第130話討伐中の異常事態

 

「お疲れ様です」

「ああ。大丈夫そうか?」

「はい。五体以上になると厳しいですが、四体までであればなんとかなるかと思います。ただ、その場合は多少の怪我をするかと」

「そっか。まあ今は仕方ないよな」


 今は俺たちのスキルがバレないように制限をかけているので、ソフィアも全力では戦えない。スキルを使っていいんだったらソフィアだってこの程度は余裕で倒すだろう。初手で《播種》を使ってれば大体の相手は勝てるはずだし。


「とりあえず、次ははぐれを見つけて、もしくは作って戦ってみるか」

「ですね。じゃないと正確なところは分かりませんし」


 そうして俺たちはさらに森の奥へと入っていき、再び見つけた集団を狩りつつハチェットテイル相手の戦いに慣らしていくのだった。


 そんなことを何度か繰り返して合計二十三匹倒すことができた。


 もうそろそろ夕方だな。考えを聞きたいし、これ以上は暗くなる。一回下がろう。


 空は木々の葉に覆われているが、隙間から見える陽の光からして俺たちが入ってから既に数時間は経っている。今日はここらで下がって、明日また改めて森に入った方がいいだろう。



 そうして一旦森から出た俺たちだが、森を出てそれまでの緊張をほぐすように俺が体を伸ばしながら話しかけると、それまであったベタつきや不快感が一瞬で消え去った。ソフィアの《浄化》の効果だ。


「お疲れさん。怪我はないか?」

「はい。問題ありません。それよりも——《浄化》。汚れたままでは衛生的に悪いですから」


 改めてソフィアの姿を確認するが、どうやら本当に問題はないようだ。

 とりえず今日はここまでな訳だし、一旦村長に挨拶に行ってから今日寝泊まりするための小屋に向かうとしよう。


「改めて、お疲れさん」

「いえ、私よりもヴェスナー様の方が戦っていましたから」


 小屋についた俺たちは適当に掃除をし、夕食の準備をしてから改めて夕食と共に今日の反省会をすることにした。まあ、掃除も料理もソフィアがやったんだけど。だって掃除なんてスキルを使えば一瞬だし、俺の家事能力は圧倒的にソフィアに劣る。できないわけじゃないけど、たった二人分の食事なんて協力しない方が早く終わる。


 ちなみに、小屋の中には俺たちの他にニドーレンと三馬鹿もいるけど、そこら辺はいないものとして考えている。小屋が一緒なのは、ここ一つしか泊まる場所がないからだ。


 普通こういった小さな村には宿なんてなく、村長の家に泊まることになるか、小屋を建ててそこに泊まってもらうかのどっちかだ。宿なんてあっても採算が取れないからな。そして村長の家に泊めるのは危険があるってことで、大抵の場合は小屋を作るもんだ。


 だが、小屋を作るにしてもそう多くない頻度と人数が使う程度のものなど、いくつもあっても仕方がない。維持するのに労力だって必要なわけだし、旅人用の小屋なんて一つしかないのが基本だ。

 そんなわけで、俺たちはこの一つしかない小屋を仲良く共同で使うことになったわけだ。


 とはいえ、この依頼には俺たちしかいないものとして行動しろってことになっているので、料理を分けたりなんてしないし、意見を求めたりもしないけど。


 そんなわけで夕食を取りながらの作戦会議だ。


「敵自体はそれほど強くないな」

「そうですね。問題としてはその数でしょう。連携されれば、死にこそはしないでしょうけれど、今の状態ではそれなりの手傷を負うと思います」

「だな。方法としてはこのまま少数の奴らを探して闇討ちが安定するだろうけど……」

「いずれ……早ければ既に気づかれているかと」

「だよな。今まで倒したのは……こんな感じか?」

「おそらくは」


 地図を出してそこにマークとなる小石を置きながら今日狩りをした場所を確認していく。


「そうなると……」


 俺は目を瞑って意識を集中させ、周辺の植物たちに語りかける。そして……


「……見つけた」


 敵の集団のいる場所を見つけることに成功した。

 本来意思疎通は百メートルくらいの植物の声しか聞こえないが、それは聞こえないってだけで効果範囲外の植物たちだって意思を持っているのだ。なら、植物たちから植物たちへと伝言ゲームのように意思を伝えさせれば、正確ではないかもしれないがある程度の状況を理解することができる、というわけだ。


 まあ、意思があるっていってもその方法でやる場合はある程度成長した相手じゃないと成功しない。樹齢何十年とかな。多分普通は意思があるっていってもはっきり伝えられるわけではないんだろう。

 普段の俺がそんな声も関係なく全てを拾うことができるのは、《意思疎通》の恩恵で強化されているからとかそんなんだと思う。


「次はここに行くぞ」

「残りの数はどれくらいでしょうか?」

「困ったことに五十はいるらしい」


 植物たちが数え間違いをしていない限りでは五十体が一塊になって暮らしているそうだ。


「では、誘き出して削りながらになりますね」


 普段なら五十どころか五百でも問題ないが、今は色々と隠してるしそうなるよな。


「一つよろしいでしょうか?」


 と、そんな話をしていると干渉しないと言うことになっていたはずのニドーレンが話しかけてきた。

 別に一生話しかけてくんなとかそう言うことを思ってるわけではないけど、なんだろうか?


