四月一日さんは塩対応!?

諏訪ぺこ

第1話 四月一日さんは塩対応!?

 


「四月一日侑紀さん、俺と付き合ってくれないか」




 まるで青天の霹靂。

 世の中には、乙女ゲームみたいなことが極々稀に起こるようだ————










 私の名前は四月一日侑紀である。

 春から高校一年生になったばかりで、成績は可もなく不可もなく、容姿も込みで平均的な女子だと思う。


 ただ一点の特殊技能もなく、本当に普通を絵に描いたような平々凡々な人間であると重ねて言っておく。


 そんな私がゴミ捨て場にゴミを捨てにきたら告白をされた。


 最初は間違いじゃないかと思ったし、もし私に本当に言っているのであれば罰ゲームなんじゃないかと考えたぐらいだ。


「あの……返事、聞きたいんだけど」

「えっ……?」

「だから、返事……」


 返事と言われ、確かに告白されたのであれば答えを出さねばならないだろう。


「あの……ですね」

「うん」

「お、お断りします……」

「は?」

「お断りします!」


 私はそれだけ言うと逃げるように、彼の前から走り去った。

 だって無理だよ!


 乙女ゲームみたいに学園の王子様なんて呼ばれてるような人と付き合うなんて!!

 笑う!君付けではなく、様付で呼ばれてる彼と一緒にいたら間違いなく吹き出すだろう。


 それは流石に本人に悪い。

 望んで呼ばれているなら気分を悪くするだろうし、そうでないならきっととても恥ずかしい思いをさせてしまう。


「そもそもあんなキラキラした人と付き合うなんて、女子の怨みしか買わないもんね」


 特別親しいわけでも、クラスが同じわけでもないのに一体全体どうしてこんなことになったのか……?

 謎は深まるが、ファンクラブまであるような人と一緒になんていたくない。


「乙女ゲー的展開が始まっちゃうね!!」


 繰り返される陰口、ボロボロになった教科書やカバン、トイレに行けば水を被せられたり……


「お約束は体育館裏への呼び出しかな」


 複数人に囲まれ、罵詈雑言を浴びせられ下手したら手を出されるかもしれない。

 と、そこまで考えて思考と足を止める。


「どれも普通に犯罪だな!」


 教科書とかカバンがボロボロになった時点で警察に持ち込むし、ボイスレコーダーを持ち歩いて証拠集めをする方がよほど堅実だ。

 嫌がらせをされて、我慢しなければいけない理由は全くない。一番はその原因と距離を置くことだろう。


「イケメンは鑑賞物、隣にいられたら落ち着かないしね」


 そんなことを呟きながら、教室にカバンを取りに戻る。

 教室の中では数人の女子が、クラスメイトの男の子をチラチラと見ていた。


 彼もまた学園の王子様の一人だ。

 不思議なことに、タイプの違うイケメンが四人も同じ学年にいる。

 入学した当初は他の学年からも、彼らを見物しに女生徒が来ていたくらいだ。


 我がクラスのイケメンくん。

 獅童ししどう直也くんは少しぽやっとしたタイプの男の子。

 でも顔はいい。そしてモデルにでもなれる高身長に、穏やかな話口調。優しい性格も合さってクラス内外の人気者だ。


 ちなみに私に告白してきたのは、隣のクラスのイケメンくん。夏木真琴くんだ。

 彼はどちらかと言えば、男子とつるんでるのを見かけるのが多かった。キリッとした感じの、和系男子だと思う。


 実際に話したのはほぼほぼ今日が初めてだから、噂程度にしか性格を知らない。

 なのになぜ、彼は告白なんかしてきたのだろう?


「……やっぱり罰ゲーム?」

「罰ゲームがどうかしたの?」

「へ?」


 考え事をしながら自分の席にたどり着いた時、急に話しかけられて驚いてしまう。

 彼もまた、私との接点はクラスメイトと言う以外全くない。


 少し心配そうな表情でこちらを見ている。独り言にまさか反応されるとは思わなかったのでちょっとだけ心苦しい。


「あー……何でもないよ」

「本当に?何か困ってるとかない?」

「いや、全然平気デス」


 あーあー睨んでる。睨んでるよ……!!

 心配してくれるのは嬉しいが、下手に話していると睨まれるだけなので早々に教室からの離脱を図る。


 すると、なぜか後ろから追いかけてきた。

 いやいや自意識過剰すぎだろ。門を出るまではみんな帰る方向は同じじゃないか!!


