『データが消えた!!』【ナニカコ】私の考えたネタで作品作ってくださーい【3】参加作品

@Ak_MoriMori

データが消えた!!

 彼は、スマートフォンを取り出すと、占いサイトを開き、今日の運勢を確認した。


 今日の獅子座は・・・なんと、ドクロマーク。

 なになに・・・大切なものを失うでしょう・・・。


 彼は、ゆっくりと、肺の中の空気を吐き出した・・・。

 まるで、肺の中に煙草の煙が、充満しているかのように・・・。


 彼は、部屋の中にいるプロジェクトチームの面々を眺める。


 彼のプロジェクトチームは、四人で構成されている。

 

  新入社員の『渡辺わたなべ 明美あけみ』。

  入社三年目の『本庄ほんじょう さやか』。

  入社五年目の『逸木いつき ひろし』。

  そして、彼、『皐月さつき 浩太こうた』。

 

 今、部屋の中に本庄の姿は、見えない。別の部署に資料を取りに行っているのだ。

 だが、今いるメンバーだけにでも、話さなければならない。大切なことなのだ。

 意を決して、皐月は、部屋の中にいるメンバーに声をかけた。


「みんな・・・話を聞いてくれ!」 

 

 渡辺と逸木が、皐月のことを見る。皐月は、沈痛な面持ちで、続ける。

「悪いな。みんな、聞いてくれ。

 私の今日の占い結果なんだが・・・。ドクロだった・・・。

 そして・・・大切なものを失うと・・・あった・・・。」


 渡辺が、あっけらかんな様子で言う。

「それが、どうしたんですかぁ?」


 皐月は、片手を頭の後ろに回し、天を見上げる。そして、頭をポンポンと叩く。

「みんな・・・すまない。

 だが、悪いのは、私ではない。占い通りになっただけなんだ・・・。

 明日のプレゼンのデータを消しちまった・・・。」


「えーっ!」

「うそッしょ! リーダー・・・。」


・・・・


 今、この部屋は、緊迫した空気に包まれている。

 空気が・・・非常にピリピリしている。


「リーダー。こんな時のために、バックアップがあったはずですよね・・・。」

 逸木が、明るい顔をして、皐月に聞いた。


「ああ、あったさ・・・。だがな、さっきも言った通り、私の占い結果は、ドクロ

 だ。ただでは、すまない。大切なバックアップまでも、私から奪ってしまった。」


「それって・・・。皐月さんが、消しただけじゃ・・・。」

 渡辺が、怪訝そうな顔をして、皐月に言う。


「いや、私ではない。私の中に潜む第二の人格が覚醒し、間違った操作をおこなった 

 のさ。私が、やったんじゃない・・・。」

 皐月は、へらへらしながら、言い訳を続ける。

 人間は、追いつめられると、笑ってしまうのだ。


「と、いうことは、バックアップも完全にないってわけですか? どうします?

 今から、作り直すにしても、時間がありませんよ。相手先と掛け合って、先に延ば

 してもらうしかないと思いますが・・・。」

 逸木が、冷静に意見を述べる。じつに正論だ。


 だが、皐月は言う。

「いや、厳しいな・・・私の評価が下がってしまう。まだ、家のローンが残ってい

 る。ボーナスを減らされては、かなわんのだ・・・。」


 逸木と渡辺は、顔を見合わせた。

 目で意見を言い合う。「こいつ・・・腐ってる・・・。」


「何か・・・何か・・・いい意見はないか?」

 皐月が、二人に意見を求める。


 渡辺が、突然、キラキラと顔を光らせて言った。

「わ、わたし・・・。きっと、お役に立てます! 今まで、黙ってたんですけど、 

 私、時間を・・・少しですけど、過去に戻す能力があるんです。

 だから、皐月さんが、ファイルを削除する前に時間を戻して・・・。」


 皐月が、鬼のような顔をして、渡辺に怒鳴りつけた。

「渡辺ッ! やめろっ! それはな・・・ワナだ! 運命のワナだぞっ!

