―07― 序列第55位オロバス
「えっと、あなたがオロバスさんですか?」
目の前に召喚された馬人間に僕はそう訪ねた。
「おぉー! マスターなのに、なんて礼儀正しい子なんでしょう! わたくし超ぉおおお感動してしまいましたぁあああ!! そして、あなたの質問にはもちろんイエス! わたくしこそが、マスターの忠実なるしもべであれ、奴隷でもあるオロバスでぇす!」
なんか、この人やばい人だ。
あ、悪魔だからやばい悪魔か。
ただ敬語でしゃべっただけで礼儀正しくて感動って、おかしすぎるだろ。
「それで、マスター! わたくしになんのご用でしょうかぁ! 命令とあれば、床掃除でもトイレ掃除でもなんでもこなしますよぅ! それとも、マスターの体を掃除しましょうか! わたしく、この長い舌が自慢でして、この舌をレロレロレロってさせればどんな汚れも落ちる優れ物なんですぅううう!」
オロバスさんはそう言って、長い舌を出してくねくね曲げ始める。
うわぁっ、素直にきもい。
「えっと、オロバスさんには……」
「オロバスさん! 今、オロバスさん! と言いましたか。この愚生にさん付けとは、なんて寛大なマスターなんでしょう。わたしく感動で感動で、涙が止まりません! ですが、マスター、わたくしにさん付けなどの敬称、不要でございます! わたしくことはどうかオロバスと呼び捨てでお呼びください!」
「それじぁ、オロバス……」
「おぉーっ! マスターがわたくしの願いを聞いてくれるとは! なんて感動的な瞬間でしょうか!」
そう言って、オロバスはオロオロと泣き始める。
やばい、この悪魔、一緒にいるだけで疲れる。
フルカスさんはオロバスは忠実な悪魔だと言っていたけど、まさかここまでとは……。
ちょっとドン引きするレベルだ。
「それで、マイマスター。このわたくしめに一体どのような命令をくださるのでしょう」
そう言って、オロバスは片膝をついて頭を下げた。
「えっと……」
それから僕はオロバスに説明した。
発火魔術を使えるようになりたいこと。
そのためには、序列第23位アイムを召喚する必要がある。
けれど、アイムは少々厄介な性格をしているため、先にオロバスを召喚したほうがいいとフルカスさんに助言を受けたことも。
「確かに、悪魔の中にはマスターに害をなす身の程知らずもいますからね。ですが、安心してください! このわたくしがいれば、マスターに傷1つつけさせやしないと、誓うことができます!」
オロバスは大見得を切った。
このオロバスは性格に多少難があるかもしれないが、召喚者に対して忠実である、という一点に関しては信用できる、そんな気がした瞬間だ。
「だけど今の僕では、一度に一体までしか悪魔を召喚できないな……」
もし、アイムを召喚させようした場合、オロバスを一度退去させなくてはならない。
そうなった場合、僕は無防備だ。
「マイマスター、1つ助言をしても差し支えないでしょうか?」
「助言? うん、ぜひ聞きたいな」
別に助言を言うぐらい、僕の許可なくいえばいいのに。
「では、このわたくし、特訓をすべきではないかと愚案いたします」
「特訓か……」
まぁ、必要なことだよな。
悪魔召喚に関して、まだまだ知らないことも多いし。
「よし、じゃあ特訓をしよう」
「マスターが私の愚考に賛同なさるとはっ!! なんて感激なんでしょう!」
だから反応が一々大仰すぎる。
「だけど特訓って具体的になにをすればいいんだ?」
「マイマスター、このわたくしめに助言の許可を願えないでしょうか?」
「あの、オロバス。助言をするのに、一々僕の許可とらなくても言っていいから」
「な、なんと! 愚生にそのような許可をいただけるとは! 我がマスターはなんと寛大な方なのか!」
とか言って、オロバスはまた泣き始める。
あ、今ちょっとイラッとした自分がいたな。
「それでオロバス。助言とやら教えてくれないか」
「はっ。やはり反復練習こそ、特訓の基本かと思います」
「反復練習か……」
「やればやるほど、短い詠唱でもできるようになりますし、マスターなら無詠唱でも魔術の行使が可能になるかと」
「そっか。じゃあ、召喚魔術を何度も繰り返してみよう」
オロバスの助言通り、反復練習をすることにする。
けど、今の僕は一度に一体までしか召喚できない。
だから召喚を繰り返すには、まずオロバスを退去させる必要があるな。
「よし、じゃあ、まずオロバスを退去させるか」
「ま、マスター! わたくしめを退去させるのはどうかおやめいただきたい!」
「えっ、でも、またすぐ召喚するし……」
「それでも嫌でございます! わたくしはマスターと片時も離れていたくないでございます!」
「でも、召喚魔術を練習したいし……」
「で、でしたら! 拘束の呪文を練習するのはどうでしょうか! わたくし拘束されるのは全く問題ありません! むしろ大歓迎なぐらいであります!!」
「なら、拘束の呪文の練習するか」
まぁ、拘束の呪文もしなくちゃならないのは事実だしいいか。
「マスター! わたくしのようなものの願いを叶えてくれるとはなんて素晴らしい方なんだぁ!」
またオロバスは大仰に感動していた。
と、そうだ。
「そろそろ学校に行かないと」
家を追い出されたり悪魔を召喚したりと、色々あったから忘れていたが、そろそろ学校に行かないと遅刻してしまう。
こうして実家を追放された身ではあるが、学校を退学になったわけではないので通っても問題はないだろう。
「ほう、学校ですか……」
オロバスは興味をもったようにそう呟く。
「オロバスはここで待っていて」
オロバスを学校に連れて行くと面倒そうだしな。
「はっ、つまりこの部屋の警護をしろ、との命令ですね。かしこまりました」
さっき「マスターと片時も離れたくない」と言っていたので、もしかしたらついて行くとわがままを言うのかもしれないと思ったが、すんなり頷く。
あくまでも退去が嫌なだけのようだ。
「マスター、1つお願いが」
「ん、なに?」
「よろしれば実体化の許可をいただきたいのです。わたくしが警護している間、不審な人物が侵入した場合実体化しないとが捕まえることできないのでございます。それに、できれば警護している間、マスターの部屋の掃除などを行いたいのでございます!」
確かに、実体化できないと色々と不便なのは間違いないようだ。
「でもなー、オロバスの姿を他の人に見られるわけにいかないしなぁ」
誰かが馬人間と遭遇したら、大パニックになるのは間違いない。
「それなら安心してください! わたくし実体化すると、普通の人間のような姿になりますので!」
「えっ、そうなの! やってみて」
「かしこまりました!」
そう言ってオロバスは実体化した。
途端、馬人間から普通の人間に変身する。
人間になったオロバスは中々ダンディな姿をしていた。
「まぁ、これなら問題はないか。じゃあ、極力他の人には見られないようしていてね」
「はっ、かしこまりました。では、行ってらっしゃいませ。マイマスター」
オロバスはそう言って、僕のことを見送ってくれた。
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