第254話《魔剣》+《聖剣》=

 

「ッ、ガアアアアアアッ!」


 その魔剣でアイザックの腕を切り落とす。

 こいつもこいつで命を削ってまで自身の体を強化してたんだが、その程度ならなんの守りもねえのと変わんねえんだわ。


「見せてやるよ。これが俺の全力、剣士を極めた先の『技』ってやつだ」


 そう言いながら俺はアイザックの足を切断する。

 別にこれが技ってわけでもねえが、好き勝手動かれると集中できねえからな。これからやるのは結構集中しねえとできねえもんなんだわ。


「《聖剣》」


 聖剣は剣士の第十位階で覚える魔剣とは違った剣の生成スキルだ。

 見た目としてはさっき作った魔剣とは別物で、光り輝いている。

 曰く、信念の強さに応じて輝きを変えるらしいが、こっちは眉唾じゃねえかと思ってる。だって俺の剣がこんなに輝くとかおかしいだろ?


 この聖剣の効果はちっと面倒で、自身が望んだもの以外を切らず、望んだもの——敵意を抱くものは弱体化の呪いを流し込むことで剣撃を強化する剣だ。ついでに剣身を巨大化させることができるが、正直そっちはおまけだ。

 呪いを流すだなんて、どこが〝聖〟剣だと思うが、まあ望んだもの以外切らないって効果と見た目は聖剣の名前に相応しいだろうな。


 ただ、これだけじゃ剣士を極めた『先』とは言えねえ。

 確かに第十位階のスキルなんだから一つの到達点とは言えるだろうな。だが、それだけだ。


 だから、ここでひと手間加える。


 両手に生み出した二つの剣を重ね合わせるように近づける。そうしてできるのは……


「——《神剣》」


 手の中で暴発しそうになるくらい暴れる力を無理やり押し込める。

 合わせた瞬間は抑えきれずにその力が漏れて派手に光ったが、次第に抑えられるようになってきてどうにかこうにか剣の形を維持することができた。


 とんだじゃじゃ馬だが、その威力は魔剣も聖剣も比べ物にならないイカレ具合だ。


「な、っんだよそれ……」


 狂化を使って狂ってたはずのアイザックだが、動けなくなったからか、それともこの剣の力を感じ取ったからか、その場から動くことも立ち上がることもせずに目を見開いて俺の手元を見つめている。


「天職やスキルなんてのは、自分の内側にある神の欠片から引き出した力だってのは、まあお前でも理解してんだろ?」


 一旦落ち着いたものの、まだ暴れようとする力を抑え込んでアイザックに説明してやる。

 説明する必要なんざねえんだが、まだ剣が完全に安定しないからその時間潰しだな。


「だがよお……こりゃあ俺の息子が言ってた言葉だが、これは『神の欠片』だぞ? 遠くのものを切ったり、炎を出したりなんて、んなみみっちいことが、仮にも『神』なんてもんの名前をつけられた力の限界だとでも思うかよ」


 ぶっちゃけ、最初は半ば事故みてえなもんだった。

 俺は前は第八位階で止まっていたが、ヴェスナーの親役をやってる俺としちゃあ、あいつよりも弱いってのは認められねえっつーか、こう、プライド的にな?

 あいつは順当に進めば第十位階なんてすぐにたどり着くだろう。せめて俺も第十位階で並ばねえと格好がつかねえ。と、そう思ったわけだ。


 だから時々街を出て一人で山籠りして訓練をしてたんだが、第十位階になって聖剣を作れるようになった後、二本の剣を作って、まあその、なんだ。ちっとはしゃいだ。我ながらガキみてえだとは思ったがな。


 だが、そこでふと思ったんだ。これ、二つ同時に発動したらどうなんだ、ってな。


「ただスキルを使うだけじゃねえ。スキルを使いこなし、組み合わせることでたどり着ける境地。それがこれだ。俺の場合は、まあこういうもんができたわけだ」


 そんで魔剣と聖剣。両方を同時に使って……暴発した。


 あん時は久々に死ぬかと思ったが、まあこうして生きてるわけだから問題ねえ。

 んで、その時に感じた力。暴発はしたが、その時の力をうまく使えるようになれば、それは新たな俺の『力』として使えるんじゃねえかって考えて鍛えることにした。

 ちょうど少し前まであいつは外に出かけてたしな。見られる心配もねえから好きにやることができた。


 そしてようやく完成した。

 初めてお試しで使った時は、まあなんだ。山一個が犠牲になったが……あれは尊い犠牲だった。しゃーない。誰も気づいてねえから黙ってりゃあいいだろ。そのうち直るから気にすることでもねえだろ。


「この剣の名前は便宜上俺は《神剣》って呼んでる。神の剣で神剣だ」


 スキルを合わせ、スキルにないスキルを形にした。

 そんなだからこの剣には名前がなかった。神剣ってのは便宜上つけた名前だが、我ながら悪かねえ名前だと思ってる。


「全てを切り裂く魔剣と、自身にとっての悪を断つ聖剣。それから他のスキルももろもろ合わせた結果は……まあ実際に体験してみりゃあわかるか」


 望んだものだけを切り、どこまでも伸びる剣。

 そこにさらにスキルを組み合わせたことで、切った相手に呪いを流し込み弱体化させ、全身を不可視の刃が切り刻む。そんな代物になった。まあ、今回はそこまではやらねえけどな。魔剣と聖剣以外のスキルを組み合わせると無駄に疲れるし、使う相手はアイザックだけだから無駄でしかねえ。


