第332話正当な後継者
「——と、そんなわけだ」
「なるほどな。なんとなくはわかったが……」
敵を倒しながら親父から道中で何があったのか軽く話を聞いたのだが、そうしている間にも続々と応援がやってきて、俺たちの周りには人が集まっていた。
一掃することはできるけど、そうすると城が壊れるので加減するしかない。
だが、敵もさるもので、第十位階はいないとしても高位階のものはそれなりにいるらしくなかなかめんどくさいことになってる。
播種とかは盾を使われると防げるから、俺なんかファランクス的な隊列組まれてる。これ、個人を相手にする戦術じゃなくね?
なお、親父はそんなの関係なくなんでも切るので、敵も固まらないで避けることを中心に戦っている。まあ、避け切れずに切られてるんだけどさ。
「これ、どうする? 一気に片付けなくてよかったのか?」
もう十分時間を稼いだだろうし、敵の戦力は人も魔物も合わせてここに集めることができた。俺が助けた奴らはもう逃げることができただろう。
このまま戦い続けるのにも飽きたし、そろそろ敵のボスを倒しても問題ないだろう。
なんて思ったんだが……ってかそもそもの話、なんだって親父はこんな遊んでるんだ? 親父にとってはピンチでもなんでもないから遊んでたとしても問題はないが、親父なら城の崩壊を避けつつ敵を一掃することも、ボスを倒すこともできるだろうに。
「そうだなあ。そんじゃあ、片付けっから。そろそろお前の助けた奴らもいい感じに逃げられただろ」
「気づいてたか」
どうやら親父は俺が助けた奴らのことに気がついていたようだ。だから手を抜いて戦っていたわけか。
気配で察したのか外の騒ぎでも聞こえたのか、或いは俺の行動なんて予想済みだったのか。
まあなんにしても俺の行動がバレバレで、協力してくれたのは確かなわけだ。
「そりゃあな。じゃなきゃお前がわざわざ手ェ抜いてちまちま戦う訳ねえだろうし」
「まあそうか」
大規模な技は城を壊すから、って言っても、壊さないように戦うことだってできる。
前に親父からもらった『寄生樹の種』でもばら撒けば一発で解決だ。その後の処理は大変だろうけど、それは俺の仕事じゃない。城の騎士や兵士の皆さんが頑張ることだ。
或いは婆さんからもらった『マンドラゴラ』を育てるとか。そうすれば苗床になったやつ以外も気絶するだろうし。欠点は俺たちも効果範囲に入るから気合いで耐える必要があるってことだな。
エドワルドから貰った『トレント』は却下で。だってあんなの育てたら城が壊れるし。敵の一掃って意味では役に立つだろうけどな。
まあそんなわけで、俺でもやろうと思えば城を壊さずに敵を倒すことはできる。
「で、どうする? 俺がやるか?」
「どうもこうも——こうすりゃあいいだろ」
俺が対処する場合はどうやろうか、なんて考えていたんだが、そんな考えは親父のたった一度の行動で無駄になった。
親父はその手に『聖剣』を生み出し、横に薙ぎ払った。薙ぎ払う瞬間、剣は馬鹿みたいに伸びて城を輪切りにするんじゃないかってくらいの斬撃となった。
そんなでかい攻撃を放ったら普通なら城ごとぶった斬られるもんだけど、聖剣の効果によって望んだものだけしか切られず、城は無事だ。
代わりに、その道中にいた騎士たちはそのほとんどが真っ二つになって死ぬこととなった。
「一撃とか、相変わらずのバケモンだな」
「おめえも似たようなもんだから安心しろ」
安心できる要素がないんだが? ……まあ、一撃とは言わないでも一掃そのものはできるから間違いでもないかもしれないけど。
「ってわけで、もうおめえを守る盾は消えたぞ。次はどうすんだ?」
さっきの聖剣による一撃だが、〝ほとんどが〟と言ったように、わずかながら残っている敵はいた。
敵のボスである新王と、その周辺にいる奴らだ。どうやら魔法か道具かは知らないけど、攻撃を防いだようだ。
親父の攻撃を防ぐって相当だと思うけど、まあ本気じゃなかったしそんなもんだろ。
俺との軽口を終えると、親父はその新王に向かって挑発的に話しかけた。
「貴様ら! 我を誰だと心得ている! 己らが何をしているのか理解しているのか!」
そんな親父の言葉が気に入らなかったんだろうな。それに加えて状況もだろうが、とにかく今の状態全てが気に入らない新王は、乱暴な動作で玉座から立ち上がった。
「我こそはこの国の正当な後継者であるぞ! そこの者のような紛い物ではなく、本物の王族だ!」
フィーリアのことを指しながら、新王は怒りを吐き出すように叫んだ。だが、紛い物と本物? なんだそれ?
「本物? それはどういう……」
「そういやさっきも偽王だとかなんだとか言ってやがったな」
俺の言葉に反応した親父がそう言い、さらにその言葉に反応して新王が叫ぶ。
「そうだ! この国は今まで偽りの王に騙されてきたのだ!」
そうして話されたのは、こいつの身の上話兼王族の入れ替えによる王家の正当性の如何についてだった。
曰く、今までの王家は平民の子供と取り替えられたためにそれまでの王家の血は継がれておらず、王家として相応しくなかった。
自分は正当な王家の血を継ぐものであるため、本来あるべき場所に戻ってきただけだ。
——と、色々と言葉を飾っていたが、言いたいことはそれだけだったようだ。無駄に言葉を付け足してたからわかりづらかったが、どうして偉い立場についたやつってのはわかりやすい話を難しくしたがるんだろうか?