 なんとなーく距離を取りつつ、下駄箱までたどり着く。

 靴を履き替えて帰るぞ!と意気込んでいると、さっきフッたばかりの夏木くんが昇降口の扉に背中を預けるようにして立っていた。


 前門の虎、後門の狼ーーーー!!!!


 内心で冷や汗をかきながら、彼の前をすり抜けようとした。しかし、あっさりとそれは失敗する。


「四月一日……そのっ……」

「いえ、あの、興味がないので!!」


 頼むから腕を離してくれ!!他の女子に見られる前に早く帰らせてほしい!!

 そう心の中で念じるも、彼は一向に腕を離してくれない。


「四月一日さん困ってるじゃん。離してあげなよ」

「……獅童」


 獅童くんの言葉に、ようやく夏木くんは私の腕を離してくれる。私はその隙に、彼の横を通り抜けた。

 そしてある程度距離を取ってから、獅童くんにお礼を言う。


「ししどーくんありがとー!!」

「うん、また明日ねー」


 バイバイと手を振ってくれたので、私も小さく振り返した。

 あとは全速力で逃げるのみだ。

 駐輪場に向かい、自転車に跨ると私は学校を後にした。









 ***



 家に帰り着くとお兄ちゃんが珍しく先に帰ってきていた。

 私には歳の離れた兄が二人いる。


 一回り上の遥お兄ちゃんと、八歳上の桜お兄ちゃん。

 先に帰ってきていたのは桜お兄ちゃんだ。


「お兄ちゃんただいまーあとおかえりー」

「ああ、おかえり。なんだか疲れてるなあ」

「うんちょっと……疲れた」


 危うく明日から私の平凡な毎日がデンジャラスな日々に変わるところだったのだ。疲れもする。


「お兄ちゃんは今日早いね」

「研究がひと段落ついたからな」


 大学院生の桜お兄ちゃん。論文作成中なんだそうだ。


「侑紀、紅茶飲むか?」

「飲むーアイスティーがいいな!」

「なら先に着替えておいで」

「はーい」


 私は返事をすると二階の自分の部屋に戻る。

 制服から私服に着替え、制服をハンガーにかけていると姿見が目に入った。


「うーん……やっぱり似てないな」


 うちのお兄ちゃんと私は全く似ていない。

 いや、家族全員が揃うと家族なのね、となるので別に私が養女とかそういうのではないのだ。

 完全に父親似と母親似で分かれているというだけで。


 お兄ちゃんたちはお母さんに似てキリッとした格好良い顔立ちだし、身長はお父さんに似てとても高い。

 二人とも180cmは超えている。

 私はというと、顔は完全にお父さん似。ぽわっとした可もなく不可もない顔。身長だけはどちらにも似てなくて、私の身長は150cmに満たない。いやまだ伸びてはいるはず……


