株式会社ドラゴン営業部 〜ドラゴンの、ドラゴンによる、ドラゴンのための会社〜

柊れい

第1話 レッドドラゴン

俺は株式会社ドラゴン営業部のレッドドラゴンだ。


俺たち営業部はドラゴンの活躍する場を求めてあちこち飛び回っている。


この会社の仕事はドラゴンの出演作品を取り付ける事。


そのために営業部では様々な提案を取引先にし契約を取っていく。




そうここは、


ドラゴンの、ドラゴンによる、ドラゴンのための会社だ。








「あ、はい。…そうですよね。はい。…少し手違いがありまして。はい。…すぐそちらに向かいます。…はい。わかりました。では、明日そちらに向かいますので。…はい。…失礼致します。」


俺は受話器を置いた。




うぉぉぉ、やってしまったー!




「ん?レッドのくせに青くなってるぞ。どうした?」


コイツは同期のブルードラゴンだ。




「あぁ、ダブっちゃったんだよ…。」


もちろん留年とかではない。俺はダブルブッキングをしてしまったのだ。




「ダブるってお前、それはまずいぞ。この契約流れると会社が傾くレベルの案件だったろ?」


「…どうするかな。あああぁぁ。」




そう、国民的RPGのボスキャラにドラゴンを入れ込む事で契約が纏まりかけていたのだ。


この契約が決まれば我が社の株価は高騰間違いなし。だったが…


同時期に発売の別RPGに全く同じ設定のドラゴンを入れて先に契約してしまっていたのだ。




国民的な方は契約前。つまり、流れるとすればそっちだ。これは株式会社の株価高騰どころか大暴落。信用問題に発展もしかねない。


何か代替案を用意して行かねば。






「おい、仮にもドラゴンだぞ。そんな顔するなって!新人だった頃のガムシャラな気持ちで向かっていけよ!それじゃお先にー!」


他人事だと思いやがって、ブルーめー!




ん?新人の頃?そうか!




俺はデスクに置いてあるノートパソコンに向かいひたすら過去の資料を漁った。




国民的な王道RPGだ、そこに奇抜な姿はいらないだろう。ここは原点回帰の時期ではないだろうか。


昭和の時代のドラゴンの姿。それこそが万人が求めている姿に違いない。




最強のやられ役。それに違いはないが、着飾らずともシンプル・イズ・ベスト。


それが我が社のドラゴンだ。




元々は倒したあとに美少女に擬人化してハイスペックなパラメータでパーティに加わるという展開であったのだが、そんな逃げな手法はこの作品には要らない。




そう、それこそが国民から愛される所以だ。






そんな資料をまとめ上げ、俺は外に出た。




このビルの明かりは全て消えていた。


俺が最後だったんだな。






明日は大丈夫。必ず上手くいく。


そしてタイムカードを切った。


*


**


***




「おうレッド!いつにも増して紅潮してるな!」


ブルーが俺の肩を揉みながら声を掛けてきた。




「ああ、そりゃな!」


おそらく俺の人生、いや竜生で最高の笑顔だったと思う。つい得意げに鼻息まで荒くなってボヤ騒ぎに発展したが、まぁよしとしよう。




「よっしゃ!今日は飲みに行くかー!」


ブルーは何かとあるとすぐ飲みに行きたくなるタイプで面倒なところもあるが、


「…接待の予定もないし、よし!今日は仕事早く終わらすぞ!」




今日の俺は気分がいい。たまには付き合ってやるか。




「もちろん、レッド。お前の奢りだからな!特別報奨入るんだろ?」










今日も株式会社ドラゴンの社員はせっせと働いている。


いつもと変わらない職場の中でも、様々なドラマが生まれる。現実は小説ともゲームとも違いあり得ない出来事が起こる事がある。


だから逃げ出したくもなるし、楽しいんだ!










「今日もおつかれ!ドラゴンに乾杯!」


「かんぱーい!」








今日は気持ちよく酔えそうだ。


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