第270話王都再訪
「なんだよ。俺たちを待ってたのか?」
「正確にはお前を、だな。魔王様」
「……その呼び方やめろよ」
「まあこれから呼ばれるんだから慣れろ。んなことより、お手紙だ」
「手紙……城からか?」
俺は魔王呼びされたことで不機嫌になっていた面から一変させ、親父がひらひらと振っている手紙を睨みつけた。
この状況で親父がわざわざ俺を待つような手紙——つまりは王国からの招待状の類だ。招待状って言っても、パーティーへの御招待、なんて洒落たもんじゃないけどな。
「ああ。戦いが終わってもう一ヶ月。タイミングとしちゃあこんなもんだろ」
「で、それの内容は?」
「ほれ、自分で確認しろ。一応これは俺たちの頭に向けて贈られた手紙で、今はお前が頭なわけだし」
「なりたかったわけじゃねえけどな」
そうして親父から差し出された手紙を受け取るが、既に封は開いている。まあ親父が読んだわけだし、エドワルドたちも見ただろうから当然だろう。
その中身を読んで簡単に要約すると、先日の戦の釈明をさせてやるから城に来い、だ。
「随分と上から目線だな」
「そりゃあそうだろ。そもそも俺たちはまだ国として宣言したわけじゃねえから、奴らにしてみりゃあここは一つの街でしかねえ。それもここは犯罪者の街で、同格の相手として見るような場所じゃないってのが向こうの考えだ。釈明ってのも、まあどこまでが本気かわかったもんじゃねえわな」
「行ったら罠にかけられて殺されました〜、ってか?」
「十分すぎるほどにあり得るだろうな」
むしろこの状況でなんの罠も仕掛けないとか、そんな相手だとしたら、王国の奴らは馬鹿だとしか思えないよな。それを使うかどうかは別としても、罠の十や二十は仕掛けられていると見た方がいいだろう。
「だがまあ、こうしてお手紙をもらっちまった以上は行かねえとならねえだろ」
ぶっちゃけ行きたくないが、行かないわけにもいかない。
いや別に行かなくても良いんだが、どうせそのうち独立宣言しにいく必要があるんだから今行っても変わらないし、ちょうどいいからさっさと済ませた方が気が楽だ。
「だな。——ってわけで、準備しろ」
「了解。出発はいつだ?」
「あー、そうだなぁ。一週間後くれえでいいんじゃねえのか?」
親父はそんなふうに言ったが、手紙には日時の指定があった。親父の言葉通り一週間後に出発したんじゃとてもではないが間に合わないぞ。
「でもこれ、日付指定されてんぞ。それだと遅くねえか?」
「お前は変なとこで真面目だな。んなもん待たせときゃあいいんだよ。待たせて、遅れました〜って言って苛立たせりゃあいい。交渉の基本だろうが」
「いや、そもそも話し合いの場に間に合わないんだけど? 間に合わなきゃ話の機会も何もないだろ」
「んなもん力で押せばいい」
確かに力で無理を通すってのはカラカス流っていえばそうなんだが、それでいいのかよ。一応国が相手なんだが?
「力でって……脳筋かよ」
「世の中突き抜けた力ってのは大体なんでも解決できんだよ。まあ、大丈夫だろ。俺たちが期日に間に合わなかったからってすぐに話を決めてここを攻め込む、なんてことにはならねえはずだ」
「もしそうなったら?」
「潰せばいいんじゃねえの?」
簡単に言ってのけるが、普通ならそんな発想は出てこない。
だがここで簡単に潰すと言えるのが親父が東のボスであることの証明とも言えるか。実際できるわけだし。
「まあそんなわけだ。お前らもこいつの付き人で向かうんだから、それなりに準備しておけよ」
「「「はい」」」
「「はーい!」」
そんなわけで、俺たちは村巡りという旅から帰って来たにも関わらず、すぐに準備に取り掛かることになった。
「——ってわけで、俺たちは王都に行くが、留守は頼んだぞ」
だが、今回連れていくのはソフィアとベルとカイル。それからフローラだ。リリアはお留守番とすることにした。
「えーっ! わたしはー!?」
そのことに不満があるんだろう。リリアは子供が駄々をこねるように不満たらたらな顔で文句を言ってきた。
だがだめだ。
「いや、今回は遊びで行くわけじゃないし。十中八九面倒なことになるぞ。主に戦闘方面で」
「でもさでもさっ、戦闘があるってことは目立つってことでしょ? カラカスの代表として向かうってことは悪の代表として向かうってことなんだから、わたしもそこで目立ちたい!」
「だめだ。お前が行ったらフィーリアとの関係がバレるだろうが。まだあいつとお前と俺たちの繋がりをばらすわけにはいかねえって。お前だって友達に迷惑かけたくねえだろ?」
「それは、まあそうだけどぉ……う〜」
こいつはすでに王都で人に見られてる。それも、王女様のお友達という結構派手な感じで。
