってこよう。それまでは、しばしの別れとさせて頂く。

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