―33― 護衛任務

「それで、君たちか。今回、護衛してくれるというのは」


 依頼書の書いてあったところに行くと、そう言って出迎える複数の行商人の姿があった。

 中には女子供を乗せた荷馬車もあり、そこそこ大規模な移動をするらしいことがわかる。


「ええ、そうです」

「見たところ子供じゃないか」

「ですが、僕は魔術師ですし、彼女も優秀な魔術師ですのでご安心していただけるかと」

「これはこれは魔術師の方々でしたか。それでしたら安心だ」


 というわけで、行商人の護衛が始まった。


 行商人が荷台を引いた馬車を引き、僕らはその荷台に乗り込む形で馬車は進んでいった。

 聞くところによると、途中隣町に行く際に必ず通らなくてはならないオスクロ森林に魔物が出現するらしい。

 それゆえに、ギルドに護衛を頼んだとのこと。


「まぁ、滅多に魔物がでる森林ではないんですがね」


 と、行商人の一人がそう口にする。

 もし魔物が出現しなかったら、僕らの出番はないかもしれない。


 ちなみに、オロバスは荷馬車の中で盛大に眠っていた。

 どうやら酒を飲んだのが原因らしい。

 こいつ、荷馬車から放り出してやろうか、という考えが一瞬だけ頭の中をよぎる。


「フォカロル、少しは僕に風の魔術を教える気になった?」

「意味がわかりません。なぜ、わたくしがその気になると思ったのですか?」


 やっぱり、そう気が変わるわけがないか。


「これを通して、魔術が人の助けになることを伝えられたらな、と思ったんだけど」

「別に魔術がなくても人を助けることは可能です。現に、あのギルドにいた人たちのほとんどが魔術師ではないと聞きました」


 確かに、冒険者のほとんどが魔術師でない。

 彼らは剣術や槍術などを用いて魔物に対抗する。


 そもそもの話、魔術とは魔力を用いて現象を起こすことなのだが、実のところ、魔力は魔術師だけが持っているわけではない。

 通常、人が体を動かしたり、なにかを考えたりする、という誰にでもできる行為自体にも魔力が必要と言われている。

 では魔術師とそれ以外とでは、なにが違うかというと魔力の絶対量である。

 魔術師は莫大な魔力を持ち合わせているので、その魔力を用いて精霊などを操ることができるわけだ。


 で、彼ら剣士や槍使いも、実を言うと己の持つ少ない魔力を活用している。

 特定の呼吸方法や、型と呼ばれる特定の動きを用いることで少ない魔力を増大させ、肉体を強化するらしい。

 彼らはそういった一連の動作をマナ操作と呼ぶ。

 マナと魔力は結局、同じのを指すわけだが、マナという呼び方に彼らなりのポリシーがあるらしい。

 熟練の剣士や槍使いだと、並の魔術師を圧倒するものもいるんだとか。


 余談だが、マナ操作を魔術師たちは強化魔術と呼ぶ。

 だが、強化魔術は野蛮な術だとされており、あまり使い手がいない。僕ももちろん、強化魔術なんて覚えた試しがない。


「しかし、一向に魔物が出る気配がありません」

「まぁ、でないにこしたことはないんだけどね」


 フォカロルとそんな話をする。

 と、そのときだ。


「きゃぁあああああ!!」


 悲鳴が聞こえた。

 別の荷馬車からだ。

 僕は慌てて、立ち上がる。

 けれど、僕よりフォカロルのほうが反応が早かった。

 彼女は転がるように荷馬車を降り、悲鳴のほうへと駆けていった。


「ふんッ!」


 彼女は息を鳴らす。

 すると、両手から風を出し、今にも子供に飛びかかろうとしていた魔物を吹き飛ばす。


巨大爪狼ガラ・ローボか」


 倒れた魔物を見て、僕はそう判断する。

 巨大爪狼ガラ・ローボの特徴。それは集団で人を襲うこと。

 案の定、森の茂みに多数の巨大爪狼ガラ・ローボが潜んでいた。


 これは少し厄介なことになったかもな。

 僕は内心そんなことを考えていた。

 ついでながら、オロバスはグースカと眠っている。

 起きる気配は一切なし。


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