第453話大体半年後の出来事

 ソフィアやベル達と色々とありながらも、なんとか仲直りすることができた。

 母さん達の結婚の日の夜。あの日、あの玉座の間での出来事の後は場所を移して色々と話をしたり、また後日一緒にどこかに行ったりして、今では前のように友人として接することができるようになっていた。


 結局、俺は自分勝手な自分を変えないという選択をすることにした。

 正確には変えないまま変わっていくというめんどくさい感じだが、その想いは他人が簡単に理解できるものでもないだろう。

 俺としても、他人にどうしても理解して欲しいってわけでもないし、誰かが理解したいのなら「なんかそういう感じ」というフィーリングで理解しろとしか言えない。


 で、まあそんなわけで仲直りした俺は、普段通りの生活へと戻っていったのだ。……普段通りと言っても、母さんがいるので完全に今まで通りってわけでもないけど、特に問題が起きたってわけでもないのだから普段通りと言っていいだろう。


 聖国に送った『影』からは、なんか結構大変な状況だ、みたいな情報が送られてきたけど、こっちにはなんの影響もない。

 なんでも、飢饉が発生しているとか。それも、国の一部が〜、とか、全体的に少しずつ〜、なんて感じではなく、国全体がガッツリとやばいらしい。

 このままでは、数年後には聖国という国がなくなっている可能性さえあるそうだ。


 そんなにやばい状況なのか、と思ったが、原因不明で植物が全て枯れるとなれば、そりゃあやばいか。

 だが、そんな状況だってんなら、こっちにとってはありがたいことこの上ない。聖国は俺達を目の敵にしているだろうし、なんだかんだと理由をつけてまた戦争をふっかけてくるかもしれない。

 そんな国が困ってるんだったら、ザマアミロって感じだし、そのまま潰れてくれるなら万々歳だ。


 自国が大変なんだったらこっちに手を出してくる余裕もないだろうし、戦争は起こらず、政治的な攻撃も起こせない。そんなことしてる余裕なんてないからな。


 強いていうなら勇者という戦力がいるから少し……という感じだな。俺たちを倒せばこのカラカスの領土をそっくりそのままとはいかなくとも、多少なりとも手に入れることができる。

 そうなれば、自国内で植物が育たずとも生き残ることができる……かもしれない。

 だから攻撃したいが、大軍は動かせないから勇者という規格外の戦力を密やかに送り込んでトップを暗殺しに来る可能性は考えられる。

 まあ、伝統的な勇者と魔王の戦い方だな。勇者達が少数で敵の本拠地に乗り込んで魔王を倒しにいく、ってな感じ。


 だが、勇者は来ない。来るわけがない。

 こっちに送って俺達を倒しにくるにしても、大規模な軍は送れないんだから勇者様御一行+護衛兵部隊くらいだけだろう。

 しかしながらその程度で俺たちカラカスが負けるはずもない。いくら勇者が規格外だとしても、こっちにだって化け物がいる。親父という化け物がな。

 あとは勇者が倒し損ねた『魔王』の片割れもいるし、俺もいる。なんだったら婆さんや、あんまり戦ってほしくないけど母さんもいる。あとついでにリリアもか。


 その戦力全部を把握しているとは思えないが、多少なりともわかっているだろう。最低でも親父と婆さんと俺はバレてるはずだ。リリアは微妙だけど、母さんと魔王についてはバレていないとは思う。


 だがまあ、確実にバレている戦力だとしても、第十位階が三人もいることになっている。

 そんな場所に勇者を送ったところで、倒し切るのにはどう考えたって時間がかかるし、そんなことに時間をかけるくらいなら、『勇者様』という立場をつかい他国に行って支援を求めさせた方が得だろう。


 だから、ここには勇者はやってこない。


「いやー、助かったよ。この街の構造ってなんだかわかりづらくてさ」

「……まあ、外の人からしてみればそうでしょうね」


 ……なんて、そんなことを考えていた時期もありました。


 まあ実際のところは来るかもしれないなあー、とは思ってたさ。勇者の名前を使ったところで、すでに『魔王』は倒されているわけだから、その存在に今までほどの効力は期待できない。

 そんな勇者を他国の使者として送ったところで、政治能力の低い勇者では言いくるめられておしまいになるだろう。つまり、使い物にならない。


 だが置いておくだけでは無駄飯喰らいとなり、自分達が呼び寄せた『勇者様』なのだからそれなりの待遇で相手をしていなければならないため、さらなる浪費となる。

 そんなことで資源を使うくらいだったら、成功するかどうかはさておき、こっちに送った方が得になる、と考えることもできる。


 俺を倒すことができれば聖国にとってプラスだし、幹部の一人でも殺すことができただけでもプラス。相打ちだったとしても、『魔王』を倒した勇者はもう用済みだから構わない。


