第199話お前はなんなんだ!
「残弾は十分。敵はいっぱい。なら、大盤振る舞いといくか」
ソフィアの持ってきてくれた鞄を開けて残弾(種)確認し、その中に手を突っ込んでぐるぐると攪拌するように手で触れていく。
なんでそんなことをしているのか? そんなの、俺のスキルは一度触れたものでないと発動してくれないからだ。だが、逆に言えばどんな形であれ一度触れてしまえば発動する。たとえそれが種だと認識しておらず、ただ触れただけなんだったとしてもだ。
そして俺はバッグの中に突っ込んだ手を引き抜くと、今度はバッグを逆さまにしてその中身を宙にばら撒き——
「《播種》」
——スキルを発動させた。
その瞬間、宙にばら撒かれた種は勢いよく飛んでいき、まるで予め決められていたかのように等間隔で『地面』に埋まっていく。
飛んでいった種は人の身につけている鉄すらも貫通して埋まっていったが、それは人間だけではなくそれ以外のところにも飛んでいっていた。
そんなことをすれば敵以外にもそこらへんの地面とか無意味なところに種がばら撒かれることになるが、生憎と残弾はソフィアが補充してくれた。多少無駄にしたところで余裕で足りる。
で、まあ後はいつも通り仕上げが残ってる。
「《生長》」
放たれ、埋められた種は『地面』に根を張り、芽を出していく。その影響で『地面』となった者達は痛みに悶えて転びのたうちまわりながら叫ぶ。
俺が行動を始めてからごく僅かな時間しかたっていないにもかかわらず、すでに辺りは阿鼻叫喚。そこかしこから悲鳴が聞こえてくるが、戦場に出た以上はやられる覚悟くらいはあるだろう。
まだ視界の奥の方には敵が見えるが、そこまではスキルが届かないのでどうしようもない。ひとまずはこれでおしまいだ。
周囲からうめき声が聞こえる中、俺は眼下の地面にいくつかの案山子を生み出してから空中に浮かばせていた地面からヒョイっと降り、足場としていた地面を浮かばせるのをやめた。
残っていた兵の中にはまだ戦う意思のあるものはいたが、それも無傷とはいかなかったようで動きがおかしい。
それでも的には変わりないのでへたに攻撃されないようにいくつか案山子を生み出した。
それによって残っていた敵兵のヘイトはそっちに向かい、誰も俺のことを気にすることができないでいる。
残っていたと言っても、先ほどの攻撃の範囲内に残っているのは数百程度だ。
最初どれくらいの人数できたのか知らないけど、多分五万くらいだろう。戦争に来たのに五万は少ないと感じるが、魔物を使役し、ドラゴンなんてもんまで使役できるのなら、五万どころか五人しかいなかったとしても十分な戦力だと言える。普通ならドラゴン一匹で国境を崩すことだってできるぞ。まあ、普通なら、だが。むしろドラゴンや魔物の群れを引き連れているのに五万も持ってくるのは多い方だろう。
まだスキルの範囲外にいた敵兵が奥に残っているとはいえ、それでも全体の半分は減らしただろう。
逆に言えば半分は残っているわけだが、もう全滅を通り越して壊滅と言っていいと思う。確か三割だか四割だかやられたら全滅判定されたはずで半分が壊滅だったはずだからあってる。と思う。
でもまあ、なんにしても多分これでしばらく侵攻をして来ようとか思わないはずだ。
——が、それでも忠告はしておかないとだよな。
そんなわけで、俺は敵が案山子に夢中になっている中を進み、敵の頭らしき人物を探し始めた。もちろん無事なやつには種の弾丸をプレゼントしながらだ。加えて、今ならなんと集団で襲いかかってくる相手には特製の落とし穴をご提供中。お墓に埋葬する手間を省けるお得で親切なプラン!
倒れている敵の中を真っ直ぐに進んでいると何やら敵が撤退し始めたので、なんの種か知らないけどなんかの種を強制的にプレゼントして、お墓に埋めてあげて邪魔をしてあげた。
「で、見つけたわけだけど……あんたが今回の軍の頭でいいのか?」
そうこうしていると、一人のなんか高そうな武装をしたおっさんが馬に乗って現れた。見た感じからして偉い人って感じがするが、こいつが頭でいいんだろうか?