 そんなわけで家族が揃って出かけないと家族と判別がつきづらかったりする。


「イケメンは毎日家で見られるからなー」


 お母さんにお兄ちゃんたち。それで十分だ。


「明日、明日……きっともう大丈夫だよね?」


 若干不安だが、クラスも別だしなんとかなるだろう。トイレに行くときだけ気をつければ平気なはずだ。

 そんなことを考えながらリビングに戻ると、桜お兄ちゃんがアイスティーを作ってくれていた。


「おーすごい!キレイ!!」

「オレンジアイスティーだぞ」

「すごいね!!ちゃんと二層になってる」


 グラスの半分下がオレンジ色になり、上の部分は琥珀色になっている。


「混ぜちゃうのもったいなーい」

「混ぜないとオレンジの味しかしないだろ?」

「そうだけど!お兄ちゃん器用だよねえ……」

「そうか?」

「そうだよ」


 ポンポンと頭を撫でられたので、にぃーと笑っておく。


「また作ってね」

「そうきたか」

「そりゃそうよ」


 椅子に座り、そっとマドラーでグラスの中をかき混ぜる。もったいないけど、飲むなら混ぜなければしょうがないからだ。


「侑紀、学校はどうだ?」

「んー普通?」

「普通かあ」

「あ、でも今日告白された」

「え!?」

「でも断ったよ?」

「なんで?」

「なんでって……イケメンは鑑賞するのに留めておいた方が、日々安全じゃない?」

「なんだそりゃ?」


 お兄ちゃんは意味がわからないと首を傾げる。

 だから私はうちの学園の四人の王子様の話をした。


 みんながみんなタイプの違うイケメンで、勉強も運動もできる。ファンクラブまであってものすごーく人気が高いことを切々と語って聞かせたのだ。


「で、そのうちの一人が告白してきたと」

「そう。でも全然接点ないし……罰ゲームとか言われた方がまだ信じられる」

「そういうことしそうなタイプなのか?」

「わかんない。クラス違うし、噂でしか知らないし……でも私だよ?美人な子も可愛い子もよりどりみどりの中で、平凡を絵に描いたような私にする?」

「それは好みの問題だからな。俺たちにとって侑紀が可愛い妹なのと同じように、その子にとってもそうなのかもしれないだろ?」

「それは……」

「それにイケメンが美人とか可愛い子だけと付き合うとは限らないのはうちの親見てればわかるだろ?」


 そう言われてしまうと言い返すことができない。

 うちの両親はお互いにベタ惚れで、子供の私たちが見てるのも恥ずかしいくらいにラブラブ夫婦なのだ。


「でも……付き合うのは……ないなぁ」


 毎日大変そうだ、と呟けばそれもそうだなと言われる。


「でも侑紀にもそんな話が出てくる歳になったかあ……」

「お兄ちゃんお父さんみたい」

「きっと母さんのチェックが一番厳しいぞ」

「どうせまだまだ先だよ」


 初恋らしき初恋もないまま高校生になってしまった。

 お父さんとお母さんが付き合った経緯は素敵だけど、そんな素敵なことが自分に起こるかと言われると答えはNOだ。


「ま、あんまりしつこいようだったら兄ちゃんに言うんだぞ?」

「たぶん平気だよ」

「わからないだろ?」


 兄ちゃんが侑紀の彼氏です、って言ってやろうというので、事態がややこしくなりそうだから丁重に辞退しておいた。

 後々お兄ちゃんだとバレた時がイタイじゃないか……


 その後は学校のこととか友達のこととかを話し、遥お兄ちゃんが帰ってきて夕飯になった。

 お父さんとお母さんはデートの日なので今日は子供だけ。仲がいいことは良いことだ。





 翌日————

 学校の駐輪場にたどり着くと、夏木くんに出くわしてしまう。

 思わず自転車の影に隠れてしまったがもちろん全く隠れていない。


「……四月一日、何してるんだ?」

「……か、隠れてる」

「全く隠れてないぞ」

「それもわかってる……」


 なんとも気まずい空気が流れ、私はどうしたものかと考える。

 あんまり一緒にいるところを見られたくない。こうしている間にも続々と自転車通学の子達が駐輪場にやってくるだろう。

 うん。教室行こう。


 立ち上がり、教室に向かおうとするとまた手を掴まれた。


「あのー……」

「お前、覚えてないのか?」

「き、昨日のことなら覚えてるけど……お断りしましたよね?」

「そうじゃなくて……」


 昨日のことでないなら何だというのか?

 私が首を傾げると、夏木くんはそっと手を離した。


「昼、そっちに行くから」

「へ!?」


 それだけ言うと夏木くんはスタスタと校舎に向かって歩いていってしまった。


「な、なぜ??」


 断った。断ったよね!?それなのになんで教室に来るなんて言ったのだろう?


「いやいや、きっと空耳……」


 あははははと乾いた笑いを浮かべたが、昼にすぐ逃げなかったことを後悔するのであった。








 ***


 視線が、痛い。


 お昼を持ってきていた私と、噂では食堂でいつも食べているらしい夏木くん。彼は弁当なのか、と呟くと私の手を取りそのままどこかへ向かおうとした。

 教室中に小さなざわめきが起こり、私は目眩を起こしそうになる。


 わ、私の平凡な日々よ……!!


「夏木、四月一日さん困ってるだろ?」

「獅童お前に関係ないだろ」

「クラスメイトが困ってるから関係なくはないよ」


 ねーと振られるが、私に取ってみればどちらも大差ない。

 頼むから私のいないところでやって欲しいものだ。それならいくらでも話し合ってくれて構わないから。


「俺は四月一日に用がある。お前に用はない」

「四月一日さんは獅童に用があるの?」

「全くないです!!」

「ほらあー」


 獅童くんにそう言われても、夏木くんは私の手を離すつもりはないようだ。そのまま無言で歩き出す。

 しかし歩くペースが全く違うので、そのまま転びそうになってしまった。


「危ない!」

「うわっ!」


 獅童くんの声と私の声が同時に上がる。

 何とか転ばずに済んだのは獅童くんが支えてくれたからだ。驚いた夏木くんが心配そうに私を見る。そんな目で見るなら私の手を離して欲しい。


「夏木、コンパスの差を考えなよ……四月一日さんちっちゃいんだからさ」

「……悪い」

「……とりあえず、手を離してもらいたいです」

「そしたら逃げるだろ」


 まあ逃げるよね!何が悲しくてクラス内外問わず女子に睨まれなければいけないのか!!

