天才小学生と友達

モリワカ

天才小学生と友達

俺の高校に男子小学生が居る

黒いランドセルを隠すでもなく見せつけ、小学生としか言い様のない男児だ


その小学生は天才らしく中学の問題くらい簡単なのだとか

そのため中学を無視してこの度、高校へ体験入学ということらしい


しかし、まだ小学生 子供だ

まだまだあどけなさが残っている

俺は子供が大の苦手だ

小さいくせに生意気で偉そうな態度にとても腹が立つ

どうせこいつもそういうやつだろう

今は小学生の面倒を見る係を選んでいるところだが、正直なところ俺が選ばれなかったらどうでもいい


「今日から面倒見てやってくれよ」


先生に肩をポンと叩かれた

どうしてこういう時に限って選ばれてしまうのだろうか?

俺は誰にも聞こえないくらいの小さいため息をついた


「なぁ、お前名前なんて言うんだ?」


俺は小学生の面倒を見る係になった

あれから毎日小学生につきっきりの生活だ


「僕は、タカシです。 お兄さんは?」


なんだ、小学生のくせに結構常識あるじゃん


「別に俺の名前なんでどうでもいいだろ。 しばらくの間だけの関係だし」


そう、こいつの体験入学は一ヶ月

一ヶ月経てばこいつとも晴れておさらばだ


「おい、タカシ。 昨日も言ったが食堂はそっちじゃねぇ。 こっちだ」


俺は反対方向に行こうとするタカシを呼び止める

ほんと方向音痴だな、ガキってやつは


「金はあるよな?」


財布を取り出しながら俺はタカシに尋ねる


「持ってないです」


即答かよ

俺は軽く後悔する

あの時、嫌でも断っておくべきだった

俺はおばちゃんに二百円を渡し、おにぎりを二つ買う

そのおにぎりをタカシに放り投げ、俺はいつもの定位置につく


「お兄さんって友達いないの?」


席に着くなりタカシは俺にそう言った

俺は図星をつかれ思わず、すすっていたうどんを豪快に吹き出した


「ゴホン!!!! 急に何を言い出すんだ。 別に居ないわけじゃないし・・・・・・」


そう、俺には友達と呼べる人がいない

小学生の頃から周りと関わりを持つのが苦手で友達の一人もできたことがない

別に悲しいとは思わないが

一人でいる方が気が楽だし、周りに気を使う心配もしなくて済む


「だってみんな友達と食べてるのに、お兄さんだけ一人じゃん」


こいつ、ズバズバ言ってくるなぁ

遠慮ってものを知らんのか?


「一人も楽かもしれないけどね、友達と一緒にいるともっと楽しいんだよ?」


タカシは俺に投げかける

そういうタカシの目は宝石のようにキラキラと輝いていた

友達・・・・・・か

親も先生も一人くらい作っとけ、と言っていたが、そう簡単に作れたら苦労しない

正直なところ何を話していいのか分からないのだ


「じゃあさぁ、僕がお兄さんに友達を作ってあげるよ!」


おいおい待て待て

頼んですらいないのにいきなり話を進めるな

俺は何度も首を横に振る


第一、俺は欲しいともいらないとも言ってない

ただ平和であればそれでいいのだ


「そんな遠慮しなくてもいいのに・・・・・・」


遠慮するのはお前の方だろ!!!! と言いたい気持ちをグッとこらえる


「もういいだろ。 食ったんなら早く戻るぞ」


俺は早々に立ち去ろうとする


「ねえねえ、お姉さん! 良ければこの人と友達になってあげてくれませんか?」


どっと冷や汗が出た

タカシの野郎、一体何考えてやがる!