「……そうだ。私は——」
「ああ、名乗りとかいらないから。どうせ興味なんてないことは忘れるだろうし、時間と脳みその無駄遣いにしかならん」
男はなんか名乗りでも上げようとしたのか口を開いたが、俺はいかにも興味ありませんとばかりに男の言葉を遮った。だって興味ないし。
それに、こうして挑発してやれば相手がどんな人物なのか見えてくる。こんな対応されて怒るか怒らないかで結構人柄ってのはわかるもんだからな。
「俺がここにきた理由は一つだ。生かしておいてやるからさっさと帰れ」
普通ならそんな上から目線で告げられたら怒り狂うものだろうが、こいつは違うだろう。もしそんな怒って暴れるような性格ならこんなところに出てこないでさっさと逃げてるだろう。
だがこいつは正面から堂々と出てきた。つまりは自身の身を犠牲にしてでも足止め、或いは交渉しようと考えたのだろう。
そんなやつだったらきっと頷く。だってここで頷くのが一番こいつらにとって害が少ないんだから。
そんな俺の考えはあっていたようで、男は渋面を作りながらも頷いた。
「……わかった。すぐに兵達を引かせよう」
「話がわかるやつでよかったよ。話が通じなかったら通じるまで話をすることになっただろうし、それでもダメなら頭を変える必要があったが……それはめんどくさいからな」
こいつを殺して頭をすげ替えたとして、そもそもこいつの次って誰だよって話になる。
どこの誰だか知らない奴を探すよりは、こいつで話が片付いた方が楽でいい。
「一つ、聞かせろ。土、水、腐食、植物、身代わり……。全く違う天職のスキルを使うなど、あり得ない。我々の魔物部隊を一人で壊滅させるなど……あってはならんのだ。貴様は何者なのだ……」
あー、まあ一つ一つをあげていくと全く関連性がないように見えるか。一応全部農業関連の技なんだけど……うん。まあ自分で言うのもなんだけど、やっぱ普通の農家はこんなことしねえや。
しかしまあ、何ものか、ねぇ。答える義理はないけど……
「そっちに聞く権利はない——と言いたいが、代わりにこっちも聞かせろ。使役系の天職ってのは珍しいもんじゃなかったのか? なんであんなに操れるほどいるんだ?」
「……知らん。私はただ上から与えられたものを使い任務をこなすだけだ」
「……へえ? そうか。……そうか」
こいつは今回の軍の頭だってんならそれなりに偉い立場にいるはずだ。それなのに、どうやって使役系の天職を揃えることができたのかは分からないとか、どう考えてもおかしいだろう。
『きな臭い』ってのはこういう時に使うんだろうが、なんかすげーきな臭い感じだよな。
「で、なんだっけ? 俺が何者なのか、だったか?」
まあ、おかしな点はあるし嫌な感じもするが、今の俺が気にすることでもないだろう。後でマールトかイルヴァにでも知らせておけばそれで十分だ。
「さて、なんだろうな? 悪いが、答える気はないよ。どうしても知りたけりゃあ、そんなのはそっちで好きに考えろ。天使に悪魔、英雄に勇者。後は村人でも王子でも犯罪者でも、あるいは魔王でも、なんでも構わないさ」
まともな答えとは言えないが、こいつだってまともな答えを返せなかったんだからおあいこだろう。
「魔王……」
……なんでそこだけ切り取った? 別にいいけどさ。一応自分で言ったことだし、そんな呼び名が広まるわけでもないだろうからな。
「とりあえず、お前は生かしてやる。戻って伝えろ。二度と来るなクソ野郎、ってな」
実際には俺が言った通りに伝わるか怪しいが、そこは別にどうでもいい。ようは攻め込まないようにと忠告さえできればそれでいいのだ。
しかし……
「ただまあ、攻め込んできたんだ。代償がないってのも問題だよな」
責任者ってのは責任を取るためにいるもんだ。わざわざドラゴンなんて使役してまでこっちの国に攻め込んできたんだ。その馬鹿どもの責任者だってんなら、ケジメってもんをつけないとだよな。
「その腕、もらうぞ」
俺はそう言いながら男の腕に触れ、スキルを使って肥料に変えてやる。
「ぐあああっ!」
そんなことをすれば当然ながら腕の断面から血が溢れ出す。
自身の腕から溢れる血をどうにかしようとしているのか男はもう片方の手で傷口を押さえるが、その程度では血は止まらない。
だが安心しろ。出血なんかで死なれても困るし、俺が血を止めてやる。
「騒ぐなよ。まだ終わっちゃいないんだから」
「なに、を……」
「なにって、このままじゃ治療されてしまいだろうが。そうさせないためにも、ちょっと細工をな」
そう言うなり俺はいくつかの種を取り出し、膝をついている男に近寄ってしゃがみ込み、傷口に種を埋め込んでそれを指で押し込んでいく。
「ぐぎいい……」
傷にそんなことをされたら痛いだろうが、男は歯を食いしばることで耐えて見せた。
俺が指を離すと男は痛みの元凶がなくなったことで痛みが多少なりともマシになったのか荒く呼吸をし始めたが、それで終わりじゃない。
なんのために俺がそんなことをしたと思うんだ? なんのために種なんてもんを傷に突っ込んだか、その理由を教えてやろう。
俺はスッと立ち上がってから数歩ほど下がると、男の腕に埋め込んだ種を生長させた。
「い、ガアアアアアアア!」
その瞬間、男の腕からは植物の芽が顔を出し、それによって男は腕を押さえて地面に倒れるが、それでも俺はさらにスキルを何度も重ねていった。
そしてもういいだろうと判断した頃には、腕には立派な草が生い茂ることになった。
でもこれ、草っていうか、これもう木じゃん。
どうやら俺が今使った種は草花ではなく樹木の種だったようだ。なんかの木の実の種だろうか。
まあその辺はどうでもいいや。どうせ俺が食らったわけでもないし。
「これでお前の腕は治らない。もう戦場で会うこともないだろうな。まあ、あったとしても次は殺すけど」
腕が使えなければ軍人としては致命的だろう。この世界はスキルがあるから常人相手には負けないだろうけど、一定以上の相手には苦戦し、それ以上なら負けるはずだ。
それに、あんな消えない上に目立つもんをつけてたら嫌でも負けたことを理解させられるだろうし、傍目から見ても負けたことが一目瞭然だ。もしかしたら呪われた、とか言って距離を置かれるかもしれない。
今の立場だって追われるかもしれない。
もっとも、今は俺のスキルの影響でまともに育ってられるが、植物である以上ちゃんとした地面じゃなければ途中で枯れることになるだろう。そうしたら腕の治療もできるようになるだろうが、まあ最低でも数年はこの国に仕掛けて来ようなんて思わないだろうから、会うこともないだろう。もし会うことになったとしても、その時はその時で今度こそ殺せばいい。
「さあ、帰れ。ノロノロしてると敵意有りと見做して残ってる奴らも殺すぞ」
敵の指揮官の男は腕を押さえながら俺のことを睨んでいたが、何も言わずに振り返り仲間たちに指示を出し始めて撤退していった。
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