暗闇での助け舟②




重量オーバーであるのなら悪いのは明乃であることは明白だ。 窮屈で薄暗い中、あまりのバツの悪さに心の中で泣きたい思いだった。


「うわー。 マジかよ」

「このままだと会社に遅れるんだけど」

「誰? 最後に駆け込んで乗ってきた奴」

「きっとその人のせいだよね」


周りの声に明乃は更に縮こまった。 謝りたいが、怖くて言葉が出なかった。 困っているとすぐ近くの誰かが声を上げた。


「止めないか!」


その大きな声に周りは口を閉ざす。


「今こんな状況で犯人捜しをしても意味なんかないだろう。 それに彼女はたまたま最後に乗ったというだけ。 

 重量オーバーを知らせるアナウンスはドアが閉まってからだったんだから、どうしようもなかったと思う。 貴方たちも会社に遅刻しそうになったら、彼女と同じことをしていただろう。 

 そんな彼女を責めることができるのか?」


明らかに明乃を庇ってくれた言葉だった。 現状身体を反転する気にはなれないため相手を確認できないが、非常に感謝していた。


「・・・あの。 ありがとうございます」

「当然のことをしただけですから」


それはとても優しい口調だった。


―――あれ、聞いたことのある声のような・・・?


しばらく待っているうちに電源が復旧したのか明かりがついた。 視界が鮮明になるだけで周りからは安堵が伝わってくる。 チャンスだと思い改めて助けてくれた人を見た。


「と、智光くん・・・!」

「あれ? 明乃さんだったんだ」

「私の名前を憶えてくれていたの!?」

「そりゃあよくすれ違うし、よく見るからね」


名前と顔を憶えていてくれたことが嬉しかった。 


「本当にありがとう。 庇ってくれて」

「そこまで感謝されることはしていないよ。 明乃さんは優しくていい人だね」


―――智光くんだったんだ・・・。

―――まさかこんな時間に会えるとは思わなかった!

―――寝坊してよかったぁ。


喜んでいると内線が繋がり、受話器の向こうから声が聞こえた。


『申し訳ありません。 ただいま復旧作業中をしております。 北側改札における故障と共に、エレベーターにも影響が出ておりました。 緊急避難の準備を進めておりますので、もう少々お待ちください』


通話が終わると同時に再び明かりが暗くなった。


―――よかった、これでもう安心だ。


そう思っていると再び周りから声が聞こえてきた。


「会社に遅れるの確定かよ」

「遅れるから上司に連絡をしておかないとなぁ」

「故障と重量オーバーのダブルパンチでこんなことなってんのか」


わざと明乃に聞こえるよう言っていると思えた。


―――私よりも、故障が原因なんじゃないかと思うけど・・・。


ただ明乃が悪くないとは言い切れず、気まずくしていると再度智光が声を上げた。


「愚痴愚痴と五月蝿い大人たちだな」


耳元で聞こえたため智光の声なのだろう。 先程とはまるでちがう低い声に少しビクリとする。


「智光、くん・・・?」 


暗闇の中智光の方へ顔を向けると突然肩を抱かれた。


「ッ・・・」



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