―44― 流石に

「うわぁああああああああん、わたし、すごく寂しかったんですよぉおおおおおおおお!」


 学校を帰ると、僕は早速クローセルを召喚した。

 召喚されたクローセルは泣きながら、僕に抱きつく。


「だからクローセル。無闇に僕に抱きつくのは……」


 やめてほしいんだが。

 クローセルの柔らかいところが当たって、うん、やばい。


「だって、一週間も会えなかったんですよ。わたし、こんなに待たされると思ってなかったですもん」


 泣きながらクローセルは訴える。

 確かに、土の魔術の特訓をしていたおかげで一週間以上、クローセルを召喚できなかった。

 クローセルには寂しい思いさせてしまったな、と思う。

 僕はそっとクローセルの頭を撫でる。

 すると、クローセルは嬉しそうに「ふへへ」と笑った。

 その笑顔に、僕はドキッとさせられた。

 かわいいとか思ってしまったからだ。


「だから、ご主人様が嫌がっているのに抱きつくのはやめてください」


 と、いつもの如くフォカロルがクローセルを引き剥がそうと引っ張る。

 それを契機にフォカロルとクローセルの喧嘩が始まった。

 またか……、とか思いながら僕はそれを眺めていた。



「それで、いい加減オロバスを探そうと思うんだが」


 2人の喧嘩が収まった頃合いを見計らって、僕はそう提案した。


 フォカロルとオロバスの3人で行商人の護衛という依頼を行ったさい、寝ていたオロバスを置いてきてしまった事件があった。

 それ以降、オロバスは行方不明のままだ。

 まぁ、悪魔は食べなくても平気らしいし大丈夫だと思うんだが、流石にこのまま放っておくわけにはいかないだろう。


「あんな無能、わざわざ探す必要ないと思いますが」


 と、言ったのはフォカロルだ。

 肝心なときに寝ていたオロバスをフォカロルは無能と蔑んでいた。


「わたしもわざわざ探す必要ないと思います。どうせそのうちひょっこり戻ってくるでしょう。それにわたし、オロバスさんのことあまり好きじゃありません。オロバスさんが退去したがらないせいで、わたしが退去するはめになるんですもん」


 クローセルもあまりオロバスを探すのに乗り気ではないようだ。

 2人がこう反対するもんだから、今までオロバスを探すことができなかった。

 といっても、全くなにもしていなかったわけではない。

 行商人に連絡をとって、オロバスがいないか聞いたこともあったし、下町に行っては通りすがりの人にオロバスのような人を見かけたことがないか聞き込みも行った。

 といっても、オロバスが霊の状態でいたら、普通の人には見えないため、聞いて回るのはあまり意味がなかったかもしれないが。


「てか、人探しが得意な悪魔とかいないの?」


 ふと、僕は思ったことを言ってみる。


「いないことはないですね」


 と、フォカロルが言った。


「え!? 嫌ですよ! 新しい悪魔を召喚しようとしたら、またどっちか退去しなきゃいけないじゃないですか!」


 クローセルがすごく嫌そうな顔をする。

 どうしたものかな、と思う。


「あの、フォカロルお願いできないかな。オロバスが見つかり次第すぐ召喚するからさ」


 前回退去したのがクローセルだし、ここは公平を保ってフォカロルに退去をお願いする。


「ご主人様がそうおっしゃるなら仕方がありません」


 渋々といった様子で、フォカロルが了承する。

 といっても今日は遅いので、探すのは明日にしよう。


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