第162話 王都支店監査
【1】
翌日は、朝からアドルフィーナはオズマとオーブラック商会に行った。
表向きはサン・ピエール侯爵家の別邸に居るエドと打ち合わせをすると言う名目で。
そして私とジャンヌは放課後にカロリーヌを誘ってしれカフェに赴いていた。
「庶民的な場所でごめんなさいね。でもサロン・ド・ヨアンナは使う訳には行かない事情が有ったの」
「そんな。私も春まではずっとセイラカフェに通っていたのですから。お友達と行くならこの店が一番ですわ」
「ありがとうございますぅ。そう言って頂けるとぉ嬉しいですぅ」
「それで、折り入ってカロリーヌ…今回は
「改まって何ですかセイラさん。少し怖いんですけれど」
「私からもお願い致します。少し込み入った事情で極秘に動かなければいけなくって」
「ジャンヌ様迄、本当に何が有ったんですか。協力なら幾らでも致しますが詳しくご説明願います」
ぎこちなく微笑むカロリーヌに私は説明を始めた。
オズマにジャンヌが助けを乞われた時から昨日までの経緯の概略を説明したのだ。
「それではオーブラック商会の筆頭株主として私の名前を借りたいと言う事なのですね。それは構いませんが、そうする事で何をなさろうとしていらっしゃるのですか」
もちろんカロリーヌはその疑問の答えを知る権利はある。
「オーブラック商会は教導派主導の初めての株式組合としての仮面をかぶって貰おうと考えてます。ジョン殿下もイアン様もヨハン様も救貧院を回って教導派の裏側を理解して頂けたようですから、協力を惜しむ事も無いでしょう」
「でも私はともかく他の四人は跡取りと言っても学生ではないですか、投資して頂けるでしょうか?」
「名目だけの投資で良いのですよ。ご実家の名前が使えれば、王家や宰相様、宮廷魔導士団長に近衛騎士団長それだけで人は信用してしまう物です。別に名義だけでなく実質投資をされてオーブラック商会をポワトー伯爵家が牛耳る事も可能ですよ」
「それではライトスミス商会と反目する事になりませんか?」
「ビジネスパートナーとして持ちつ持たれつの関係が築けるならソレはソレで構いませんよ。ポワチエ州では仲良く商会でシェアを分け合って行く事は可能ですから」
「ウフフ、そうですね。今でもアヴァロン商事から色々と投資して頂いていますしこの関係が崩れる事は無いでしょうから」
「それで、今回はこういう活動は一切学外で行いたいのです。それと私が前に出る事無くカロリーヌさんとジャンヌさんで仕切って頂きたいとも思っています」
そう、出来れば彼女にはジャンヌを連れてシャピの街で活動して貰いたい。
カロリーヌのもとにはルーシーやミシェルも居るしジャックたち三人もいる。手駒は充分だ。
「先ずはオーブラック商会の支店を開設して本店の機能を全てシャピ支店に移す段取りをお願い足します。オーブラック商会が現在持っている在庫に加えて南部からの輸入品を補填して契約済みの大貴族に発送する手はずをシャピで整えさせます。ハスラー製に拘る貴族にはシャピで購入して貰いハスラー聖公国の商船団は締めだします」
「でもそれは、そう船団を変えるだけで荷下ろし費用高騰の解決にはなりませんよね」
「ええ、この四半期はオーブラック商会にもこれで乗り切って貰って次の四半期からの挽回の下地を作ります。株式組合化はその投資の為です。ここを乗り切れば一気に展望は開けますから」
「その時にはシャピの商工会にも新しい風が吹いてくるのでしょうか?」
「ええ、カロリーヌさんが筆頭株主の商会がシャピの港の物流業務を全て押さえる事になると思います。商船を押さえて荷役を押さえて物流も抑えてしまっては商工会は太刀打ちできませんからね」
【2】
そうこうしている内にアドルフィーネがやって来た。
「遅くなりましたセイラ様。オズマ様には引き続いて王都支店の方々に状況の説明に残って貰っております。ジョン殿下たちからの投資が受けられるかもしれないと言う事で支店の者たちは非常に協力的でしたので仕事がはかどりました」
そう言って十数枚に纏められた王都支店のキャッシュフローや損益計算書、賃借対照表などを渡された。
「本当に仕事が早いわね。あなたにお願いして正解だったわ」
「アヴァロン商事やライトスミス商会の支店から幾人か連れて行きましたから。しかしライトスミス商会の商会員に比べるとオーブラック商会はまるで素人集団です。成れていない事も有るのでしょうがかなりどんぶり勘定の様ですね」
「まあ南部や北西部のやり方に慣れていないのでしょう。特に株式組合法に関連する業務は私たちより熟練している者など今は居ないと思うわ」
「数字が多すぎて私にはさっぱりをわかりませんね」
書類に目を通しながらカロリーヌが溜息をつく。
「余り数字は気にしないで、アドルフィーネが書いているまとめや考察を呼んで下さい。彼女達が経営状態を調べた結果が書いてありますから」
「これを見る限りではオーブラック商会の利益は、当初予算通りであまり大きくは有りませんね。特に大貴族個人に対する使途不明の支払いがかなり多いのではないですか?」
ジャンヌが使途不明金に注目してきた。
「多分付け届けでしょうね。これが無ければ今の取引価格でも黒字になると考察が有りますから」
「取り戻せないのでしょかね? この使途不明金は」
「払った物は絶対返さないでしょね。払わなければ買い付けや購入の契約を切られると言う事なのでしょうね」
「各部署に賄賂を払ってその結果が赤字ではオズマさんも救われませんよね」
「資料を見る限りでは商会員に対してもそこそこの給料は払っていますし、ランドック家が不当に儲けを搾取しているわけでも無いようですから、根本原因は上級貴族でしょうね」
「この取引相手をどうにか出来ないでしょうかね」
「出来ると思いますよ。付け届けをやめれば良いんです。それで商品を買い叩いてくる領主なら売買契約を切ればいい。上級貴族寮からの仕入れも停止させられるならそのまま切ってしまいましょう。取引先の大貴族は中央街道に面した領主ばかりですから取引相手を河筋の中小貴族に切り替えれば良いのです」
「そううまく行くでしょうか」
「それはオーブラック商会の商会主様の決断次第でしょう。私は道を作っておきますのでジャンヌさんとカロリーヌさんはオズマさんと一緒にオズマさんのお父上との交渉をお願い致します。ナデテもルイーズもミシェルも居ます。アドルフィーネも付いて行かせます。それに護衛の三人も連れて行けば交渉何て勝手に進めてくれますよ」
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