第5話 勝負

クレメンス山を登り始め、二日がたった。


「なあ、ほんとに登ってるんだよね」

「ええ、そのはず・・・・・」

「流石に、これは予想してなかったな」

アイナとセナが息を切らしながら返事をする。

全員が超越者以上だと言うのにも関わらず、出会う魔物一体一体がとんでもなく強く、しかも必ず複数体で出てくるため、苦戦を強いられていた。


それに加え、最大戦力の一人であるラキナが、肩の上に乗ったまま、ずっと寝ていることも疲れる原因だった。

ラキナは登り始めて、飯の時間に起きては寝ての繰り返しだ。


「おい、ラキナ。そろそろ起きろよ」

「・・・・・!!」

ラキナの体がピクッと跳ねた。


「・・・・おまえ、起きてるだろ」

「くぅ、くぅ、くぅ・・・・・」

「わざとらしいぞ。いいのか?このまま起きないと飯はもう・・・・・」

「!!お、起きるのじゃ!!」

肩の上から飛び降り、普通に歩き始めた。


「アル坊、お主最近、妾に対して扱いが雑になってないか?」

「そんなことないですよー」

そりゃなるだろ、こんな駄龍を敬うことなどできんわ。


「なんじゃ、そのカタコトは。喧嘩売っとるのか?」

「そんなんじゃないですよ。ラキナ様ー」

「よし、買ってやろう」

「お、やるか?」

ファイティングポーズを取ったラキナに、対するようにポーズをとった。


「はいはい、こんなところで二人が戦ったらまた色々集まるでしょ」

「「・・・・・・・・」」

「やめないと、二人のご飯だけ手抜きするから」

「「やめるか」」

卑怯なやつめ!

ご飯を人質に取るとは!!


