第168話 貫け!渾身の一撃!

 鎧から噴き出した、数百本にものぼる灰色の槍!

 これぞ、『全武装形態フルアームドスタイル』のバージョンⅡ、名付けて『千槍戦陣せんそうせんじん』!


 それらは激しい勢いのまま、ガチガチと音を立てて組合わさり、螺旋状に渦巻く円錐形をなしていく!

 さながら、無数の槍で構築された巨大なドリルを思わせる形が出来上がり、それを見た全員が一瞬だけ言葉を失っていた。


 これこそが……『僕達が考えた最強の攻撃』、名付けて『千槍戦陣せんそうせんじん螺旋突貫らせんとっかんの型』! 

 いつだって、男の子の最強武器はドリルだよな!


 そうして、完全に防御を度外視した攻撃オンリーの形体になった俺達は、体内で力を増幅させるように力を練っていった!

『もっと……もっとじゃ……』

 ラービが蟲脳からさらに力を引き出して、俺に循環させる!

 空気が震え熱を帯びてゆき、俺の回りの大気が陽炎のように歪んでいった。

 わかる……わかるぞ……。

 今まで培ってきた全ての力が、俺の中で渦巻いているのが!

 この力であの技を成功させる事ができれば……いや、成功させてバロストやつを倒す!


「よおし!ブレード転回!」

『イエッサー!』

 俺の雄叫びに骸骨兵達が返事を返し、ドリルを形成する無数の槍の穂先がギラリと輝き、火花を散らしながら回転を始める!

 それは徐々に速度をあげて、空気を切り裂く金属音を響かせながら力を増幅させていった!

 よしっ!あとは推進力を確保して……そう思った時!

 俺の中の骸骨兵達から、思わぬ報告が届いた!


『い、いかんぞ、主殿!ドリルの回転に思いのほか力を持っていかれて、特攻するための推進力に回す力が残ってない!』

 な、なんだってー!

 それじゃ、どうやってバロストの野郎に攻撃すれば……。

 まさか、このままトコトコと歩いていってぶつけるしかないと言うのかっ!?

 い、いや……さすがにそれじゃあ簡単に避けられるだろうし、なにより一撃必殺の攻撃には成りえない上に……格好悪い!

 かといって、ドリルの回転を弱めれば同じく奴の肉体を破壊するには至らないだろう。

 くっ……どうすれば……。


『ここは私に考えがあります!』

 なんだって、それは本当かい?

 手詰まりかと思えた、その瞬間、レイが自信ありげに頼もしい声をあげた!

 それで、いったいどんな秘策があるっていうんだ!


『英雄達の力を集結させます!』

 え?

 レイはそう言うが早いか、俺の背面から上半身だけを浮かび上がらせ、後方でキャロリア達を守っている各国の英雄達に向かってコードを伸ばしながら叫んだ!

『皆さんの力が必要です!このコードを神器に接続して、私達に力を送ってください!』

 一瞬、レイの素性を知らない者達がビクリとしていたが、手元に届いたコードにハッと我に返る。


「ふっ……ふふふ。我々に踏み込む余地のない戦いかと思っていたが、こうした形で力になれるならば望む所だ!」

「俺達の力をお前に託す!頼んだぞ、カズナリ!」

「私達が助力するのですから、必ず仕止めてください」

 まず顔見知りの英雄達が神器との接続を率先すると、続々と他の英雄達もレイのコードを自らの神器に繋いでいく!

 そうして、後方の全英雄が接続を完了し、準備は整った!


『おおぉぉぉぉぉっ!』


 地鳴りを思わせる彼等の雄叫びと共に、とんでもない魔力が濁流となって俺へ流れ込んでくる!

 ぐおおっ、さすが英雄!

 全員分がひとつになると、マジで洒落にならない莫大な力が集まってくる!

 俺はそれをなんとかコントロールして、必要な流れを作り出していった!


『その調子です、御主人様!』

 力の奔流が漏れ出さないよう、押さえにかかっているレイ達が声をかけてくる。

 おれも辛いが、蓋となっているレイにも、かなりの負担がかかっているだろう。


『……まもなく力の臨界点じゃ。もう少し耐えてくれ』

『フ、フフ……まだまだ余裕ですよ、お姉様』

 励ますラービに、強がって見せるレイ。

 女衆がこんなに頑張っているんだ、これはもう絶対に決めて見せなきゃ格好が悪すぎるぜ!


