31話 アトランティア

魔法をかけ終えた琴音たちは小屋の中へと戻る。

「兄さんは外で待っていてください」

暫く外で待っていると女性たちは水着に着替えていた。

「何で水着の格好してるんだ?」

「決まってるじゃない。これから海の中に入るのですから」

「優一さん、どうですか?似合ってます?」

優一は少し頬を赤らめ、目を逸らしながら「似合ってる」と言う。

四年前とは違い琴音もティファリアは、前よりもスタイルが格段に良くなっていた。

鍛錬の成果もあり、引き締まった腹部、張りのある胸とお尻。

おそらく、これが女性の求める理想の体型だろう。

ラティスとルナフィーネは背中を少し気にしていたが、奴隷刻印はもう消えていた。

トラウマというやつなのか、一度刻まれた刻印は見た目では消えようと、まだ心の中では残っている。

琴音とティファリアは二人の背に手を当てる。

「「綺麗な背中ですよ」」

ラティスとルナフィーネの悲しげに曇った表情は明るくなる。

「兄さんも着替えてきてください」

「俺は別にこの格好でも良いけど」

「空気を読んでください」

優一は渋々、琴音に渡された海パンとパーカーを受け取り小屋で着替えた。

            ▽▽▽

ここは海の中。

青く透き通った海水。濁りは無く、多種な魚が泳ぐ。

まるで水族館の中に入っているような光景。

人魚の姿に戻ったイルミの後に付いて行く優一達はその清らかな光景を満喫しながら、人魚の国へと向かっていた。

そう。人魚の国、アトランティア。

下へ下へと行くほど海水の温度は下がっていき、琴音とティファリアは魔法で自分と、あまり泳ぎが得意でない、背に負ぶったラティスとルナフィーネに環境に対応する《耐性魔法》をかける。

そして、優一は気のコントロールをして体温調節をする。

泳ぐこと数時間。

ようやく目に目視出来る距離までアトランティアに近づいた優一達。

その光景はお伽話(とぎばなし)で出てくるアトランティスの用に広大な都市が形成されており、都市を囲うようにバリアが張り巡らされていた。

アトランティアに到着しようとした瞬間、横からもの凄い速さで泳いでくる一匹の魔物がいた。

黒く鋼のような分厚い鱗に大きな翼。刃のように鋭い目つき。

「あれはアルザラム。大昔、神々に寄って封印された破壊の衝動に駆られた邪竜」

イルミは青ざめた表情で震える。

「そんな・・・アイツは祠(ほこら)に封印されていたはず・・・」

優一は感知能力を使うが、それほど魔力が無い事に気付く。

「そんなに強くはなさそうだが」

「恐らく、封印が解けたばかりで力が完全ではないのでしょう」

ティファリアはそう言うと戦闘態勢に入る。

「ティファリア!琴音!こいつの相手は俺がする。二人は皆を連れて先にアトランティアに向かってくれ」

「分かりました」

琴音は優一に《グラビド》を解こうかと言うが、優一は断る。

「鍛錬の成果を試すには絶好の良い相手だ!」

優一の楽しそうな表情を見て琴音はため息を付く。

「兄さん、楽しんでません?あまり相手をなめていると足元をすくわれるよ」

「分かってる」

琴音たちは優一を置いてアトランティアに向かう。

「大丈夫なの?相手は邪竜アルザラムだよ!大昔、海の生き物を絶滅寸前まで追い込んだ魔物だよ」

「心配ありません。優一さんなら不完全な邪竜に遅れはとりません」

優一は腕を組み、堂々と立ち振る舞う。

「この我を一人で相手をすると言うのか?」

アルザラムは優一と対面すると怒りの咆哮をあげる。

4年前に戦ったゴーレムよりもデカく体長は50mといったところだろう。

アルザラムの魔力により海水は薄黒く濁る。

「さあ、やろうぜ!」

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