 もし、そんなことをしてみろ・・・絶対に、俺たちは、同じことを繰り返すことに

 なる・・・ループ地獄に落ちるぞッ! そんなの・・・私は・・・ごめんだッ!」


 渡辺は、シュンとして、泣きそうな顔をしている。


 皐月は、慌てて、渡辺をなぐさめた。

「すまなかった・・・渡辺。意見をありがとう。だが、さっき、言った通りだ。

 キミのためでもあるんだ・・・。」


「大丈夫です。皐月さんの言う通りですね・・・。SF小説の定番ですもんね。」


 皐月は、うなずき、逸木に向かって言う。

「逸木・・・。お前の意見を聞かせてくれないか?」


 逸木は、自分のバッグから、ごそごそと何かを取り出すと、それを皐月に見せながら、言う。

「リーダー。ボクは、最近、こいつを手に入れました。夢を叶えるノートです。

 こいつに叶えたい夢を書いて、枕の下に入れて、寝ると、そのうち叶うそうです。

 だから、こいつに・・・。」


「逸木ッ! 私たちには、時間がないんだ! 逸木、お前の考えは、素晴らしい!

 だがな、その願い、いつ叶う? 私たちは、明日、必要なんだ!」


「はあ・・・。皐月さんが、消したんでしょうが・・・。」

 逸木は、小声で、皐月をなじったが、皐月の耳には届かなかった。


「ああ・・・。どうすればいい・・・。」

 皐月は、立ち上がると、うろうろし始める。


 その時だった。

「戻りましたッ!」本庄が戻ってきたのだ。


「どうしたんですか? なんか、場の空気が・・・どんよりしてますけど?」

 

 皐月は、今までの経緯を、本庄に話した。

 もちろん、すべて、占いのせいにして・・・。


「あっ! それだったら、大丈夫ですよ。

 わたし、さっき、そのファイル、USBメモリーにバックアップしておいたんです。

 もしかしたら、ちょっと、データが古いかもしれないですけど・・・。でも、これ

 をベースに追加すれば、そんなに時間もかからず、復元できると思います。」


 皐月は、小躍りした。

「さすがは、本庄くん・・・頼りになる。」


 皐月は、本庄からUSBメモリーを受け取ると、早速、データの復元作業に移る。

 渡辺と逸木も、皐月の背後に回り、その作業を見守る。


【本庄 さやか  性別:女 年齢:25歳 彼氏いない歴:25年】

 彼女は、その容貌美しく、まさに女の見本。身にまとうオーラもすさまじい。男に対し、まったく興味を抱かない、真のジネスウーマン・・・。


 そんな本庄に、皐月が声をかける。

 渡辺と逸木が、本庄を見て、ニヤニヤと笑っている。


「ほ、本庄くん・・・。

 キミ、ファイル名は、確かにプレゼンものだが、な、内容が・・・違う・・・。

 キミ、日記は・・・ロックしたほうがいい・・・。」


 本庄は、意味がわからなかった。

 確かに、プレゼンのバックアップファイルが入ったUSBメモリーを渡したはずなのに・・・。急いで、皐月の元に行き、PC画面をのぞく・・・。


 そこには、『さやかの妄想日記』の文字が・・・。


 本庄の唯一の楽しみ、乙女ゲーに出てくるイケメンとのイチャイチャ妄想日記。


 そうだった。ばれないよう、日記のファイル名をプレゼンのファイル名にしていた

のだ。まさか、こんな・・・こんな形で、自ら暴露してしまうとは・・・。


 本庄の目の前が、真っ暗になった。

 今まで、コツコツと築きあげた美ジネス・ウーマンというキャラが、音をたてて、

崩壊していくのを感じていた。しかしだ。このような危機的状況でこそ、冷静さを

装う。それが、真の美ジネス・ウーマンの振る舞いというもの・・・。


 だから、何事もなかったかのように、顔色ひとつ変えずに言う。

「あら、すみません。間違えました。えっと、こちらのUSBメモリーでした。」


 あらためて受け取ったUSBメモリーには、正しいプレゼンのバックアップファイルが入っていた。


「本荘くん・・・。ありがとう。無事、復元できたよ。」

 皐月は、にっこりと、本庄に笑いかけ、USBメモリーを返す。


「お役にたてて、なによりです。あっ、そうだ。ちょっと、資料を取ってきます。」

 本庄は、部屋を出ていった。


 渡辺と逸木も、何事もなかったかのように、自分の席に戻り、仕事を始めている。


 皐月は、復元したファイルを別のフォルダに移そうとし、ショートカットキーの操作を行う。


 その瞬間、プレゼンのファイルが削除されてしまった。


 呆然となる皐月、焦りながら操作したせいか、プレゼンのバックアップファイルまでも消してしまう。


 フフフッ・・・なんか、既視感があるな・・・。


 そう思いながら、皐月は、スマートフォンを取り出し、占いサイトを開く・・・。

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