『……何を企んでいるのかな』

 『千槍戦陣』からの英雄達の力を集中し、大技を繰り出そうとしている俺達を眺めながら、バロストが楽しげに尋ねてくる。

 今現在も、イスコットさん達とバチバチやりあっている最中だというのに……まったく、不死身で超再生持ちは余裕だな!

 しかし、そんな奴でも何か感じるものがあったのか、標的を俺達に変えて近づいてこようとした。

 ちょっと待ってて! もうすぐだからっ!


「お前の相手は、僕らがしてやる!」

「こんな良い女を無視するなんて、野暮な男ね!」

 イスコットさんとマーシリーケさんが、バロストの足を止めるべく果敢に挑んでいく!

 襲いかかる触手を迎撃し、食いつこうとする神出鬼没の大口を避けながらも、本体であるバロストに傷を与える二人の猛攻に、並外れたタフネスさと超再生の持ち主とはいえその場で釘付けにされていた!


 まだか……。まだなのか……。

 ジリジリと焦る気持ちが沸いてきそうになる。

 そんな俺達の目の前で、ついに二人がバロストからの攻撃を避けきれず、大蛇のような触手に打たれて苦痛に顔を歪めた!

 だが!


『よし! 行けるぞ、一成!』

 それと同時に、ラービからの充填完了の声が掛かる!

「二人とも、お願いします!」

 準備ができた俺の呼び掛けに、二人の目に光が宿った!


「「おおぉぉぉぉぉっ!」」


 雄叫びと共にイ、スコットさん達から力が噴き上がる!


 天に舞う赤い竜はさらに輝きを増して彗星のように軌跡を描き、地を駆ける白虎は流星の如く蒼い炎の尾を引いてバロストに迫った!


『ぬおぉぉぉっ!』

 高速で接近する二人を叩き落とそうと、バロストは迎撃体勢を取って迎え撃つ!

 しかし、嵐のように振るわれる触手や魔法を二人は弾き、あるいは打ち砕きながら奴に肉薄していった!

 イスコットさん達が狙うのは、バロストの下半身!

 左右から迫った二人の影が絶妙のタイミングで交差し、戸惑うバロストの両足を爆散させて体勢を崩させた!


『ぐおっ!』

 足を失ったバロストがグラついた所へ、方向転換したイスコットさん達が、返す刀で奴の背中に体当たりをかまし、俺の方へと・・・・・その巨体を吹き飛ばす!


「いけぇ!カズナリ!」

「ここまでお膳立てしてあげたんだから、決めなさいよ!」

 っしゃ! ケリをつけるぞ!

 鎧の背面に大小無数の噴出口を浮かび上がらせ、全身に蓄積したはち切れんばかりの全ての力を、そこから解き放った!

 爆発と衝撃に押し出され、一瞬で亜音速にまで至った俺達は、高速回転する千槍戦陣ドリルの穂先をバロストにロックオンして突っ込んでいく!


『千槍戦陣・英雄集結特攻砲!』


 五剣の!七槍の!四弓の!六杖の!五爪の!六斧の!

 神器と英雄の力を込めて、アニメでしかみないようなドリル付きミサイルと化した俺達の特攻に、さすがのバロストも焦りの表情を見せた!


『ぐおおぉぉぉ!』

 この攻撃はヤバいと直感的に危険を感じたらしいバロストは、がむしゃらに魔法を放って反撃を試みた!

 炎と雷と冷気が、でたらめに俺へと襲いかかってくるが……今更こんなもんにひるむかぁっ!

 迫りくる反撃の全てをブレードの回転で蹴散らし、驚愕するバロストが開けた大口を目掛けて、ドリルの先端が突き刺さった!


 狙うは、頭部その奥!

 そう、堅く厳重に護られた、奴の『蟲脳』その物がターゲットだ!

 俺達にも言える事だが、どれだけ魔神の力を得て、無限の再生能力を身につけようとも、奴の全てを司る核はそこに尽きる!

 肉体は巨大化しながらも、端から感知しうる蟲脳その物の大きさは変わっていないのが、いい証拠だろう。

 部厚い外身を貫いて、その小さくて重要な器官を破壊すべく……更なる力を推進力と回転に込めていく!

 オラッ!俺達の固くて大きいものを、もっとくわえこみやがれっ!