 そんな神剣を両手で構えて振るう。


「……くそ、バケモンがよぉ。敵対すんのが、まちが——」


 アイザックは最後まで言葉を言い切ることなく両断され、死んだ。


「お前にゃあもったいねえ技だったかね」


 神剣なんてこいつには使う意味がなかった。あのまま戦っていても問題なく勝てただろう。

 だが、それでも最後には命をかけて俺を狙いにきたんだ。ならその覚悟に答えて手向けとして本気を見せるくらいはいいだろう。これでも、十年来の仲だったわけだしよ。


「ふうぅぅ〜……やっと終わったな」


 そう息を吐き出してから神剣を解除して周りを見回す。

 見事なまでに周囲の建物は崩壊しているが、まあ仕方ねえ。これくらいで済んだんならまだマシだったって言えるだろ。


「これから忙しくなるだろうが、まあお前のためにはなるだろうから頑張れよ。俺もちったあ助けてやっから」


 それはこの街の修復だけの話じゃねえ。五人いたボスが三人に減って、周囲の貴族も動き出し、それを潰した。これで状況が変わらねえなんてことが、あるはずがねえ。


 そして、その状況の変化の中心にいるのはあいつだ。俺たちも無関係ではねえが、あいつが起点となって事が起こってる。

 だから、これからもあいつの周りでは色々と起こるだろうな。


 しかしまあ、俺は本物じゃねえっつってもあいつの親代わりをしてんだ。全部が全部とはいかねえが、手助けくらいしてやらあな。


「……ま、とりあえず今は他の奴らんところに助けに行くとすっかね」


 アイザックが死んだっつえば、西の馬鹿どもは大人しくなんだろ。


 いっその事、神剣を横に薙ぎ払って俺に敵意を持つ奴を全員切った方が良かったか?

 ……いや、それだと人数が減りすぎる気がすんな。

 結局、面倒でも自力で収めるしかねえわけか。……はあ、めんどくせえ。


 ──◆◇◆◇──

 どこかの貴族と偉い一族の末裔の会話


「——失敗しましたな」

 「また折を見て機があれば襲うつもりだ」

「その『機』とやらが来れば良いのですが、はてさて」

 「……来ることはもう決まっている。もっとも、その時はカラカスなどという外から埋めるのではなく、直接狙うかもしれぬがな」

「ほう、直接? 貴方様がそこまでおっしゃられると言うことは、何かあるのですかな?」

 「まだ万全とは言わないが、奥の手を——最強種の一角を従えた」

「最強種? ……それは、どこかの一族を?」

 「流石にそこまでではない。が、一体だけでもない。今後どうなるかはまだ決定ではないが、最低でも二体は用意できる。それも、特別製のものをな」

「……ふむ。それが本当なのでしたら、我々としても安心できますな。これからも変わらずに協力致しましょう」

 「案ずるな。こちらとて人生を……いや、一族の存亡を賭けた悲願なのだ。成功させるために協力者と仲違いするようなことはせんよ」

「ですか。いや申し訳ない。なにぶん今回のことがありましたのでな。少し心配性になっておりました」

 「此度のことは私としても想定外だ。敗れる可能性は考慮していたがあそこまで見事に何もできずに終わるとは思ってもみなかった」

「その点はこちらも同様ですな。手を回しSランクの冒険者も使ったものですが、たった一人すら殺すことができなかったとは」

 「数名の貴族が捕らえられたとのことだが、どうする?」

「どうするも何も、我々とは関係ありませぬ故。身の程を知らぬ貴族が勝手に夢を見て自滅した。それだけのことでしょう」

 「そうだったな。だが、これで『奴』は動くと思うか?」

「さて、どうでしょうな? 賊の集まりに貴族がやられたとなれば、国としては討伐体を出したいところではありますが、相手が悪い」

 「そうだな。討伐隊を出したところで、返り討ちに遭うだけだろう」

「『八天』を引き摺り出すことができれば可能性はあるのでしょうが……」

 「動かんだろうな。第十位階を引き止めておくためとはいえ、権利を与えすぎているのだ」

「爵位を与えないが貴族と同等の権力を持ち、領地を与えそこでの自治権も与える。国王の勅命であろうと断ることができ、回数の限られた『頼み事』でしか言うことを聞かせられない。……いやはや、そうまでして第十位階を繋ぎ止めようとするとは、なんとも素晴らしいご判断ですな」

 「確かに第十位階を八人全て確保しておきたいというのは、戦力という意味では理解できる。とてつもなく魅力的に見えることだろう。だが、それも使えなければ意味がないというのに……」

「まあ防衛には役に立っているので全くの無意味というわけでもありませんが、今回のようなことには使いづらい戦力ではありますな」

 「ああ。まあ、我々としては今はあの街を攻め落とすのではなく、人を送っての様子見でいいだろう。それからじわじわと侵食していけば良い」

「ですな。此度のことで繋がりが切れましたが、まあそれは仕方のないことでしょうな。もとよりあれはそのうち勝手に動いていたことでしょう」

 「西との繋がりか。本当に良かったのか?」

「良いか悪いかで言えば、悪いですな。ですが、致命的でもありませんので」

 「そうか。ならば良い」

「それで、これからはどうされるおつもりで?」

 「最強種を従えはしたが、先も言ったように完璧ではないのでな。ひとまずはそれを完全に従えられるようになることを優先する。それと同時に他の魔物の確保を行う」

「では、私に何かをしろと命じるおつもりはないということでよろしいですかな?」

 「もとより今の私に、其方に命じる権限などありはせん。好きにすれば良い」

「それはそれは。この身は王国貴族であります故、正当な血筋である貴方様に命じられれば動く覚悟はございますが、寛大なご好意ありがたく存じます」

 「……その言葉が本心であれば良いのだがな。——まあ良い。目的は違えど目指す場所は同じであるのだ。お互いに手を取り合っていくとしよう」

「そうですな。私は更なる一族の栄達のために」

 「私は、我らが本来あるべき立場を取り戻すために」

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