 これはもう桜お兄ちゃんの写真を出して彼氏いますので!と嘘をつくべきか?どのみち付き合う予定はないのだ。お兄ちゃんを犠牲にして助かるならそれでいいじゃないか!!


「ええ、とその……わ、私お付き合いしてる人いるから……いくら来られても無理な物は無理です」


 小さな声でもボソボソっと喋る。周りに聞かれたくはないが、この際私は無害ですよ!とアピールもしておかねばならないだろう。

 流石に断った人間までいじめるようなことはあるまい。


 私はカバンの中から携帯を取り出すと、桜お兄ちゃんと二人で写っている写真を見せた。

 すると夏木くんははあ、とため息をつく。


「これ、お前の兄さんだろ」

「え?」

「桜さん、だっけ?」

「な、何で知ってるの!?」


 もしやストーカーか!?と彼の顔をマジマジと見ると、夏木くんは呆れたように本当に覚えていないんだなと言った。


「覚えてないって……?」

「幼稚園の時……」

「幼稚園?」

「お前が言ったんだぞ!」

「私!?」


 いきなり幼稚園の時の話を持ち出されても全く覚えがない。幼稚園の時に何かあっただろうか?

 全く身に覚えがない。


 そんな私に焦れたのか、夏木くんは私をいきなり抱え上げるとそのまま大股で歩き出す。


「え、ちょっ!」

「暴れると落ちるぞ」

「いや、それは困る。これ結構高い!」

「なら暴れるなよ」

「そう言う問題!?」


 おろしてくれさえすれば問題は解決する。頼みの綱の獅童くんもぽかんとした表情で私たちを見送っているので、これはもうどうにもならないだろう。




 学年中の晒し者にでもなった気分だ。




 夏木くんに抱えられた私は校舎裏のちょっとした庭になっているスペースに連れてこられた。

 ベンチの上に降ろされ、彼も私の隣に座る。

 どうしよう。今から逃げるべき?いや逃げたところで今あった出来事は消せない。


 明日には一学年どころか他学年にも噂として広まっているだろう。

 さらば、平凡な日々。


「……き、四月一日!」

「へ!はい!!」


 びっくりして思いの他大きな声が出てしまった。

 隣を見れば、夏木くんが私をジッと見ている。


「あのー……?」

「————幼稚園の時、お前が俺に言ったんだ」

「な、なんと?」

「お兄ちゃんより格好良くなったらいいよ、って」

「主語はどこに!?」

「……だから!俺が将来結婚して欲しいって言ったら、お兄ちゃんより格好良くなったらいいよってお前が言ったんだ!!」


 普段の噂で聞くようなちょっとクールな感じのキリッとした和系男子の姿はそこにはない。

 真っ赤な顔で幼稚園の時の私との馴れ初めを話す彼は、王子様というにはちょっとだけ可愛かった。


「えーっと……なんか、すみません?」

「お前は全く覚えてないし」

「そうですね」

「俺は、ずっと覚えてたのに……」

「たぶん途中で忘れてもよかったかと」


 むしろなぜ忘れてくれなかったのか……?


「忘れるわけ、ないだろ……お前ぐらいだったんだからな」

「私ぐらい?」

「あの当時は太ってて、みんなにいじめられてて幼稚園なんて行きたくなかったんだ。でもお前がそいつらを蹴散らしてくれて……」


 最初のインパクトが強すぎたのかー

 まるっきり覚えていないけど、いじめられた側って大人になっても覚えてるっていうもんね。

 でも私のことは忘れていて欲しかったな!!


「俺はお前の言う通り、痩せて運動も勉強もできるようにした。それなのに、お前は断るのか?」

「……は、初恋は実らないって言うし……ねえ?」


 何とか穏便に断ろうとしたけれど、どうやら難しそうだ。


「そ、それにしても……どうして私がこの学校に通うって解ったの?」

「ああ、それは……」

「それは……?」


 ちょっと身を乗り出して夏木くんの顔を覗き込む。

 するとペチンと顔を大きな手で覆われてしまった。


「近い」

「え、あ……うん?」

「……飯、買ってくるからここにいろよ」

「え!?」

「逃げたらまた抱き抱えて校舎一周してやるからな」

「ひえっ……」


 脅すようなセリフに私は大人しくその場で待つことにする。

 それにしても幼稚園の時にそんなことあっただろうか?


