第3話 霊峰へ向けて
冒険者ランクを
あの受付嬢が専属として、パーティに就く事になった。
「これから暫く冒険者は休むんでしょ?」
「はい。王都から離れます」
明日から、『霊峰』を目指してこの
存在するかもわからない場所を目指して旅をすることほど、楽しいことはない。
「なら、帰ってきた時は『霊峰』の話、楽しみにしてるからね」
「はい、必ず」
ギルドを離れ、新たにできた商会に魔石などを自動的に売り続ける契約をし、食材もアイナたちが手配をしてくれたため、準備は万全だ。
「よし、じゃあ行くか」
「ちょっと待て」
ラキナが待てをかけた。
「どうした?」
「『霊峰』に行くんじゃったよな」
「そうだけど・・・・」
もしかして、『霊峰』の場所を知ってんのかな。
「聖教国の遺物はどうした?」
「あっ」
やべっ、完全に忘れてた。
「みんなすまん、ちょっとだけ寄り道する」
「いいよー」「いいわよ」
「待て、次で三つ目だったよな」
「うん。そうだけど」
「ならば、そんなに時間はかからんはずじゃ。全部で五つある遺物のうち最後の二つには、リンクしてないからの」
「じゃあ、勝手に跳ばされないってこと?」
遺物の記憶を読み取り終わっても、これまでのように転移はしないということか。
「ならみんなで聖教国に向かうか」
全員を対象に、聖教国へと転移した。
「ラキナも来る?」
「ああ」
英雄の宴で優勝したアリスに場所を教えてもらい、セリカさんに案内してもらって、遺物の場所に着いた。
「教会の地下にあるとは」
セリカさんが驚いた顔で、遺物を見ていた。
「あ、やっときましたね」
「システィーナか」
ラキナと戦ったという、ソロモンの動きを監視していた白髪の女性が声をかけてきた。
「改めまして、アルベルトさん。システィーナです」
「あ、どうも」
お互いに頭を下げ、挨拶をした。
「やっぱりそっくりですね」
「え?」
「いえ、なんでもありませんよ」
口元に手を当てふふっと声を漏らした。
「何しに来た?」
「そろそろ許してくださいよー」
ラキナはまだ許してないようだ。過去、共に命をかけた者同士譲れない物があるのだろう。
「ここにいればセリカが来ると思ったからですよ」
「おまえ、また何か・・・・・」
「違いますよ。ソロモンの目からは解放されたのでセリカと共にこの国の癌を取り除こうと思って」
「システィーナさん」
セリカさんが嬉しそうな声を出した。
「セリカ、よいのか?」
薬物投与をされていたセリカが不安なのだろう。
一緒にいるというのが一度でも敵対したやつなら尚更だ。
「ええ、いいですよ。万が一でもアルベルト君がくれた魔道具もコートもありますから。それにーー
ーーマルスさんを愛した者同士信じてますから」
それが1番の理由なのだろう。
敵として一度は裏切られた形になったが、根の部分は同じ、英雄を愛した仲間なのだ。
「・・・・そうか。お主が良いのなら妾はかまわん」
「なら、僕からは信頼できる人を付けましょう」
ガルムたちに聖教国を拠点にしてもらい、護衛を同時にやってもらおう。
「ありがとうございます」
「アル坊」
「わかった」
ラキナに目で促され、台座のそばに歩いて行った。
「よし、じゃあ行ってきます」
ただ気絶するだけなのだが、意識が完全に過去に飛ぶためそう言いたかった。
羊皮紙を手に取り、意識を手放した。
◇◇
なんだ、この空虚感は。
確かに、マルスの意識に入ったはずだが何も感じられない。
目の前には、イリアやザックハードたちが何かを言い争っていた。
「おい、これ以上は耐えられんぞ!!」
一際ガタイのいい巨漢が机を叩きながら周りに訴えている。
「そんなこと誰だってわかってるわよ!!でも、早くしないと全てが無駄になるの!!」
システィーナさんだろうか、白髪の女性が言い返していた。
その言葉をきっかけに巨漢と意見を同じにする者とシスティーナと同じにする者で言い争いが始まった。
内容は聞こえてこない。
イリアが魔法でマルスの耳の周辺の空気の流れを操作していたからだ。
「ごめん、マルス」
声は聞こえなかったが、虚になっている視界でそれだけが見て取れた。
言い争いはなかなか終わらず、終わった後には、巨漢と意見を同じとしていた人たちが、拠点である城から出て行った。
ザックハードやエミリアは残り、深刻な雰囲気の中、誰も声を上げなかった。
あの巨漢たちが言っていたように追い詰められているのは間違いないようだ。
「マルス、調子はどう?」
「あ・・・・・あ・・・・・」
あれ、声が出ない。出そうとするが、どう頑張っても出てこない。
「ごめんね、私たちのために・・・・・。きついよね」
イリアが苦しそうな声を出しながら抱きしめてきた。
体もなかなか動かせない。
ゆっくりと手を動かし、イリアの背中に手をまわした。
イリアが力をさらに込め、抱きしめてくるがさっきから感情が動かない。
ザックハードたちの会話が聞こえてくる。
「やはり、もう限界が近いのか」
「そりゃそうよね。ソロモンを倒したのはいいけどその魂がマルスに・・・」
ソロモンを倒したということは、最高神と戦う前か。
それに魂がマルスの中に入ったとはどういうことだ?
この、感情が動かないのはそのせいか?
この後、どうやって最高神と戦ったんだ?
「マルス、今日も魂を分霊するわね。あなたが望んだ通りに」
分霊って、魂を切り取るのか?
そんなことをしたらますます、今のマルスが・・・・・。
そういうことか。
マルスが望み、イリアが切り取った魂はどこかにあり、魂のほとんどをソロモンに取られたマルスが現代において、敵になってるってことか。
切り分けた魂は、どこにあるのだろうか。
そう考えているうちにイリアがマルスの胸に手を当てた。
体の中から何かが出ていく感じがした。
これは、きつい。
体の中から光の球が出てきて、イリアが手にもつ翡翠色の小瓶の中に入っていった。
「マルス、ありがとうね。何年後でもいい。いつかまたあなたのそばに行くわ」
イリアが口づけをし、マルスの前から離れた。
そこで、意識は途絶え現代に戻る感覚がした。
◇◇
「うっ・・・・・」
意識が覚醒した。
「おい、なぜ泣いておるのじゃ?」
「え?」
目を擦ると手には涙がついていた。
「何を見たんじゃ?」
「いや・・・・・」
あの場にラキナはいなかった。
知っているのだろうか。
「システィーナさん」
「はい?」
あの場にいたであろうシスティーナさんに聞いてみる事にした。
「巨漢の方たちと言い争いをした時のことを覚えてますか?なんか、もう限界だとかなんとか」
内容は、知ることができなかったため、それしか説明の方法がなかった。
「まさか、”分霊の儀”の時ですか!?」
「たぶん?」
”分霊の儀”が最後のアレだとすればそうなのだろう。
「・・・・・すみません。まだ、教えることはできません・・・」
「そうですか・・・・・」
やはり、デリケートな部分なのだろう。
まあ、あの時代を生きた人はラキナを含め、秘密主義だ。
今更、何かを隠されたところで気にしない。
「じゃあ、行くか」
「・・・・・そうじゃな」
セリカさんたちと別れアリスたちの元へ向かった。
歩き始めた時、ポケットの中に何かが入っている事に気がついた。
「ん?」
なんだこれ。そう思い手を突っ込んで取り出してみる。
手に取ったのは、
ーー翡翠色をした小瓶だった・・・・・。
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