第7話:彼女の転機

 彼女が小学校3年生になった時のことだった。彼女はそれぞれの親と友人たちと10人程度でテーマパークに遊びに行った。彼女は半年前まで外に出ることも親がいても出来なかった彼女を人が少ない時間に彼女を連れ出し、半年かかってやっとテーマパークに来られるまでになった。


 その日はかなり開演前から人が多く、彼女は少し恐い気持ちもあったが、彼女にはあるものが楽しみだった。それは、1ヶ月前に彼女が好きなキャラクターのぬいぐるみなどのグッズの抽選販売があった。その時は好きなキャラクターのグッズを買えるか分からなかったが、彼女が欲しいものを選び抽選結果を待つことにした。すると、1週間後にストアから連絡が入り、彼女が購入希望していた商品が全て買えることになったのだ。彼女はその当選券を持ちながらワクワクしていたのだ。


 そして、パークの開演時間になり、ファストレーンとスローレーンに分かれて入場していくのだが、ファストレーンは週末だからなのか2000人近く並んでいたが、流れが速く、両親は「向こうに並ばなくて良かった。」と思っていたのだ。彼女と2家族はスローレーンから入場し、3家族はファストレーンから入り、優先チケットを取りに行った。


 ファストレーンから遅れること30分、実琴のグループも中に入った。すると、彼女は久しぶりに中の様子を見ることが出来て、嬉しかったのだろうか、今まで見たことがないほどはしゃいでいた。そして、当選券と一緒に入っていた時間案内の紙を見ながら歩いているときだった。


 前から休日のお父さんのような人が彼女に向かって歩いてきた。


 彼女は「この人は誰だろう?」と思ったが、その疑問はすぐに分かった。その人の名刺には都内の有名芸能事務所の名前が書かれていて、彼女は「私がスカウトされる!」と思ったが、スカウトされたのは琴子と優実だった。確かに、姉2人は小学校では学校の広報誌、学校からのお便りなどによく出てくる有名な児童だったし、琴子は中学生になった今でも学校の広報誌や区の広報誌に出てくるほど有名人だったのだ。


 両親は当初「うちの子は芸能界には興味ないので、お断りします。」と言ってその場を離れようとしたが、スカウトさんは引き下がらなかった。なぜなら、この事務所はローカルタレントや無名でも情報媒体に出てくるような逸材を自分たちの事務所で囲い込む計画が水面下で動いていた。そのため、周囲からは「この事務所のスカウトさんから話しかけられたときは“あとでお返事します”と言って立ち去ってほしい。」という話しがたくさんあがっていた。


 そこで、両親は「家族会議をするので、後日改めてご連絡をします。」と告げてその場を去った。


 その後も、違う事務所に姉が声をかけられていた。そして、午後になり、パーク内を歩いているときだった。かなりカジュアルな服を着た女性が家族に近づいてきた。その女性はジュニアモデルの事務所の社長さんで、見た目はかなり優しそうな印象を持った。その後、近くの日陰になるベンチに座り、話を聞いた。すると、「私はこの子が将来化けると思うので、うちで責任を持って育てさせていただけないでしょうか?」と両親に話した。しかも、その相手は“実琴”だった。ここでも両親は家に帰ってから検討することに決めて、「このお話は子供にとって重大な選択になりますので、家族で決めます。お世話になる際には3日以内にご連絡をいたします。」と告げて、その場をあとにした。


 この日は3姉妹合計で10社ものスカウトの人から声をかけられた。中には“是非家に来てください”や“活躍出来ると思うので”という言葉をかけられた事があった。しかし、彼女たちの心情は複雑だった。なぜなら、少し前に彼女の先輩がコンテストで優勝し、芸能事務所から声をかけられたという。そこで、モデルの先輩に聞くと“その事務所はあまり良くないよ”と言われて先輩の事務所に入ったという事もあったため、この部分は慎重になっていた。


