第四章 王立学校三年生

序章 暁

【1】

 かつて生まれ育った街は今は平和で人が溢れて栄えている。

 いや昔以上に人で溢れ見違えるほど豊かになっている。なにより多くの獣人属がなに不自由なく生活している。

 そして貧困の中領民と領主が肩を寄せ合って暮らしていたあの領地は豊かな実りを誇る領地になりただの村だった領都が大きな街に変貌しつつある。

 それなのにこの王都はまるで変っていない。

 華やかな貴族街を離れると貧民であふれかえり、聖教会は何一つ困窮民に手を差し出す事はしない。


 そこに暁が差すように光を灯す存在が有った。

 聖女ジャンヌだ。


 ついこの間まで救貧院が収容者を農奴代わりに使っていたのを廃止させたのは彼女の仲間だと聞く。

 そしてその改革を成し遂げてきた原動力は地道に平等を説いて来た聖女ジャンヌの力なのだと聞いてきた。


 かつて教導派の巣窟の様だったこの王立学校も変わり始めていた。平民たちが力をつけ、ジャンヌを支えている。

 清貧派の下級貴族たちはこれまでの教皇派閥の大貴族の頸木から逃れようと牙をむき、その考えに賛同する上級貴族が清貧派の上級貴族と連携し始めている。


 教皇派閥と反目する王妃殿下と実利を優先するフラミンゴ宰相や東部貴族は清貧派と連携し始めている。

 そして王位継承権一位のジョン王子は聖女ジャンヌの庇護者を名乗り憚る事をしない。


 ジャンヌ・スティルトンの努力が少しづつ実り始めている。

 かつて聖女ジョアンナが望み、無し得なかった事をその娘が成そうとしている。

 幼い身で幾たびも命を狙われたと聞いている。

 その道のりは辛く険しいものだったのだろうが、少しづつ皆に認められてきたのだろう。


 これを機にこの国は大きく変わる。

 この機会に大きく変えて見せる。

 かつて私を排除したこの国を、あの大司祭をあの枢機卿をそしてあの教皇を必ず排除してやる。

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