俺は女子生徒に頭を下げ、タカシを連れて食堂を出る


「なんで止めたの? あの人優しそうだったじゃんか」


「あのなぁ・・・・・・ お前はいいかもしれないがこっちは何も良くないんだ。 もっと周りを見て行動して欲しいものだ」


「ご、ごめんなさい・・・・・・」


タカシが泣きそうな顔をして言う

これも俺が子供嫌いの理由の一つだ

すぐに泣けばなんでも許して貰えると思ってる

そこがとてつもなくむかつく

だが、泣かれると色々と面倒だ

ここは静かにさせるのがいちばん最適とみえる


「あーー分かった分かった。 言い方きつかったな。 ごめんな」


俺はめんどくさい事になる前に謝る

どうして俺がこんな目に・・・・・・


「で、でも、本当は友達欲しいんじゃないですか?」


タカシが俺に聞く


「まぁ、どっちかって言うと欲しい方かもしれないが、別に今すぐ欲しいというわけじゃない」


突然タカシが俺の肩を掴む


「善は急げですよ! 何事も行動しないと始まりませんから!」


タカシは自信満々に言う

はぁ・・・・・・

仕方ない、付き合ってやるか


それから俺達は友達を作ろうと必死に頑張った

だが、そんなに人生はイージーモードでは無い

おそらくタカシが積極的に俺を指さし


「この人と友達になってくれませんか?」


と言い回っているせいだと思う

小学生に頼まれて、ではなりましょうと言うやつはそうそういないだろう


俺たちが友達作りを始めてもう、半年が過ぎた

半年たったというのに未だに友達の一人もできていない

それどころか、避けられている気がする


「なかなか難しいですね・・・・・・」


「そうだな・・・・・・」


俺は適当に相槌を打つ

半年も過ごしていればこいつとの関わり方も少しはわかってきたところだ


「そこでですね! 次はこうしてみるのはどうでしょうか?」


階段を降りながら話をしていると、タカシが足を滑らせて階段から転がり落ちた

タカシは左足を両手で抑え今にも泣きそうな顔をしている


俺は突然のことで咄嗟に動けなかった

不幸中の幸いか、たまたま通りかかった先生が救急車を呼んでくれた

俺はその場に呆然と立ち尽くすことしか出来なかった


タカシは左足の骨折でしばらくの間、入院生活だと医者に言われたらしい

高校の体験入学はここでおしまいなのだそう


思えばあいつになんにも教えてなかったかもしれない

子供が嫌いだからという理由であいつのことをよく見れていなかったのかもしれない


先生はお前のせいじゃない、と言ってくれたが、俺は心の中で罪悪感を覚えていた


休みの日、俺はタカシのお見舞いに行くことにした

半年という短い間だったがあいつには借りがあるしな


俺はタカシが入院している病室の扉を開ける


「あ、お兄さん。 来てくれたんですね! あなたのことだから来てくれないかと思ってましたよ」


それを言える元気があって安心した

俺はお見舞いの果物をベッドの隣の棚にそっと置く

棚の上には『猿でもわかる! 友達の作り方』や『友達を作るにはたった五つのことを行うだけ!』といった友達作りの本が何冊も重ねられていた


「最後まで手伝うことが出来なくてごめんなさい。 でも、お兄さんにどうしても友達の良さを知ってもらいたくて・・・・・・」


こんな小さな小学生にまで面倒を見られるのはゴメンだ


「よし、決めたぞタカシ! 俺はお前の手を借りずに、自分の手で友達を作ってみせる!」


そういうとタカシは嬉しそうに笑った

タカシの笑顔を見るとなぜだか不思議と元気が出てきた

俺はタカシとしばらく話した後、家に帰って友達の作り方について調べた


休み明け、俺は意を決してクラスメイトに話しかける


「あ、あの!」


クラスの視線が全部俺に集まる

怖い・・・・・・ でもやるしかない!


「俺と、友達に、なって、くれ、ませんか?」


とぎれとぎれだったが最後まで言えた

話しかけた生徒は一瞬 はぁ? という表情だったがそれも一瞬


「別にいいぜ。 ていうか、俺たち全員友達じゃん! なあ?」


周りのみんなが笑う

友達がいないと思っていたのは俺だけだったのか・・・・・・

俺はホッと一息つく


タカシ、俺はお前の手を借りずとも成し遂げたぞ!

俺は心の中でガッツポーズをする


授業が終わった後、俺はすぐにタカシの元へ行く


「タカシ! 俺にも友達作れたよ!」


しかし、前にタカシがいた病室はまるで誰もいなかったかのようにもぬけの殻だった


俺は嫌な予感がした

最後にはありがちな展開だがこう目の前で見せられるのはこんなにも苦痛なのか


俺は看護師さんに何度も注意されながらも病院内を駆け回る

タカシ、タカシはどこだ!

