―72― 空間魔術
その後、
「よく、こんな強い魔物の討伐に成功しましたね……」
受付嬢には非常に驚かれた。
「たまたま運がよかっただけですよ……」
「えっと、運がよかっただけでは説明できないような……。だって、あなた方まだEランクですよね」
そういえば、ランク制度なんてあったな。
「ほ、本当に運がよかっただけです」
深く突っ込まれても面倒だから、なんとかごまかそうとする。
「……そうですか、ひとまず皆様のランクをDにあげておきますね。
「いえ、ありがとうございます」
というわけで、僕、オロバス、バルバトスはランクがDになった。まぁ、ランクがあがったから、なにがいいのかよく知らないのだが。
とはいえ、
◆
翌日、ガミジンとバルバドスの退去を行なうことにした。
「クーン」
と、ガミジンが寂しそうな鳴き声を出して寄り添ってくる。
「また、そのうちに召喚してやるからな」
と言って、撫でる。
悪魔は同時に三体までしか召喚できない以上、こればかりは仕方がない。
召喚したときは、またお肉を食べさせてやろう。
「バルバドスも無理して付き合わせて悪かったな」
「いえ、そんな気にしないでくださいよ。意外と楽しかったですし」
「聞きたいんだが、ガミジンみたいに他にも動物の姿をした悪魔はいるのか?」
「ええ、いますよ。例えば、第24位のケルベロスとか」
ケルベロスか。僕でも聞いたことがあるくらいには有名な悪魔だ。
確か、頭が3つある犬の怪物だったと思う。そうか、ケルベロスも魔導書『ゲーティア』で召喚できるのか。
「なら、また通訳のために召喚することがあるかもしれないから、そのときはよろしく頼むな」
「ええ、わかりました」
というわけで、ガミジンとバルバドスは退去していった。
さて、恐らく寂しがっているだろうクローセルとフォカロルを召喚しようと思うが、その前に――。
「確か、序列第70位のセーレだったか」
以前、序列第2位のアグレアスから土の魔術を教わったとき、退去際にセーレという悪魔の召喚をおすすめされたのを思い出す。
ずっと、後回しにしていたが、そろそろ召喚しても良い頃合いだろう。
ってなわけで、早速召喚にとりかかる。
「――我は汝をノーマンの名において厳重に命ずる。そして我が願いを現実のものとせよ。来たれ――序列70位セーレ!」
詠唱を終えると、いつも通り魔法陣が光り出す。
そして、人影が現れた。
「はじめまして、セーレと申します」
セーレと名乗った悪魔は背が高く非常に美しい女性だった。
「えっと、はじめましてノーマンです」
「存じております。あなた様に召喚されるのを待ち望んでおりました」
「そうなんですか……」
「それで、わたくしはなにをいたせばいいのでしょうか?」
「えっと、セーレさんの得意な魔術を僕に教えてほしいのですが」
「なるほど、そういうことですか。ですが、わたくしの魔術は少々特殊といいますか、覚えるのは難しいかと」
「そうなんですか。だったら、降霊術を使えば」
「降霊術。あぁ、なるほど。わたくしを降霊なさるということですね。確かに、その方法ならわたくしの魔術を完璧にとはいかないでしょうが、ある程度なら再現することは可能かもしれないですね」
ふと、セーレと話していて、思ったことが一つある。
この悪魔、すごく聞き分けがいいな。
今まで、いろんな悪魔と出会ってきたが、どの悪魔も一筋縄でいかないやつばかりで、散々苦労させられてきた。
なのに、この悪魔はそんなとことが一切ない。
順調すぎて、逆に不安になるぐらいだ。
「あの、ノーマン様。どうかされましたか?」
そんなことを考えていると、セーレに心配される。
「あぁ、すいません、気にしないでください。それで、セーレさんの魔術って、一体どんな魔術なんでしょうか?」
「わたくしの魔術は一言で申すなら、空間魔術です」
「空間魔術?」
「はい、異次元の空間を拡張することで、中にいろんな物を収納できるんです。アイテムボックスといえば、伝わりやすいでしょうか」
つまり、アイテムボックスの中に入れることで、いろんな物を大量に持ち運べるってことだよな。
「それってけっこうすごい魔術ですよね」
「そうかもしれませんね。わたくしの魔術は、いろんな人に大変ご好評いただいていますので」
「そんなすごい魔術を簡単に僕に教えてしまってもいいんですか?」
「はい、わたくしはこの魔術で誰かの役に立つのが生きがいなんです!」
笑顔でセーレはそう口にした。
その笑顔がすごく眩しい。
ってなわけで、空間魔術言い換えるとアイテムボックスを覚えることになった。
ただ、空間魔術は非常に難解な術式を元に構築されているようで、これまでと違って一筋縄ではいかなかった。
今までのように降霊術を使えば、簡単に理解できるかというとそうでもなく、セーレの一部を降霊させても理解するのが難しく、空間魔術を覚えるのに難儀させられた。
ただ、セーレは非常に献身的で僕が理解できるまで何度も諦めずに教えてくれた。
「セーレさんは、えっと悪魔にこういうことを言うのは非常に失礼なのかもしれませんが、すごく優しい方ですね」
「ありがとうございます。ただ、わたくしは純粋に自分が創った空間魔術で人の役に立てるのが好きなだけです。それに、ノーマン様は大変物覚えがよいので教えがいがあります」
「それにしては、随分覚えるのが苦労していますけど」
「いえ、人間で空間魔術をこれほどまでに理解できる方は中々いないですよ」
確かに、空間魔術について理解している人なんて滅多にいないとは思うが。
「僕の頭がいいのではなく、セーレさんの教え方が上手なだけだと思いますよ」
「あら、ノーマン様は謙遜がお上手なんですね」
という感じで、セーレによる空間魔術の講義は続いた。
そして、一週間後――。
「できた……っ!」
僕が腕を伸ばした先には、異次元へと繋がる穴のようなものが広がっていた。
この穴の中に、物をしまうことができるってわけだ。
セーレの一部を降霊した状態でないと使えないという制限はあるが、これでやっと空間魔術を使うことができる。
「ありがとうございます、セーレさん!」
嬉しくて僕は思わずセーレの手を握ってしまう。
「いえいえ、わたくしの方こそお役に立てたようでなによりです」
セーレとのやり取りは珍しく何事もなく順調に事が運んだのだった。
他の悪魔とも、こんな風にやりとりができれば楽なんだけどなぁ。
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