 この時は話し合いの結果、どこの事務所にも属すことはなかったが、彼女の中では読者モデルが出来る事務所はあったため、入りたかったが、先方から「事務所の寮で生活してもらう」という条件があったため、「まだ小学生の娘に寮生活をさせて何かあっても困る」と父親が許可しなかったのだ。


 そして、楽しい時間が終わり、実琴の父親が持っているマイクロバスでみんなそろって帰路についた。バスの中では子供たちは後ろ側にあるプレイルームで遊び、道路上では席に座り、外の夜景を見ていた。


 そして、家に着いてみんなと別れた。その時もまだパークで遊んだ楽しい時間の余韻が残っていた。


 翌日は彼女が通っているピアノとバレエのレッスンを受けて家に帰ってくると母親が興奮気味に彼女に駆け寄ってきた。


 それは、いつも通っている美容室のオーナーから“白石3姉妹のサロン写真が撮りたい”というオファーがあったのだという。もちろん、彼女たちは快諾をしたが、一部で不安もあった。それは、この前のようにネットなどで写真を見た人がハイエナのように集まってくるのではないか?ということや芸能事務所からオファーが来るのではないか?ということだった。


 確かに、彼女たちが通っている美容室は有名人なども通っている事で有名で、その口コミでファンなどが予約してくることもある。そのため、そういう場所でサロンモデルをやることで芸能事務所や芸能関係者の目が光ってしまうのではないか?という不安や彼女たちの通っている学校でいじめられるのではないか?という気持ちも少なからずあった。


 そして、彼女たちがモデルを務めたポスターとパンフレットが完成し、店頭に並びはじめた。すると、いろいろな人がパンフレットを見て、“こんな可愛い子がモデルをしているのですね”や“明るくて良いですね”などお褒めの言葉をたくさんもらうことが増えていった。


 そこに来店した女優さんで、自身でお店を経営している夏姫が“この子ってこの辺に住んでいるのですか?”とオーナーさんに尋ねた。実は彼女のお店を新しくオープンすることになり、お店の宣伝のために雑誌に広告を出したいと言うことだった。


 しかし、一般のモデルさんは確保出来たが、キッズモデルが不足していて、各子役事務所に声をかけたが、お店のイメージに合う子がおらず、いつも通っているこのお店に来たときにふと目に入ったパンフレットを見て、“この子にやってもらおう!“と思ったのだ。


 そして、この話をこのモデルさんに依頼するためにオーナーさんから話をしてもらう事になった。


 そして、その日のうちに彼女たちに話しがいった。すると、琴子は大学受験に向けて、優実は高校受験に向けてそれぞれ勉強が忙しくなっていて、モデル活動が出来るかどうか分からないということが分かった。ただ、オープン時期が9月ということは夏休みに撮影があることになるため、仮に受けた場合、夏期講習と被らないように調整する必要があった。


 実琴はいつでもやりたいとは思っていたが、今度の仕事はネット上に乗るだけでなく、開店予定の店舗のパンフレットとして一定期間置かれることになる。そのため、彼女たちの認知が上がる事を期待できる一方で誹謗中傷などの被害が発生する可能性もあり、彼女たちのように事務所に所属していないため、トラブルが起きたときには自分たちで解決しなくてはいけないのだ。


 これらを加味するとお互いにどうするべきなのかを確認し、トラブルなどが起きた際に法的措置を講じる場合には夏姫側と3姉妹側で費用を折半することになった。


 そして、彼女たちが夏休みに入ったタイミングで3姉妹別に撮影が始まった。彼女たちは最初、有名女優さんのお店と聞いてかなり緊張していたが、撮影が進むにつれて緊張がほぐれてきたのか、いつもの3人に戻っていった。


 その後、撮影が終わり、彼女たちの仕事は終わった。


 彼女たちは2ヶ月後の完成版のお披露目まで楽しみで仕方がなかった。

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