まさか、もう・・・・・・


「タカシーーーー!!!!」


俺は迷惑をかけることなど気にせず天才小学生の名前を呼ぶ


「どうしたの、お兄さん。 大声で僕の名前を呼んで?」


後ろから聞き覚えのある声がした

思わず振り向くと、松葉杖をついたタカシが立っていた


「だいぶ良くなってきたから病室移ったんだ。 言ってなくてごめんね」


そんなのはもう、どうでもいい

タカシが無事で良かった


「お兄さん、大袈裟だよ~ ただ足を骨折しただけなのにあんなに大騒ぎしちゃって。そんなに僕のことが心配だった? 」


冷静になって考えてみるとそうだ

足を折っただけで人間が死んだりするわけない

俺は、恥ずかしくなりその場にしゃがみこむ


「ふふふ、変なお兄さん。 ところで、僕に何か用事でもあったんじゃないですか? あんなに大きな声で叫んどいて何も無かったら、さすがの僕でも怒りますよ?」


そうだった

肝心なことを言ってなかった


「俺、自分の力で友達作れたんだ! といっても、元々友達だったみたいなんだけど・・・・・・」


それを聞いたタカシは嬉しそうに俺に抱きつく


「おめでとうございます! 僕がいなくても一人で友達作れたんですね! これからもその友達を大切にしてください!」


後、もう一つ


「タカシ、俺と友達になってくれ」


「何言ってるんですか! 僕達、もう友達じゃないですか!」


俺達は看護師さんに叱られるまで笑いあった


タカシの足はあと三日ほどで完治するのだとか

しかし、三日後は高校の体験入学最終日、タカシとのお別れの日だ


初めてあった時はあんなに嫌がっていた一ヶ月だったが、今はタカシと離れるのが悲しく思える

子供嫌いだった俺も、子供も悪くないなと最近思い始めた


そして、タカシの退院の日になった


「一ヶ月という短い間でしたが、小学生の僕を拒まずにいてくれてありがとうございます。 急なトラブルもありましたがお世話になりました。 残りの小学校生活も、悔いのないように頑張っていきたいと思ってます。 本当にありがとうございました」


完璧な挨拶にみんな思わず拍手をする

タカシは、僕ら高校生に深々と頭を下げる

背負ったランドセルが開いていたのか中身が全部こぼれる

その中にあの友達を作る方法の本があった


横から友達がツンツンと脇腹をつついてくる


「お別れの挨拶しなくていいのか? 一番お世話になったのはお前だろ?」


そうだな

あいつには返しきれないほどの借りがあるからな

俺は、そっと席を立つ


クラスのみんなの視線が俺に集まる

だが、もう怖くない

だって、俺には友達がいるから!


「タカシ! 」


急に名前を呼ばれたタカシは散らばった教科書を拾うのを止める


「今までありがとうな! お前からは、色んなことを教えてもらった! 俺の知らなかったことを教えてくれて、こちらこそありがとうだ!」


俺の机に水滴が落ちる


「あれ? 俺、なんで・・・・・・」


そういった俺の目からとめどなく涙がこぼれ落ちる

止めようとしても止まらない


そうやっているとタカシが僕の方に来てギュッと俺を抱きしめた


「勘違いしないでくださいね。 これは感謝の表れなんですから」


そういうタカシを俺もギュッと抱きしめる


「ありがとう、本当にありがとう」



タカシが高校を去ってから数日が経つ

俺には友達だけじゃなく恋人までできた

どれもこれも全部あいつのおかげだ

なんて言ったらあいつは


「お兄さん自身の力ですよ」


って言いそうだな

俺はフッと鼻で笑う


タカシの面倒を見る係になった時はどうなることかと思ったが、案外楽しいものだと今更ながら思う

残りの高校生活も数える程になったが、友達がいれば問題ないか


「おーい! そろそろ行くぞー!」


「おう! 今行く!」


今度はいつ会えるかな・・・・・・

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天才小学生と友達 モリワカ @Kazuki1113

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