こいつを連れて行けば、フィーリアと俺たちカラカスの関係がバレるかもしれない。まあすでにばれているかもしれないし、それはいいんだが、そっから繋がりを辿って行った結果、俺の正体がバレないとも言い切れない。
俺が王子様だってのはまだバレない方がいいだろうし、リリアを連れて行って下手に勘繰られるわけにもいかないので、置いていくしかない。
「安心しろ、今回は言っちまえば下準備だ。そのうちお前が活躍する機会はあるさ」
……多分。
「ほんと? ほんとにほんと? わたし目立つことができる?」
「ああ。できるできる。だからお前は安心して、いい子で、ここで待ってろよ。ああそうだ。ここでトレントとかの世話をしてくれると助かる。これは今んところ俺の仕事の中でも最重要なやつだが、お前みたいに信頼できるやつになら任せられる。むしろお前じゃないと任せられないんだよ。やってくれないか?」
「う〜……王都に行きたい……けど……。よしっ! 任されたわ! この子たちはわたしがしっかりと面倒見ててあげるからまっかせて!」
「……ああ。なんだかすごい不安な気もするけど、任せた」
こいつが自信満々で何かをやると変なことをしそうで怖いんだが、まあ、大丈夫だろう。……大丈夫だといいな。
そうしてどうにかリリアを大人しくすることができた俺は敵地に乗り込む準備を整えていき、ついには出発して行ったのだが、まあ当然というべきか、それから王都についたのは来いと言われていた日をすでに大幅に過ぎた後だった。
「やっぱ、かなり遅れたな」
「だから気にすんなっての。なんかあったら力づくで逃げ出しゃあいーんだよ。俺とお前ならそれができるし、そうすんのがここのやり方だろ? お行儀よくどっかの誰かが決めたルールに従ってる必要はねえんだ」
「……ま、なんでもいいけどさ」
親父はかなり堂々としているが、俺もこんなふうになれればいいんだけどな。
人を相手にするときはまあそれなり偉そうに、好き勝手振る舞うことはできるんだが、約束事とか決まった時間とかがあるとどうしても気になるんだよな。
そんな細かいことを気にしてるとカラカスの住人っぽくはないけど、あいつらみたいに好き勝手振る舞うのは意外と難しい。こればっかりは気性だから仕方ないだろう。
だが、親父としても何か思うところはあるのか、普段とは様子が違うように見える。流石に普段通りとはいかないらしいな。
「ってわけで、エディ。これを城に渡しにいけ。門番に渡すだけでいい」
「ういっす。了解しました〜」
街に入った俺たちはそこら辺にある至って普通の宿に部屋をとって休んでいたのだが、俺たちが来たってのと明日向かう旨を記した手紙をエディに持たせて城に向かわせた。
カラカスのやつを一人で行かせるなんて捕まるかもしれないが、万が一襲われたとしてもエディなら逃げ切ることもできるだろう。その程度ができなきゃこんなところにまで連れてきていないからな。
「んじゃあ俺たちは適当に観光でもしておくか」
「観光〜? んなもんしてる余裕あんのかよ」
「あるある。知り合いにも会いに行きてえし、ちょうど飯時だしな」
これだけ日程もずれたんだし、到着したことを伝えてもいないんだから俺たちが王都に来たことなんて国王たちは知らないはずだが、それでもここは敵陣と言ってもいい場所だ。そんなところで観光してろってのはなかなかに危険なんじゃないだろうか?
「んじゃあ俺ぁちっとばかし行くとこがあっから、お前らは勝手にしとけ。ああ、街からは出んなよ」
だが、親父はそういうなりさっさとどこぞへと向けて歩き出し、部屋を出て行ってしまった。
観光っつったって、どうしろってんだよ……。
「とりあえず、外に出るか? お前らだって街の様子を確認しておきたいだろ?」
「だな。戦うにしても逃げるにしても、大まかにでも配置を知ってないとだしな」
カイルの言ったように、もしこの町で戦うことになったとしても、俺はともかくとして前回来た時にはあまり出歩かなかったソフィアや、そもそもここにきたことのないカイルはなにがあるのか分からない。なのでろくに逃げることもできないだろう。そんな状況では安心することもできないので、様子見のために街を歩くのは必要だ。
まあ、親父みたいにそれを『観光』と断言するのはどうかと思うけど。
「ソフィアも前回来たんですよね?」
「ええ。ですがそれほど外を出歩くといったことをしなかったのであまり地理に明るいわけではありませんね。それ以外となるとずっと昔、一度だけで良ければあります。もっとも、だいぶ幼い頃の話ですのでうろ覚えの部分が多いですが」
「それでもなにも知らない俺たちよりはマシだろうな」
そんなわけで、俺たちは街の観光という名の敵情視察的なアレに出かけることにした。
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