天国に一番近い
眠
第1話
「闇の中でしか暮らせず、人を襲うからこそ神に忌み嫌われる存在のように扱われているけれど、僕たちの食事において相手の生命を絶つ必要なんて一切ないんだよね」
彼は言った。
「ホラー映画や一部の伝承ではおどろおどろしく描かれているけれど、人間が死ぬほどの量の血を一度に吸い尽くすなんて無理だよ。コップ一杯程度さえもらえればそれで充分。だから僕が食事をするために人を殺すなんてことはない。吸血鬼に噛まれると吸血鬼になるだなんて話も迷信だ。ほら、現に君は吸血鬼になっていないじゃないか。
肉食動物は勿論のことながら、草食動物だって結局は植物の生命を絶って食事をしている。まあ細かいことを言えば、果物だとか、トマトのように果実をつける野菜なんかだったら植物を殺すことにはないだろうけど、葉物野菜や根菜類を食べようとすれば即ちその生命丸ごとを食べることになるだろう?
生き物を殺したものは地獄に送られる。なら生きていく上で他者を殺す必要のない僕はある意味、人間よりもずっと天国に近い存在だと思わないかい?」
「それとお前が人参を残したことに何の関係があるんだ」
「吸血鬼に人参を食べさせようっていう君の考えはおかしいということだ」
彼は皿に残された人参になど見向きもせず、はっきりとした口調で俺にそう言った。
「ピーマンは食えるのに人参が食えないってどういうことだ。好き嫌いしてるからそんなに顔色が悪いんだろ。残さず食べろ」
「僕が色白なのは生まれつきだ。それに好きとか嫌いとかそういう問題じゃない。僕は根菜類が食べられないって前にも言っただろう。君は飼っている猫に無理矢理玉葱を食べさせるのか?」
「猫に玉葱は毒だろ」
「吸血鬼に人参も毒なんだ!」
彼は苛立ち混じりに指先でトントンとテーブルを叩いた。
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