 そう考えたのなら、送ったほうが得なのかもしれない。


「早いうちに出会えてよかった、というべきなんですかね? 遅ければ危なかったですから」


 そんなふうに考えていたんだが、まさか本当に会うことになるとは思わなかった。


「ああいや、これでも俺たちも結構強いんだ。襲われても切り抜けるくらいはできるさ」

「そっちの意味もですが、別の意味ですよ。そちらの魔法使いさんと騎士っぽい人は大丈夫でしょうけど、あなたとそっちの女の人はスリに遭遇しても気づけないでしょ? それに、もし誰かと話でもしようものなら、相手によってはカモにされてたと思いますよ。道案内と言われて誘拐されることもあり得ますし、馬鹿みたいな金を吹っかけられることもありますんで」

「え? あ、あー。そっか、そっか。そういう心配はあったな。俺たち、そういうのはあんまし得意じゃないからなあ」


 俺の言葉に、そう言って誤魔化すように笑う青年。こいつが勇者である。


 今俺は、なぜか勇者の道案内をしていた。


 なぜか、とは言ったが、こうすることを選んだのは俺自身の意思だ。


 実際のところ勇者達がこの街に来ていたのは知っていた。

 常に俺自身が調べているわけではないけど、この国にある植物達には大きな動きがあったら知らせるように伝えていた。

 距離の関係で俺自身では探ることができないため、フローラを中継しての情報収集だからそれほど詳細には調べられなかった。それでも重要人物の動きや大きな出来事くらいは把握できる。


 なので、勇者が国境を秘密裏に越えてカラカスに侵入してきたのは驚いたけど、その密入国自体は分かっていたし、その目的がカラカス、あるいは花園だってのも分かっていた。


 ただ、俺の能力を知っている者はここで一つ疑問が出てくることだろう。


 どうして聖国にいる時から勇者の動きを植物に教えてもらわなかったのか、と。


 確かに、普段の俺ならそうしたし、実際にそうしてた。勇者だけではなく、聖国の上層部の動きも掴んでいた。

 でも、今はできないのだ。前に聖樹と話したことがあったが、聖国周辺だけ植物から声が届かなくなってしまった。そのため、聖国での勇者の動きが分からなかったのだ。


 まあ、聖国がおかしいとわかった時点で、そっち方面からやってくる奴がいたら全員報告しろって植物達には伝えておいたから、勇者が密入国した時点でわかっていたわけだが。


 そんなわけで聖国での情報は入らずとも、勇者の行動事態は把握していたのだが、今のこの状況は想定外だった。


 でもさ。でもだぞ? 仕方ないと思わないか? まさか適当に街をぶらついてたら遭遇するとは思わないじゃん。


 勇者がどのあたりにいるのかはその日の朝と晩に伝えてもらっていたけど、今までの進み具合からして勇者達の到着は予想では明日のつもりだった。

 でもどういうわけか今日到着している。大方、街が近いから移動の速度を上げたんだろうけど、そのせいで俺は予定外に勇者に遭遇してしまった。

 しかも、勇者達が来るであろう東とは逆方向にいたにもかかわらずだぞ? わけがわからなかった。


 そんな突然の出来事で俺は混乱したが、よくよく考えてみれば良い機会ではないのか、と考え直し、少し危険ではあったが勇者に接近することにしたのだった。


 その方法が、道案内。あるいは護衛。


「俺達、というよりも、その者が言ったように主にあなた方二人ですが」

「うっ。まあそれはその……」

「申し訳ありません。これでもできるだけ迷惑をかけないようにと思っているのですが……」

「まあ世間知らずなお嬢様には仕方ないかもねー」


 護衛と言っても、こいつらを守るんじゃなく、こいつらに絡もうとする者を守るためだけど。

 この花園はお客様用の街なので、安全第一を考え暴力沙汰は禁じているが、それも暴力は、だ。スリや詐欺までは無くならない。だってお客様用って言っても、所詮はカラカスだし。それが嫌なら護衛を雇うか案内を雇うことができる。そのための人員は門の前に待機してるし。

 まあ、花園の住人が起こす犯罪から花園の住人が守ることを考えると、いささかマッチポンプ臭い気がするが、気にしないでいいだろう。気にしたところでなにが変わるわけでもないしな。


 なので、俺はそういった奴らに混じって、こいつらが悪いのに引っかかって問題を起こされる前に案内役を買って出たのだ。

 もちろん、それなりに高い料金を払ってもらったが。

 俺の総資産からしてみれば端金だけど、金が入ったことに変わりはない。これでお菓子でも買ってみんなで食べようっと、わーい。

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