ANIMAROS CRISIS 〜ついに判明⁉︎本当は怖い異世界神殿の真相とは〜 海中崋山羊
1
どこで道を間違えたのか、夢か現か私が目を覚ました時は見たこともない街の中にいた。一見すると、西洋の街並みの様だったが、そこで使われている文字はアルファベットと違っていて、見たことのない文字に見えた。
どこかのテーマパークにしては、歩いている人々の衣装が日本離れしていて、海外旅行かと思ったが、生憎無意識のうちに海外旅行をしているだなんてそこまで破天荒な生活は送っていない。そもそも私は俗にいう引きこもりで、ここ数日のうちコンビニ以外へ出たことは無い。
では、夢かVRゲームかの二択になるが、いずれにしては高画質鮮明過ぎていたために混乱を極めた。
じゃあなんだ? 引きこもりが目を覚ましたら、西洋風の街並みに知らない文字、夢でもゲームでもない、つまり導き出される答えは一つ!
「異世界転生だ」
しかし、トラックに轢かれたにしろ、線路転落だとしても、向こうの世界で死ぬ直前の記憶が無かった。
死んだ人間は、自分の死ぬ瞬間の記憶を覚えていないとは聞いたことがあるが、自分が何故ここにいるのかは知りたかった。こういうのは、神様が教えてくれるものじゃないのか。みすぼらしい死にざまを見せていないことを祈ろう。
現実世界への未練たらたらだが、今は目の前の現実を受け入れるしかない、そう心の奥底で感じた。今まで意識したことは無かったけれど、私はこういう時思い切りがいいのかもしれない。といっても、私はこの世界の文字の読み書きができない。
とりあえずとして、現場の把握が必要だ。西洋風の石造りか木造の街並みに露店のような店が立ち並ぶ。布や服を売る店、燻製肉を売る店、怪しい装飾を売る店…。 見るにも怪しい老人商人と目が合ってしまった! すぐに目を逸らしたが、何か私に声をかけてきていた。
「そこの旅人さん」
聞き間違いだと思った。
「そこの旅人さんよ。こっちへおいでなさいな。分からないことがあるんだろう?」
聞き間違いじゃなかった。
老人がたまたま日本語を知っているのか、それともこの国の話言葉が日本語なのかはともかく、無視しておくのは良くないと思った私は店の前へと歩み寄る。
「旅人さん、見知らない服を着ているね。どこから来たのかい?」
そういえばジャージだった。
「ひ、東の方です」
ここが向こうの世界でいうヨーロッパと同様の地域にあるのかは知らないが、適当に言っておいた。どうせ日本だとかアジアだとか言っても通じないだろう。そもそもこちらが話す言葉を理解するかが問題ではあるが。
「東というと、絶天地を越えた向こうかな。遠路遥々どういったご用事でここまで?」
どうやらちゃんと日本語を理解できるようだが、何と返せばいいのか分からなかった。分からないと答えるのは余りにも怪しく、かといって適当な理由を言う訳にはいかなかった。
「ここに来るのは決まっていたのです」
無意識のうちに私の口はこう喋っていた。まるで反射するように。それがこういう状況の常套句であるように。
すると、老人は懐中時計を見てああ、確かにとうなずいて怪しい笑みを浮かべた。
「では、こうなることも決まっていたのだから、お恨みなさるなよ」
その瞬間、ジリリリと時計から音が鳴ると、路地や家の屋根、窓など各方向からペストマスクをした甲冑姿の兵士が現れた。老人はにやにやしながら「報酬は」とペストマスクの一人に聞くと、ペストマスクは無言で時計の数字を指さした。。
さっきまでいたはずなのに気が付かなかった。一体どんな理由をもって私を囲んでいるのか。そもそも何者なのか。私の返答が間違ったのかと、脳内がぐちゃぐちゃになったが、とりあえず明らかな窮地であるこの状況をどうにかしないといけない。
無抵抗のまま手を後ろで縛られると、地面に銀色をしたミミズのような線の群れが私の足元へと来て、一瞬冷えっとしたが、線は何やらいくつかに固まって蠢いた。明らかに漢字やかなでないにも関わらずその字が私には読めた。
