「なぁ、頼むよ魔王。俺の話を聞いてくれ!」
匿名希望
第1話 なあプレイヤー、お前労働基準法って知ってる?
…これはこのゲーム「ファンタジアストーリー」が電源を切られている間の世界のお話…
「よくぞここまで来たな、勇者よ!」
いかにも魔王、といった感じの禍々しい風体をした男が玉座に退屈そうな表情で頬杖を突きながら表紙がぼろぼろの台本片手にそんな凛々しい台詞を喋っているのは少し滑稽に見えた。しかも目の前には死んだ魚の目をした勇者が普通に胡座をかいて座っている。
「…いつになんだろうな、俺が実戦でその台詞聞くの。あ、魔王聞いて聞いて。今日は25回も死んだ。ちなみにこれニューレコードね。いえーい。」
勇者は感情のこもっていない平坦な声でまくし立てると疲れきった顔のまま片手ピースを向ける。
「………大変だよな、お前も。ここまでフル初期装備で振り回されてさ。思い付く限りのおもてなしで優しくしろって部下に言っといたけどそんなに死ぬか。」
「や、やっぱ知ってたの…?」
勇者は力が抜けたように顔を両手で覆い、涙混じりの声で「なんかおかしいと思ったんだよ…あのダンジョンのボスのドラゴン。火とか出さないし、魔法使わないし、物理も爪でちょっと引っ掻くくらいで……いやでも今日は回復禁止縛りだったからそれでも死にゲーだったんだけどさぁ……」しまいにはとうとう泣き始めてしまう。
「…元気出せって…な?」
そんな様子を見かねたらしい魔王は玉座から降り、勇者の背中を優しく叩く。…と。
「勇者様。無理矢理着いて来させられた私の気持ちにもなってくださいよ…それにああ、ドラゴンだなんて…!私、ドラゴンが一番嫌いなんですよ。あの鱗まみれの体、見るだけで寒気がします。」
書斎の方から玉座の間へと入ってきた僧侶が暑そうにフードを脱ぎながら愚痴をこぼす。
「お決まりの台詞に迫力がありませんわよ、魔王様。」
書斎から持ち出してきたらしい本を抱え、眼鏡を引っかけた王女もひょいと顔を覗かせる。
「無茶言うなよ、王女様。こっちも三周目に入ってから言う機会ないから忘れんだよ。」
魔王が眠そうに大口を開き、うつらうつらし始めた瞬間。
「…おい、ゲームの電源入ったぞ!お前ら、帰れ帰れ!」
けたたましいアラームが響き、魔王は焦ったように勇者たちを外に追いやる。
『よし、今日も楽しく縛りプレイしてこ!』
【ファンタジアストーリー:データ3
プレイ時間:25:36:59
Lv20:ああああ】
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