「はい? なんですか?」

「他人にスキルについて聞くのはマナー違反ですが、あなたは敵の居場所がわかるスキルをお持ちなのでしょうか?」


 ああなるほど。まあこんな話をしてればそう思うだろうし、今日の俺たちの動きを見ればバレて当然だな。

 ただそれを聞くのはどうかと思うが……まあわざわざ聞いてくるわけだし、査定に関わるんだろうな。感覚に頼らない探査能力があるってのはそれだけで貴重だから。


「まあ、はい。制限はありますが、ある程度は」

「なるほど。ありがとうございました」


 それだけ聞くとニドーレンは俺たちから離れていき、それまで待機していた場所に戻ると何かを記し始めた。

 やっぱ査定関連か。無事にソフィアをBランクまで上げることができるといいんだけどな。そうすれば多少は調べるのも誰かに渡りをつけるのも楽になるだろうし、その時は真面目に母親に会うための活動をしよう。

 理想としてはお忍びできた王族に遭遇するとかか? まあ無理だろうけど。

 現実的な案としては母親の実家に向かうことか。まあ元々その予定だったし、特に問題はないだろう。


 なんにしても、ランクを上げるのが優先だな。そのためにも明日は頑張って終わらせよう。




 そんなこんなで翌日。俺たちは今日もハチェットテイルを狩るために森の中に来ていたわけだが、ざっと調べた感じだと巣の外を徘徊していた奴らは全て片付け終えたようだ。残すところは巣の中に篭っている奴らだけ。


「さて、これで巣の殲滅も残すところ後少しか」

「後は本陣を叩いておしまいですね」

「だな」


 植物たちの案内に従って俺たちは森の中を進んでいくが、しばらくするとハチェットテイルたちの巣にたどり着いた。

 たどり着いたといってもまだそれなりに距離があるが、これ以上近寄ると気付かれる恐れがあるので仕方がない。

 ハチェットテイルは猿に似ているだけあってその生態も似ているものがある。今目の前にある住処だって、『巣』と呼べるようなものではない。ただ開けた岩場に集まっているだけだ。所々で木を組みあわせたて作ったような小さなドーム状の何かがあるが、あれの中には子供が入っているらしい。


 そんな感じで暮らしをしているハチェットテイルたちだが、普通の猿と違うところが一点。それは人を食べることだ。

 対象は人に限らないが、魔物の共通点として肉を食う。むしろ、肉を食うからこそ魔物として分類されるのだといえなくもない。元が肉食の動物は別としても、植物タイプの魔物だって肉を食べるのだ。まあ植物系に関しては食べると言うよりも栄養を吸い上げるとかって感じだけど、動物を殺して糧にすると言う意味では同じだ。


 それを証明するように、その開けた場所ではあたりに骨が転がっている。村から攫ってきた奴らも食べられてしまったんだろうな。


 けど、これは仕方のないことだ。人を襲ったのだって獲物を狩っただけで、生きるためにやったことだ。これが自然の摂理というもの。弱肉強食だ。


 ただ生きるために行動したハチェットテイルたちには恨みがあるわけでもないが、こっちも仕事なんだ。


「二手に別れよう」


 数が多いため、一箇所から攻めたのでは逃げられてしまう。本当なら四方向くらいから攻めたかったんだが、あいにくとこっちの戦力は二人しかいない。ニドーレンは戦わないし、三馬鹿は戦ったとしても役に立たないし。


「では私は反対に回りますので、五分後にお願いします」


 俺の言葉に頷いたソフィアはそう言うとすぐさま動きだし、森の中にあっても音を立てることなく走り去っていった。

 こういった面ではソフィアの方が優秀だよな。俺の場合直接戦闘は鍛えたけど、隠密系のあれこれってのはそれほど技術があるわけではない。


 ソフィアの走りを感心しながら見送り、五分が経過した。どこにいるのかはわからないが、多分もうすでに配置にはついているだろう。配置についていなかったとしても、まあ合わせてくれるだろうし問題ない。


 それじゃあ、やるとするか。


 そうして意識を視線の先にいるハチェットテイルたちへと固定し、ポーチから種を取り出してナイフを握る。

 これで準備はできた。後は攻めるだけ——


「——っ!」


 だが、そう思って仕掛けようと足に力を込めた瞬間、背後から俺の頭部に向かって矢が襲いかかってきた。


 意識をハチェットテイルたちに向けていたせいで反応が遅れたが、周囲にいた植物たちが注意をしてくれたおかげでギリギリ避けることができた。


「チッ!」


 舌打ちの音が聞こえたのでそちらへと振り返ると、そこには三馬鹿のうち二人がそれぞれ剣と弓を構えて俺のことを睨みつけていた。どうやら今のはこいつらがやったようだな。

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