『あがっ!あがががっ!』

『うおおぉぉっ!』

 両腕や触手を伸ばして俺達を止めようとしたが、回転するブレードに触れた途端にズタズタに引き裂かれ、辛うじて最後の砦である歯を食いしばる事でドリルを止めようとするバロスト!

 そして、そんな奴の全てを貫くために吼える俺達の声が重なって、激しく響き渡っていく!

 奴の牙と、俺達のブレードが凄まじい勢いでぶつかり合い、美しい花火を思わせるほどの火花を散らして互いを削りあった!


 実際にどれだけの時間が流れたのかは、定かじゃない。

 だが、まるでスローモーションのように全てがゆっくりと流れていくような感覚を覚えた瞬間、ついに俺達の刃がバロストの牙を破壊する事に成功した!


『っ!!!!』

 声にならない悲鳴をあげるバロストの口中へ、歯医者のドリルを越える惨劇の様相を呈しながら、さらに奥へ突き刺さっていく!

 口蓋を貫き、頭蓋骨を抉りながら回転する刃は、標的に向かって魔神を砕きながらつき進んでいった!

 そして……っ!


『あ……』

 バロストの全身に浮かび上がっていた無数の口から、小さく……そして少し間の抜けた声が漏れた次の瞬間!

 千槍戦陣の刃が、奴の蟲脳を貫いた感触と共にバロストの頭部を吹き飛ばした!


 頭部を失ったバロストの肉体に浮かぶ口が、言葉にならない悲鳴を上げる!

 無理矢理に再生しようとするが、核となる部位が消滅しているために、暴走しかけている自身魔力で弾けそう体を抑えるのが精一杯のようだった!

 そんな、破裂寸前のバロストの体に向かって、俺達はトドメの一撃を叩き込む!


『ギィッ!ギャギャギャ、ガガ……』

 虫みたいな断末魔の絶叫と同時にバロストの体は徐々に千々に切れ、細かく砕けていく肉体は再生することなく消滅していった!

『ぁぁぉぉぁぁぁぁ…………』

 その間、細く小さく……それでも声は響き続ける。

 ──そうして、長い長い絶叫を響かせながら……魔神を越える怪物と化していたバロストの姿は、跡形もなく消えていった。

 ただ、奴の怪物化に一役買っていたらしい『神器・星の杖』だけが、乾いた音を立てながら地面に落ちて、その生涯を終えるように砕け散る。


 そんな一連の様子を、誰もが無言で見つめていた。

 無音と言っていい程、静寂に包まれた戦場。

 風すらも動きを止めたこの空間に、俺の大きく息を吐く音だけが響く。


「俺達の……勝ちだっ!」

 大きく右腕を掲げ、勝利の言葉を口にする!

 それと同時に、英雄達からも勝鬨きの声が上がった!

 一気に音を取り戻した戦場跡に、興奮冷めやらぬ勝利の声が響く!


『やったな、一成!』

 精神世界で、涙ぐんだラービとレイが俺に抱きついてきた!

 ああ、やったぜ……。

『流石じゃ、流石は一成じゃ! あの大一番でよくぞ決めた!』

『お見事です、御主人様!』

 ボロボロと大粒の涙を流しながら、俺を立ててくれた二人を抱き締め返す!

 よせやい、俺だけの力じゃねーよ!

 お前達が尻を叩いて立ち上がらせてくれたから、この勝利があったんだ!


『やはり、ワシが選んだ男よ! んん~、惚れ直したぞ!』

『私達も、御主人様に仕えた甲斐がありました!』

 そう言ってもらえりゃ、俺としても頑張った甲斐があるよ。

 だけど……さすがに……疲れた……。

 精神世界でへたり込むのと同時に、現実世界の俺の肉体も力を使い果たして倒れ込む。

 はぁ……。


『一成? おい、どうしたのじゃ?』

『御主人様……?』

 ラービ達の声が、遠く感じる。

 悪いけど、疲れ……すぎた……。

 少しだけ……休ませてくれ……。


『いや、ちょっと待て!力を使い果たして倒れるって、これはマズいパターンのやつではないか!?』

『御主人様、しっかり!』

 なんだか焦ってるっぽいラービとレイの声が聞こえるが、それもどうでもよく思えてくる。

 とにかく眠いんだ……。


 いまだ何かを言っている二人の声をBGMに、勝利の達成感と期待を裏切らずにすんだ満足感を抱えて……俺の意識は、深い眠りの闇へと落ちていった……。

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