第327話親子での狩り

 

 たどり着いた玉座の間ではなんでか知らないけど、親父が背後に母さんを庇いながら剣を担いで新王と対峙していた。


 親父は扉から入ってきた俺たちとは違って天井をぶっ壊してここまで来たようで、上を見れば天井に穴が空いている。


 そして、そんな親父を捕らえようと……いや、殺そうとしているんだろう。新王の周囲にいた騎士たちの内何人かは新王の守りとして壁になり、それ以外が親父たちのことを半円状に囲っていた。


 だが、何がどうしてそうなったのかさっぱり状況がわからない。フィーリアを助けた後に予定にはなかった捕虜の救出なんてやってた俺がいうことではないかもしれないけど、なんだってこいつこんなところにいるんだ? 母さんを助けたら逃げるんじゃなかったのかよ。


「そりゃあこっちのセリフだ。そっちこそこんなところで何してんだ? なんかしら騒ぎを起こしたみてえだが……」


 だが、俺がどうしてここにいるのか分からないのは親父も同じことのようで、俺のことを見ながら首を傾げている。

 だが、その様子には自分が囲まれているという事態に対する緊張感や警戒心はない。

 親父からしてみればそれでも十分に警戒している状態なんだろうけど、相手からすると隙だらけなようにも見えるだろうな。


 んー、まあとりあえず、軽くお互いに情報交換しておくか。


「お姫様と知り合いを助けたあとで捕まってたのも助けたんだが、ちょっと王様に聞きたいことができたんで面通しついでにお話でも、ってない。そっちは?」

「地下に助けに行った後、こっちに運ばれたらしくてな。んで助けたんだが、この近くを通ったからついでにちっと賊を斬ろうと思ってな。逃げるんだったら頭がいねえほうが楽だろ」


 地下からこっちに運ばれた? ……くそ、ミスったな。最初に確認した時は確かに地下に捕らえられていたはずだ。それがまさかその後に移動させられることになるなんて。

 一度親父の様子を確認したんだが、その時は地下へ向かう場所の前で戦ってたし、余裕そうだったから問題ないだろうと思ってたんだが……母さんの方も確認しておけばよかった。


 だがまあ、いい。どうせもう終わったことだ。母さんは特に怪我もないようで助け出せているんだしもう気にすることでもない。


「つまりどっちもあれが目的か」

「みてえだな」

「ちなみに、あれが王様でいいんだよな?」

「らしいぞ」


 一応それっぽいなとは感じているが、実際に確証があるわけでもないから親父に聞いてみたが、どうやらあれが反乱軍の頭で間違いないらしい。


「き、貴様ら! 何をぬかしている! 私は王だ! 王なんだぞ!」


 自分を前にして気楽に話している様子の俺たちが気に入らなかったのか、新王は苛立ちまじりに玉座の肘掛けを叩きつけ、怒鳴り声を上げた。


 だがしかし、そんなことで怯む俺たちではないし、そもそも王様なんてもんに敬意なんてかけらも持っちゃいない。今更畏まるわけないだろ。


「あー、すごいすごい」

「でも一応俺も王様だしなぁ」


 そんなだから親父も俺もおざなりな反応をしてしまったが、俺は悪くないと思う。相手に敬われるようなオーラとか実績がないのが悪い。俺だってすごいと思うやつには敬意を払うさ。


 そんな俺たちの態度が余計に気に入らなかったんだろう。新王はさらに怒鳴り声を上げて俺達……というか俺を睨みつけてきた。


「ふざけるな! 貴様が王だと!? いったいどこの国の王だというのだ!」


 ああ、気になったのはそこか。

 ぶっちゃけ俺としても特にやりたいわけじゃないし基本的にお飾りだが、それでも一応『王様』であることに間違いはない。

 だから相手の「王様」って言葉に対応するかのように自分も王様なんだぞ、と返したんだが、それがダメだったっぽい。

 こいつ、なんでか知らないけど『王様』ってもんに随分と執着してる感じだな。


「どこって、カラカスだな。この前建国宣言したばっかだけど」


 ついでに言えば建国作業真っ只中だったな。宣言したし、それを認めさせるための戦争もした。

 これで後しばらくゴニョゴニョとなんか裏での作業とかをやっていれば、いずれは国として認めさせることもできただろう。


 って、そんな時にこの騒ぎだ。だから、正確には建国できたのか微妙なラインだと思う。宣言した瞬間に建国が完了するってんならもう終わってるけど。元々の土地を持っていたザヴィートは認めなくても、どうしようもないんだから認めるしかないわけだし。


「カラカスだと? ゴミどもの集まりではないか! 何を世迷言をぬかしている!」


 カラカスがゴミの集まりってのは理解できるが、それを堂々と口にするやつよりはマシだと思う。あそこはあそこで結構良い奴も多いんだぞ? それがわからないとは、全く残念なやつだ。

 ……まあ、あいつらは良いところ以上に悪いところが目立つし、『普通』から弾かれただけの理由はあるんだけどさ。


「陛下をお守りしろ!」


 反応が遅すぎるとも思うが、ここでの騒ぎを聞きつけたのか話している間にも部屋の中にはそれまでいた奴ら以外に騎士達が入り込んできた。

 そいつらは玉座の間にいる騎士達と同じで、城の中を徘徊していた者達や俺のところのに攻めてきた奴らよりも上等な装備を身に纏っている。


 ……でも、正直よくこれだけの数が残ってるな、とも思う。

 だって、占拠したからって城の兵全員がすぐにいうことを聞くようになるわけじゃないだろ? あいつが元からこの城で暮らしてた王族だとかならわかるが、よそから来たやつの言うことを素直に聞くとも思えない。

 そうなると……これは洗脳か? 調教師がいるのは理解しているし、あれは魔物専用の天職で、人間にはあまり効果がない。だが、あくまでも『あまり』であって絶対ではない。千、二千とかは無理だろうけど、騎士の百、二百程度なら、まあなんとかできるんじゃないだろうか? 巨人を操ることができるくらいだからそれなりに高位階……いや、それなりどころじゃなくて第十位階にいってるだろうな。使役系を第十って、よくそこまで頑張ったもんだ。


 あるいはどっかからの借り物か? 裏切り者の貴族がいる話は聞いてるし、そいつが貸し出した兵や騎士だってんなら、これだけの数が残ってるのも理解はできる。


「お前たち! あの不届き者どもを殺せ! 全てが終わった暁には、あれらを殺した者を貴族として召し抱えてやろう!」


 まあそこまでして集めた戦力でも、それに意味があるかはわからないけど。


「どっちかだけでも十分だと思うが……」


 新王は俺たちを倒せと騎士達に命令を下したが、正直言って俺か親父のどちらかだけでも問題なく片付けることはできる。


「せっかくだ。親子で仲良く狩りと洒落込もうじゃねえか」


 だが、親父が肩を竦めてから楽しげにそう言ったことで、俺と親父のタッグ参加が決まった。


 ……でも、親父は狩りと言ったけど、狩りになればいいな。多分この程度の相手だと、狩りにすらならないぞ?



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次回・ヴォルク視点

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