異界名録 ~夢の歩み~

転醒 廻実

ライヴリィヴァリアント

暗い廊下と君

 外の世界は無いとでも言うように、あるいは窓の存在を忘れたように、暗い廊下だったことを覚えている。

 暗くても景色が見れたのは、ランタンが照らしているおかげだ。誰かが棒に吊るして持っていた。女の子だった。

 目の前にいる少女は、色味薄く雲のような髪をしている。僕より身長が小さいし、ボサボサな髪のせいで目元が見えない。名前も知らない。聞こうとする事もしなかった。ただランタンを持った彼女は、暗闇の中で唯一、寄る辺になった。


 唐突に、移動しなきゃいけないと思った。

 僕が歩き出すと、少女は持っていたランタンを持たせようとしてくる。それはダメなんだ、ランタンは持っていた方が安全だから。そしてランタンは少女が持っているべきだと思った。受け取ったら、彼女は消えてしまうかもしれないと感じた。恥ずかしいことに自分の身も可愛かった僕は、返す手で彼女の手を取った。

「一緒に行こうよ」

 そんな事を口走った気がする。口にしなくても伝わったと思う。一緒に歩き出したんだから、多分そうだ。


「君が持ってて。何かあったらすぐ走って」

 背中に周り、少女の右手に自分の手を添え、左手は肩に置く。何かが迫ったら、自分が守り囮になろうと考えていたんだ。実際の所、何も無かったけど。あるいは、僕の心が祈っていたのかも知れない。少女を傷付けないでだなんて、見ず知らずにも関わらず。


 どれだけ歩いたかは、分からない。

 ただ。この暗い廊下に果てがあった事は幸いだった。

 ここに永遠は無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る