しかし、なんだな……ぶっちゃけどうでもいいわあ〜、ってのが俺の感想だ。
だって、正当性もクソもないだろ? 奪われた時点でおしまいなんだ。こいつはうまく生き延びたみたいだが、それは命があるってだけで負けたのは事実だ。
昔がどうだったとか自分が正しいんだとか持ち出されたところで、だからどうしたって言ってやりたい。実際今のこの国の国民たちは自分たちの王に、大して不満を持ってなかった。そりゃあ多少はあっただろうが、それでも正当性を口にして玉座を奪うために街で暴れたやつと今まで統治してきたやつでは、後者の方が信頼度があるに決まってる。
「つってもよお、奪われる方が悪くね? 奪われた時点でその王家は滅んだのと同じだろ。滅んだ後に別の誰かが統治してたんだったらそっから新しい王家が始まってんのと同じだ。正当性なんてもんはその時に消えてんだろ」
だよな。俺もそう思ったように親父も似た感じの考えのようだ。
それにだ。確かに国王は王族の血統から外れていたかもしれないけど、フィーリアって違くね? だって、王家の血筋なんてそれなりに高位の貴族になれば入ってるもんだろ? で、フィーリアの母親である母さんはそれなりの貴族の血筋で、多分どっかしらで王家の血は入ってる。
そんな母さんの血を引いているんだから、先王が王の血を引いていなくてもフィーリアは王族として正しい継承権を持っていることになる。まあ、かなり薄れることにはなるかもしれないけど。
「っ! 愚物どもめっ……! 貴様らのようなゴミに我が正義を説いたところで理解できなかったか」
正義……。正義かあ。
こいつが正義を語っても全く心に響いてこないのはなんでだろうな? リリアが前に正義——というか悪を語ったことがあったけど、あの時は素直にすごいと、かっこいいと感じた。
だってのに、こいつのはなんていうか上っ面だけというか、すごく情けないことを言っているように聞こえる。
それに、そもそもこいつに正義を語るだけの資格はあるんだろうか?
こいつはここに侵略する際に色んな人を殺している。戦争や侵略なんてもんをするからにはそれなりに譲れない想いってもんがあるんだろうしそれが悪いとは言わない。
人死にだって戦いにはつきものだし、兵士も騎士もそれを防ぐために戦うんだから死ぬのは仕方ない。
だが、それ以外の一般人はどうだ? 今回の侵略で巨人に踏み潰された家があった。魔物に食い散らかされた死体があった。
正義ってものには色々とあるだろうが、自分の国民を大量に殺してまで貫く想いなんて正義とは言えないだろ。
「いやお前、正義っていうか悪側だろ」
だからつい、俺はそんなふうに口にしてしまった。
「悪? 我が悪だと? ……ふざけるなっ!」
新王は俺の言葉に憤りを見せたが、俺はふざけてなんかいない。至って真面目だ。真面目に、こいつが悪だと思った。
「ふざけてなんていねえよ。だってそうだろ。自分の目的のために誰かしらを巻き込んで暴れてんだったら、そんなのは悪だろ」
「正義のための尊い犠牲だ! 国民どもとて納得するに決まっている!」
「いや納得なんてしないだろ。平民からしたら、統治者のあれこれなんてどうだっていいんだよ。自分たちの生活さえ守れるんだったらどこのどいつだって構わない。逆にどんな正当性を語ってるやつがトップになったんだとしても、そいつが自分たちを苦しめるんだったらそいつは敵だ。正義だなんて思わない。それが一般人ってもんだ」
そう。一般人にとって王様が誰か、なんてのはどうでもいいことだ。自分たちの生活をよくしてくれる人は正義で、悪くする人は悪。それだけだ。
……でも、こいつは正義ではないが、悪でもないかもしれない。
こいつが動いている理由は妄執だ。そうしたい、ではなく、そうしなければならない、そうするべきなんだ、なんてふざけた感情でこの街を侵略した。
随分と前にエミールと悪について話したが、信念と呼べるものがないこいつは『悪』ですらない。悪だったとしても、それはただの小悪党。つまり三下だ。
そんな俺の言葉に続くように、親父が口を開いた。
「——んで、お前は自分勝手な願いのために民を殺したってわけだ。確かに、正義じゃねえなあ。立派な悪だ。よかったな? 俺たちの仲間入りできんぜ」
「わ、私が、お前たちの仲間入りだと……? ……ふっ、ざけるなあっ!」
カラカスなんか、って俺たちのことをしたに見ていたこいつからしてみれば、俺たちの仲間入りなんてのは認められないことだろうし、そう扱われること自体が気にいらないことだろうな。
「だがまあ、仮に俺たちのところに来るんだとしても、そこらの凡人として死んでおしめえだな。自分が王様になりたいからなんてクソッタレな理由で民を殺したてめえは、誰かの前に立てるような……王の器じゃねえよ」
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