閑話 アイナの運命の日
私は、アイナ・フォン・シュトベルト。
この国の王族であり第一王女。王族としてどこかの貴族と婚約し、子供を作って政事に徹する人生を送るものだと思っていた。
しかし、あの日から全てが狂った。王国に悪魔が現れた。
悪魔は、長くにわたって王族に仕えてきたエリスが難なく討伐した。
私は安心して悪魔に近づいてしまった。悪魔の体が霧に変わり私の中に入ってきた。
その日から、頭の中で悪魔の声が響き、身体中に激痛が走り続けた。
回復魔法をかけることで少し楽になることが分かってからは、MPがある限りかけ続けた。
今思えば、そのおかげで回復魔法のLvが上がったのだ、皮肉だが感謝しなければいけない。
でもいくら楽になると言っても、限界がある。
日々悪魔に体は蝕まれていき、痛みはましていく。
医者にも、もう長くは持たないとも言われた。
学校にもいきたくないと両親に言った。
親しくなったとしてもどうせすぐに会えなくなる。
それならば、最初からそういう関係を気づかなければいいのだ。
外の人との関わりは唯一、王城で開かれるパーティぐらいだ。
最初は、誰もが繋がりを持とうと媚を売ってきた。誰も私を見ずその後ろにある王家という大きなものが欲しいのだと、幼いながらも分かった。
しかし、それでもよかった。悪魔憑きとなったことが知れ渡るとそれだけで王族の立場が悪くなり、王位を狙う貴族につけ入れられる。そうなると、私には価値がなくなってしまう。それに私は、恐怖を感じていた。
噂というものはどこからか流れるもので、それが王家のものとなればほぼ真実に近いということ。
私の悪魔憑きの噂がどこからか流れ、王家主催のパーティでも誰も話しかけてくれなくなった。
いつも遠巻きに見られ、中には腫れ物を見る目を向けてくる貴族もいた。
私は、いつからか公の場に出ることはせず、会うのはエリスや事情を知るメイド、それから両親だけだった。
悪魔憑きになって蝕まれ続けて数年、一二歳になった時、エリスに連れられあの二人が来た。
一人は、珍しい黒髪にパッとしない顔、もう一人は今まで見たこともないような整った顔に真っ赤な髪。この二人がなんなのか、自己紹介を聞いて分かった。黒髪の方はアルベルトと言って、今年入学の歳にもかかわらずエリスと同じ超越者らしい。信じられなかったが、エリスが頷くのを見て納得せざるを得なかった。
赤髪の方はアリス。なんと勇者らしい。勇者候補と言われるユリスとは何回かあったことがあるが彼女とは何かが違った。勇者を公言し認められれば、王家お抱えとなり国のため世界のために戦い続けることを余儀なくされる。しかし、そんなものに興味はなさそうだ。彼女の目には、常に少年の姿が写っているそんな気がするのだ。
しかも、少年は私の体のことを一眼で見抜きこんなことを言った。
「私が治せるといえば信じてもらえますか?」
何を言っているんだこいつは、と思った。
私を散々苦しめ、人生を狂わせてきたこの悪魔憑きを、今日初めて会った子供が治せると言ってきたのだ。
父も母も目を見開いていた。それに、彼らをこの中で一番知っているだろうエリスでさえも目を見開いていた。
治せる訳が無い。
しかし父は、本当にできるのかと少年に聞き返していた。しかも涙を流しながら。
悪魔憑きになった時にすら涙を見せなかった父が涙を流し、少年に頼んでいた。
少年は、必ず治すと王族の前で約束をした。
これまで王家は約束というものをどんな些細なことでさえ大切にしてきた。
それは、300年前の混沌の時代に英雄とある約束をしたからだという。
その内容は、王のみに伝えられ守られてきた。
少年は知ってか知らずか、王族の前で約束をした。
少年は父に向けていた視線を私に向けた。
その瞬間、恐怖を感じた。悪魔に取り憑かれた時以上の恐怖を。
その目には、何が見えているのだろう、私の全てを見られている気分だった。
「アイナ様、どうか私を信じていただけませんか?」
そう言われたが、先程の恐怖で頭が回らなかった。
かろうじて
「何をするの?」
と答えた。
魔石が・・・・・と話していたが詳しくは覚えていない。
ただ、それがなくなれば治る、そう聞いた時初めて彼に縋った。
「お願い・・・・・助けて・・・・」
◆◆
目が覚めた時、外は日が沈みかけ、そばには母が寝ていた。
目を腫らしているあたり、泣き疲れたのだろう。
その姿を見て、助かったのだと確信した。
あの時、少年、アルベルトに手を向けられた瞬間、体の全てが、精神までもが掴まれた感覚がした。
今までこの時間帯は、激痛で起き上がることすら不可能だったが、今は痛みはなく心が和らいでいる感じがする。
「ん、ん〜」
母が起きたようだ。
「おはよう、お母さん」
それを聞くと母は満面の笑みで
「おはよう、アイナ!」
その後、家族やメイド、エリスを交えちょっとしたパーティが開かれた。
みんな泣きながら、私が悪魔から解放されたことを喜んでいた。
私は、みんなの姿を見て、こんなにも愛されていたのだと思うことができた。
今日は、私にとって運命の日だ。
悪魔から救われ、人生も救われた。
こんなにも嬉しい日はないだろう。
父も今まで以上にはしゃいでおり、滅多に飲まないお酒に酔っていた。
母に聞いた話だと、明日またアルベルトが来るようだ。
王家からお礼をするらしい。
私は、母にあることを頼み込んだ。
すると母は、喜んでその願いを聞いてくれた。
明日が楽しみだ。
今日は、これまでとは違う意味で眠れそうにない。
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