 ものすごく頭をフル回転させてみるも、思い出すことができない。

 いや、太った子はいたな?いじめられているのにちょっと偉そうな、そんな子だったはず。

 朧げな記憶の中の子と夏木くんが全く一致しない。


「あ、見つけたー」

「え?あ……」

「大丈夫?」


 獅童くんがぶんぶんと手を振りながら近寄ってくる。

 私は大丈夫だよ、と答えた。


「えーっとその……四月一日さんは夏木のこと覚えてないの?」

「……獅童くんは夏木くんの知り合い?」

「うん。小学生の時からかな。腐れ縁なんだ」

「なるほど?」


 獅童くんは夏木くんが戻ってくるまで、それはもう夏木くんの涙ぐましい努力を語って聞かせてくれたのだ。

 それはもう私関係なくないか?本当に私の責任か?と何度もツッコミたくなったが……


「そんなに好きな子なら一度合わせてよ、って言ったんだけどね……アイツはツンデレだから俺の前には現れないんだって言うんだ」

「いやいや、それ誰のことです?」

「でもツンデレっていうよりは塩対応って感じだよね」


 はははと笑われ、私は困惑する。塩対応?私は塩対応しているのか??


「イケメンに育ったと思うけど、夏木に興味ないの?」

「イケメンなら家にいるので……」

「うーん……そういうことじゃないと思うんだけどなあ」


 そうしているうちに夏木くんが戻ってきた。そして私の手にパックのいちごミルクを手渡す。


「やる」

「……ありがとうございます」

「別、に……てか何でお前までいるんだよ」

「いやー夏木の涙ぐましい努力を四月一日さんに伝えておこうと思って!」

「余計なお世話だ!!」


 プリプリと怒りながら私の隣に座る。

 長身二人に挟まれるとまるで自分が宇宙人にでもなった気分だ。せっかく遥お兄ちゃんが作ってくれた美味しいお弁当の味が……!!


「ねえ、四月一日さん」

「はい」

「夏木がダメなら俺はどお?」

「はい?」

「獅童!」

「だって夏木はフラれたんだろ?だったら別に四月一日さんが誰と付き合っても関係ないじゃないか」

「そういう問題じゃない!」

「そういう問題だよ」


 頼むから私の頭上で言い争わないでほしい。


「ね、どう?」

「えっと……お断りします?」

「えーどうして?」

「どうして、とは?」

「俺もそんなに見た目は悪くないと思うんだよね。それに身長あるから高いところの物取るのに便利だよ?」


 何とも変わった売り込み方だ。

 しかし心の平穏と天秤にかけると、彼らと付き合うのはリスクでしかない。


 もちろんこれが好きな相手なら……そんなことは気にしないのだが。

 今の私は彼らに恋心のこの字も持っていないので、リスク回避を優先したい。


「イケメンは……家に帰れば見れるので、これ以上はちょっと……」

「なんか面白いフリ方だよねえ」

「だって好意を持っていないから、それ以外で付き合うならメリットとデメリットを考えるのは当然でしょう?」

「————つまり、俺と付き合うのはリスクがあるって言いたいのか?」


 え、自覚がない?ファンクラブまであるのに自覚がない??

 私はこの後教室に戻りたくない気持ちでいっぱいですが!?


「現在進行形でリスクが跳ね上がってますかねー」


 ちょっと遠い目をしてしまう。教室にある私の荷物無事かな……


「ああ、夏木……ファンクラブあるもんね」

「別に頼んでない」

「いやいや、獅童くんだってあるよ」

「あ、本当に?」

「うん」

「それじゃあ、デメリットがなくなったら付き合ってくれる?」

「はい?」


 なぜそうなる!?夏木くんは怒って獅童くんを睨みつける。


「四月一日と付き合うのは俺だ」

「夏木と付き合うのはリスクがあるんでしょ?」

「お前だって同じだろ!」

「俺はまだ何とかなるもん」

「もんとかいうな!」


 またしても始まった言い合いに私は深いため息を吐くのであった。

 もうこのまま、午後の授業をサボって家に帰りたい。


 帰らせてくれ……そう心から願うのであった。

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