第313話王国の異変

 

「そうですね。それに加え、戦争があったという事実をどう扱い、どう周りと接していくのか、という問題もあります。我々の領土として取り込んだ村や街の中には面従腹背の者達もいたでしょうが、八天が負けたということでこれからの行動を考えざるを得ないでしょうから」


 そして村に関しての問題はそれだけではない。ソフィアの言ったようにあわよくば俺たちの支配から外れようと考えていたもの達もいたことだろう。そしてそれは村だけではなく街も同じ。むしろ、より規模が大きく力のある街の方がそう考えていた者達が多かったんじゃないだろうか。


 だが、八天は負け、国軍は敗走した。俺たちの支配から逃げ出すことはできなくなったのだ。

 支配って言っても、そんな酷いことはしてないと思うんだけどな。精々が税を納める先が俺たちになったってのと、賊の被害がちょっと増えたくらいだ。あとはそのうち襲われるんじゃないかって不安がつきまとうくらい?

 ああそれから、エドワルドの商会に食い潰されて取り込まれる店が出てくること?

 あとは婆さんのところの娼館の支店ができて治安が若干悪くなることと、俺たちに憧れて悪ぶったやつとかが増えることもか?

 ……思ったよりもいろいろあったな。

 まあ、全体の被害としては軽微なもんだし、おかしくなった、とか、目に見えて何かが変わったっていうほどのもんでもないだろう。

 それでも気に入らない奴は気に入らないもんなんだろうけどな。多少とはいえ、変わったことがあるのは事実なんだし。


 だから俺たちの支配から抜け出そうとしていたのに、国軍は負けて抜け出すことができなくなった。

 そうなれば相手もいろいろと考えるだろうし、俺たちが下手なことをすればどう動くかわからない。

 その辺を考えていろいろと行動し、調整していかないといけないんだろうな。


「あー、村はともかくとして、街はなぁ……。規模人数が多くなるとどうしても面倒なことって増えるもんだよな。まあその辺のあれこれはほんとめんどくさいからエドワルドに任せるけど。あいつがいると楽できていいな」


 普通は俺がエドワルドに任せている仕事量は異常だろう。丸投げなんてしないもんだ。そんなことすればせっかくの玉座が奪われかねないからな。

 でも、欲しいなら持っていけばいい。俺は仲間の安全と、この花園さえ管理できていれば十分だ。

 ……まあ、エドワルドもカルメナ婆さんも、玉座なんて求めないだろうけど。だったら最初っから持ってってるだろうし。

 あるいはあの二人の部下が何らかの細工をして成り上がろうと考えているかもしれない。流石にエドワルドも婆さんも、一人で全部を管理できるわけじゃないから部下を動かして色々とやってるわけだし。そこでなんらかの細工をされる可能性も、ないわけじゃない。


 けど、その場合でも欲しいなら持っていけばいい。別に俺は王様なんて称号はほしくない。

 王様っつーか魔王様だし、そんな称号を掲げてたらそのうち勇者がきそうで怖い。来たら来たで殺すけどさ。


 ……とはいえ、だ。いやいやながらでも王様になった以上は、正直面倒だとは思うけどちゃんとやっていこうとは思う。少なくとも、玉座が欲しいってやつが出てきて、そいつが王様に相応しいって思えるまでは。あんなイカれた街だけど、俺の故郷だからな。変に壊しそうなやつを王様にするわけにはいかない。