「一歩下がれ」
指示ととれたそれを信じるには怪しい部分が多すぎた。しかし、どちらに転んでも最悪ならば、より面白い最悪へ。状況が変わる方へ。
私が一歩下がると、地面に黒い穴が開き、私だけを深淵へ落とした。
落ちた先には、辺り一面を先ほどの線が蠢いては、文字の様な者を作る。しかし、海のような空間全体にいるため読めなかった。
「ここは一体…」
「ある一種結界のようなものだと思ってもらっていい」
そう私の問いかけに返したのは、古代ローマ人のような服を着た男だった。彼を認識すると同時に彼は私の命の恩人なのだと理解した。私が感謝の言葉を言おうとすると、
「お礼などはいい。とにかく急ぎなさい」
「何処へ?」
「実は、彼らの足止めはあまり出来ない。直に追いつかれるであろう。少しでも今落ちた場所から離れた方が良い」
私は、足場のがどこにあるのか分からず恐る恐る一歩を踏みだす。すると、地面はコツンと音が響く。
「ここは崩されない限りでは、穴や段差などという概念はない。安心してこちらへ来なさい」
そう聞くと、私は安心して恩人のもとへと向かう。
「色々疑問はあるだろうが、ゆっくりは話せない。私のことは好きに呼ぶといい」
「では、恩人さま、この結界からはどうやって外に出るのですか」
「ここを出ると、リュオスへ出る。出るためには、君がこの中から何か言葉を見つけ、口に出さなければいけない。何でもいい、目につく言葉を探しなさい」
そう言われても、どれが知っている文字なのか、そもそも知っている言葉なんてあるのか。そもそも意味不明なルールは何なんだ。この短時間に色々なことがあったが、いよいよ幻想じみてきた。
大体私のせいではあるが、そうこうしているうちに、ペストマスクが数人頭上や足元へと降りてきた。私たちは、向こうへ向こうへと走って逃げる。
恩人が後ろへ何か光る石をいくつか投げると、石はやがて膨らみ、蜂の大群へと変化した。
「君は奴らを見なくていい。ただ言葉を探すことだけに専念しなさい」
ペストマスクが対抗して火縄銃を撃つと、
空間に黒い穴が開いて足場が狭まられた。
もはや時間が無いと、私はとにかくひたすら文字を目で追った。すると、何故なのか、エリーゼという文字列が目についた。エリーゼとは誰のことなのか、アニメのヒロインですらその名前を知らなかったが、何故なのか、長髪の少女の姿が頭に浮かんだ。
「エリーゼ」
そう私が言うと、無数の線が群れを成して集まっていき、一つの巨大な魚の影となり、私たちは足場を離れ、純白へと落ちていく。いつの間にか恩人は姿を消していて、この先どうなるのか不安になりそうだったが、白銀色に輝く魚の姿があまりにも美しかったがためにどうでもよかった。こうして私は深い白へと沈んでいった。
意識を朦朧として目が覚めたのは、崩れた神殿のような場所だった。直射日光がまぶしく、手で目を隠したかったが、疲労していて、手足を動かせなかった。ああ、こうして土に返っていくのか、異世界生活をもう少し楽しみたかったと嘆きながらまた意識を失った。
次に目を覚まして最初に目に入ったのは、いかにも怪しい魔よけのお守りが吊るされた天蓋だった。最初に目に入った物、豪壮なベッドで起きたことだけでも私はまだ生きていて、異世界生活はまだ続いているのだと分かった。
ベッドの横では、私を看病してくれたのか、ワイングラスを片手に持つ少女が座っていた。
その長い髪からすると、この少女がエリーゼなのだろう。
「ようやくお目覚めかね。その様子だと、やはり私を知っているように見える。これからよろしく」
次に呼ばれるのは、その口調から良ければ相棒、悪ければ下僕だろうと思っていた。
「私の愛するお人形さん、佐山杏介君」
二つの意味でぞっとした。
どうやらこの異世界は言葉以外を簡単に理解させてくれないらしい。
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