ぽっちゃりなわたしの二の腕は訳アリ課長の安眠枕

奈月沙耶

 

第一話

1-1.ごみ置き場で発見しました

 資材部資材管理課の朝は早い。さらに昨日やり残した作業があったので、三隅すみれはいつもより十五分早く出勤した。

 平日朝の時間帯は数分違うだけで通勤風景ががらりと変わる。

 すみれは人気のないバス通りを歩き、車道の反対側にそびえる社屋ビルを横に見て、向かいの製造工場の正門をくぐった。


「あれ、今日は早くない?」

 顔だけは見慣れた、だが名前を知らない守衛のおじさんに話しかけられた。

「資材室まだ開いてないよ」

「大丈夫です。着替えたら先に倉庫に行くので」

 建物に入って薄暗い廊下を進む。資材部事務室の前を通り過ぎ突きあたりの女子更衣室へと向かった。


 すみれが担当する業務はデスクワークがほとんどだが、勤務場所が工場倉庫なので、作業員と同じスモーキーグリーンの上着とズボンを着用する。

 ふっくらと丸みを帯びた体つきのすみれがだぼっとした作業着を着ると、さらに膨張した印象になる。おしゃれとは程遠いファッションだ。

 こういう職場にいる以上すみれ自身はあまり気にしていないが。そりゃあ、それでも、アイメイクをばっちりしてくる女子作業員もいて、すごいなぁとは思うけれど。


 更衣室を出て今度は資材倉庫に向かう。ヘルメットをかぶって昨日作業していた場所へ行ってみると、やっぱり片付け忘れた空の段ボール箱がそのまま放置してあった。

 現場は整理整頓がモットーなのにこれはいけない。自分で気づいて良かった。


 すみれは急いで箱を潰して台車に積み、倉庫内のごみステーションへと台車を押していった。

 ゴロゴロゴロゴロ。滑りがよく操作しやすい台車だったのが嬉しくて朝からちょっと楽しい。誰よりも早く出勤して作業に励むわたし、偉くない!?

 毎日楽しく仕事をこなすコツは、こういうちょっとした自画自賛だ。


 ゴロゴロゴロゴロ。段ボール置き場はスペースのいちばん奥。平らに均して積んでいくのが暗黙のルールだ。

 様々な大きさの段ボールをパレットの上に均一に広げて置いていくのはパズルゲームみたいにコツがいるが、うまくできたときには達成感を得られる。

 よし、と張り切って置き場の前で台車を止める。


 いちばん上の段ボールに手をかけ、まずはどこに置こうか、と既に積みあがっている段ボールの山に目を向けたとき。すみれはそれを発見した。

 濃いグレーのスーツ姿の男の人が、段ボールの上に寝転がっていた。


 え、とすみれはその場で固まる。

 高い位置にある窓から朝の光が降り注ぐ。斜めに差し込む光を反射してホコリがきらきら輝く。

 無駄に幻想的な光景を前に、すみれはたっぷり二十秒間、静止していた。

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