 まあなんにしても、この一月でいろいろと状況が落ち着いたのは確かだ。今まで俺は大したことをしていないが、大したことをしていないなりに気を遣っていた。

 だが、そろそろ好きに動いてもいいだろう。


「それじゃあそろそろこっちの状況も落ち着いたってことで、国王陛下を追い落とすために動き出すとするか」


 もうすでに結構なピンチになってるだろうが、まだ足りない。

 生かして返してあげた王太子にも協力してもらって、あの国王を玉座から引き摺り下ろさないとな。


 まあ、やつが王様辞めたところで俺が新しい王様になることはないんだけどさ。だって面倒だし。

 それに、今は独立したばっかだし、領土を手に入れたばっかの状態だ。まだ完全にまとめ切れているわけでもないし、そこに新しい国だよ、なんて言われても管理し切れない。


 やつが王位から退けば、家族でここに……まあフィーリアはどう動くかわからないけど、母さんを王妃ではなくなるわけだしこの街に呼ぶこともできるかもしれない。

 実際に来るかどうかはわからないけど、そういうこともできるんだよって教えることができるだけでも価値があると思う。




「——そのことなんですが、国王に会いに行くのはもちろんのこと、王都周辺に干渉するのは現状では不可能です」


 そう考えて会議の場でエドワルドに問いかけてみたのだが、返ってきたのはそんな言葉だった。


「は? まだなんか問題があったのか?」


 もう一ヶ月経ったし、あらかたの問題は片付いたはずだ。そう報告を受けてたし、東の国も何かして来る気配はないはずだ。

 多分親父の一撃があったからだろうな。あれで軍隊が通れるような道は潰れたし、あんな一撃を放てるような奴らを相手にするほど東の国は強くはないから。そんな力があったらザヴィートの弱体化なんて待たずにさっさと攻撃してるに決まってる。

 南東の宗教国家の方は、今のところはなんの反応もない。南でどんぱちやってる本物の『魔物の王』の方にか借りっきりになってるんだろう。……っつかいつまで魔王と戦ってんだ? もう二年目か? 

 まあ向こうの軍勢を率いてるんだから軍対軍なんてそんなもんかもしれないけど、俺たちの戦いは数日で終わったことを考えるとどうしても遅く感じる。


 ……実は勇者ってそんなに強くないとか? いやそんなことはないだろう。だって勇者だし。わざわざ異世界から連れてくるほどなんだから、強くないわけがない。

 今回の魔王は水棲の魔王だから倒し切る前に逃げられる、みたいな話は聞くし、純粋な強さ以外の点で問題があるんだろう。


 まあそれはそれとして、そんなわけで特に問題と言えるようなことは何もないはずだ。それとも何か新しい問題でも起きたんだろうか?


 何か起きたんだとしたら何が、と悩む俺をよそに、エドワルドは不満気に眉を顰めるとため息を吐き出した。


 ……その不満げなため息って、俺の不出来さに対するものじゃないよな?


 エドワルドの表情などからいまだに事情を把握できない俺の不出来さに不満を持ったのかと思ったが、俺に向けられる視線からは特にそういったものを感じられないので、どうやら俺に不満があるわけでもないようだ。

 ならなんでそんな様子なんだ、と思ったが、その理由はすぐにエドワルドの口から説明された。


「あったと言いますか、あると言いますか……簡単にいえば、国王がいなくなりました」

「………………はあ?」


 だが、そうして教えられた理由は、すぐには理解できないものだった。

 え? 国王がいなくなったって何? 何がどうなって……え? いなくなった?


「そりゃあどういうことだい、エド坊」

「どうにも反乱軍が動いたらしいですね。元々我々の台頭によって国は荒れていましたが、我々が王国と戦ったことによって最高戦力の八天は、半分以上が死亡しました。それに加え、敵対していた西はしばらくは安全で、ここに我々がいることで東側の国々からの干渉もなくなることになる。東にある国がザヴィートに手を出そうとすれば、位置的に我々を無視しては進めません。背中を狙われる不安を抱えることになりますから。まあ乗っ取るのなら良いタイミングでしょう」


 そりゃあまあ、確かにそうかもしれないけど……。

 ザヴィート王国の東には潜在敵国が存在していたし、西なんてもろ戦争中だった。だから反乱なんて起こして国を騒がせれば、その隙をついて他国が襲ってくる可能性があった。

 だが、今は西での戦争は圧倒的な戦力を見せつけ、敵の軍を潰して勝利した。西の国はとっておきだった魔物の部隊が敗れた上に、同道していた兵士たちも数万単位で消えた。それによって軍を立て直す必要があるからしばらくは攻めて来ないと考えられる。


 そして東の国はカラカスが存在しているため、せめてくるならまずカラカスと戦わなくてはならなくなった。


 南は同盟国だし、そもそもこっちに何かしてくるくらいだったら南にいる魔王を倒すために戦うだろう。


 つまり、今は誰もザヴィートに手を出せない状況だ。唯一警戒するべきはカラカスだろうが、元々が真っ当な国ではなく犯罪者の国なので、王位を簒奪したところで何も言ってこないし動かないと考えたんだろうと思う。

 実際、俺だって自分に関係のない話だったら、どこどこの国で反乱が起きた、とか言われても「へえー、そうなんだ」で終わると思う。


「そういったわけで、国が荒れている隙をついて反乱軍が行動を起こしたらしく、王都は占領され、城が落とされたようです。幸い、と言いますか、まあ我々にとっては幸いでもなんでもなくどうでもいいことではあるのですが、国王は数名の部下とともに逃げたらしく、その行方が分かっていません」

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