「どうしても勝負したいなら、周辺の魔物の討伐数でも争ってきたら?」

アイナが提案してきた。


「あ、それいいな。どうする、ラキナ」

「いいじゃろう。それで手を打ってやる」

「私もやりたい!」

アリスも参戦してきた。


「よっしゃ、1番のやつが負けた二人になんでも言うことを一つ聞いてもらうっていうのはどうだ!」

「いいぞ」「いいよ」

3人は、その条件で勝負を開始した。




3人がそれぞれ別の方へと行った後、アイナとセナ、サクラはようやく静かになったことを機に、この山のことについて話し始めた。


「ここ明らかに前と違うな」

「ですね」

「そうなの?」

セナとサクラは何度かこの山に来たことがあった。


「ああ、明らかに魔力の質が違う」

「ですね。前回はここまで魔素も濃くありませんでしたし、ここまで暑くもありませんでした」

まあ、これは『不死鳥』の影響でしょうけど、と。

「そうね。二人が言うのなら間違いないのね」


「でも、魔素が濃くなったらどうなるの?」

「単純に魔物の強さが一段階上がったりするものだが・・・・・」

「あとは、魔力を帯びた素材などが手に入るな」

いかにも、アルが喜びそうな言葉ね。


3人があったであろう方角から、ものすごい爆音や断末魔の叫びが聞こえてきた。

「はあ、始まった・・・・」

「いつも、こんな感じなのか?」

「サクラ、気にしては駄目だぞ」

比較的、普通の3人は、異常な3人を止めることはせず、自由にさせることを決めた。


「それよりも、サクラは日の国出身なのよね」

「ええ、そうですが」

「なんか、面白い話とかないの?」

「面白い話・・・・・」

日の国は基本、鎖国国家であるため世に出ている情報はわずかだ。


「そうですね・・・・・」

サクラは話し始めた。


「日の国には、他の国にはない木が年に一度の季節に、桃色に輝く時があります」

「へえ、桃色に?」

「ええ、私の名前は、その木から取ったものだと、教えられました」

「そういえば、アリスの剣術のなかに、千本桜とか桜吹雪とかあったな」

「アルに付けてもらったらしいよ」

「じゃあ、アルは桜の木を知っていたのでしょうか」

少なくとも王都や聖教国周辺には一本もない木だ。

この大陸のうちその二ヵ国しか行ったことのないアルベルトが桜の木を知っているのは不思議なことだった。


「どこかで聞いたんじゃない?」

「そうかもな」

「・・・・・・・」

サクラは一人納得できないでいた。


日の国にとって桜は、国の象徴。

建国期から国に聳え立ち、桜を中心に国が栄えてきた。

日の国の人にとって、桜の木は、年に一度艶やかにその姿を咲かせ、儚く散ってゆく。

その姿を、人の一生にたとえ、桜の木のように生きろと言われ続けてきた。

桜は、神聖不可侵の領域として、外国には伝わっていないはず。


「ねえ、ねえ、まだ何かないの?」

深く思考の海に沈みかけた時、アイナの声で引き上げられた。

「ほ、他に?」

「ええ、私、外国を知らないから。それに仲間の故郷のことは知りたいの」

「そうですね・・・・・」

サクラはアイナが王族でありながら、旅についてきている理由については聞いている。


「本当は、案内したいのですが、なにぶん今は立て込んでて・・・・・」

「秘宝が盗まれたんでしょ?」

「ええ、コジロウ様が言ってるので心配はしてないですが」


「でも、そうですねー。食事や服装、作法は何もかもが違いますね」

「へえー・・・・・」

それからサクラは、故郷と王都・聖教国の違いを語り出した。

アイナとセナは時折、驚きながらも興味津々に聞いていた。


3人が、魔物の断末魔を肴に、故郷の話に花を咲かせ、はや一時間。

そろそろ他の3人が戻ってくる時間になった。


「お、戻ってきた」

一番乗りはアルベルトだった。


「どうだった?」

「うーん、普通?」

アイナは思った。

アル基準の普通って、どんなもんなんだろうか、と。


次に戻ってきたのは

「なんじゃ、アル坊が先か」

ラキナだった。


「あれ、私が最後か」

少し遅れてアリスが帰ってきた。


「よし、なら討伐してきた魔物の魔石と素材を出して」

アイナは3人の中心に立ち、促した。


「じゃあ、俺から・・・・」

ドサドサっと袋から大量の魔石と素材が出てくる。

我ながら、結構いったなー、と言いながら出しているがアイナたちはすでに少し引いていた。

明らかに、この付近にはいないようなものばかりだ。


「なあ、アル。その”赤い魔石”はなんだ?」

他の魔石よりは小さいが明らかに魔素の濃度が桁違いの魔石を見て聞いた。

「わかんない」

ただただ数をこなしていたら出てきたと言う。

どんな魔物だったのかも覚えていないらしい。


「まあ、いいか」

考えても仕方がないと割り切った。


「次は、妾じゃな」

ラキナも大量の魔石を出した。

中には同じように赤い魔石が混じっていたが気にはしなかった。

アル坊には勝ったな、と胸を張っていた。


「最後は私だね」

最後は、アリスだった。


「「!?」」

アリスが出した魔石を見てアルベルトとラキナは、膝をつき項垂れた。





6人は、全員で晩御飯を食べるためアイナが作った異空間に入り、寛いでいる。

アイナの”捌く者”は相変わらず、半端ないものだった。

今だから、こうして寛げるが最初の頃は、ラキナでさえ、異空間の中に入るなんてことは経験したことがなく空いた口が塞がっていなかった。


そんな中、アルベルトとラキナは二人でぶつぶつ言い合っていた。

「なんだよあの量と質の魔石は・・・・・・」

「妾にわかるか、そんなもん・・・・・」


アリスが取り出した魔石の量は二人を足しても足りず、魔素の濃さで言う質も、二人とは比べ物になっていなかった。

同じ山で、同じ時間でこんなにも差をつけられて二人は落ち込んでいた。


「ほら、二人とも元気出して!」

アリスがご機嫌な様子で二人に言った。

元凶にそんなこと言われても、と二人は思ったが約束は守らねば・・・・。


「「なんなりとっ!!」」

二人は、見事な土下座をかまし、アリスの言葉を待った。


二人の様子を見たアイナたちは失笑していた。




「こんなんでよかったのか?」

「うん」

ラキナに下された言葉は、全力で戦うこと。


二人は、今、アイナが異空間を作り、その中にアルベルトが神力を使い『世界構築』を行なって造った平原にいた。


「では、始め!!」

アルベルトの掛け声とともに二人は力を解放した。


アリスの体からは白銀のオーラが、ラキナからは漆黒のオーラが纏わりつくように全身に漂っていた。

音もなく二人は、同時に駆け出しアリスは剣を、ラキナは龍の鱗で強化した腕をぶつけた。

最初に出会った時ならばこの時点で勝負はついていたが、今は力的には互角だった。


空気が振動し、大気全体を揺らす。

平原は、クレーターだらけになり、無事なのはアルベルトの結界の中にある空間だけだった。


「アリス、とんでもなく強くなってるわね」

「ああ」「あれが、アリスの全力・・・・」

三人は、伝説の黒龍と互角に戦うアリスの強さを改めて認識した。


「でも、まだまだだなー。アリス」

アルベルトは一人、違う感想を漏らした。

「まだ?どういうこと?」

「アリスは確かに強くなったけど、技術がついて行ってない」

もうそろそろだと思うよ、と戦っている二人を見た。



「あ、ほら」

地面にアリスが叩きつけられ、組み敷かれていた。

あれ、関節決められてないか?

ラキナは、アリスの上に乗っているが、その姿はボロボロだった。

所々、斬られ、骨も折れていそうな怪我だった。



「はあ、はあ、はあ・・・・・」

「あー、負けたー!!」

「あと・・・・一歩・・・だったな」

「ほんと、悔しいー!!いけると思ったのにー!!」

どっちが勝ったか分からない様子の二人に、アルベルトが近づき魔道具で追いついていない怪我を治した。


「はあ〜。まだ、敵わないなー」

「もう十分だろ・・・・」

ラキナは、久しぶりに死ぬかと思ったと顔を顰めていた。


「お疲れ二人とも」

「うん」「ああ」

二人の手を取り、立たせ元の部屋へと戻った。



「よし、次は俺が言うことを聞く番だな」

「アル君にはね・・・・」

「おう」

「わたしと・・・・・」

「ああ」

「一緒に寝てもらいます」

「わかった。・・・・・・ん?」


「ええええええええ!!??」

予想外の内容に、流石のアルベルトも驚いた。


え、寝るってなに?

同じ布団でってこと?

なんで、急に?

やばい、なんか緊張してきた。

え、まじ?


アリスを見ると、顔を赤らめる婚約者がそこにはいた。


かわええ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る