第113話盗賊どもの巣
「ってわけで、こいつらは倒したよ。まだ完全に死んだわけじゃないからしばらく様子見しておかないとだろうけど、まあしばらくここを囲ってればいいんじゃないか? 出てきたら改めて殺せばそれでいいだろ」
一応地面の中に完全に埋まった奴らは出てくる可能性は残ってる。だが、そこはもう知らない。
流石に殺したくないとか言われてもどうしようもない。ここまで手助けしてやったんだから、自分たちの身ぐらい自分たちで守れ。
「あ、ああ……」
だが、後方にいたスコットに振り返りながら声をかけたのに、肝心のスコットの反応はどこか虚というか、はっきりしないものだった。多分これはあれだ、本当に俺が二十人もの賊を相手にできるとは思っていなかった的なやつだろう。
そんな呆然としたスコットだが、数秒経ってから自分に話しかけられていると気が付いたのか、ハッと気を取り直して俺へと顔を向けた。
「だ、だがまだこいつら以上の数が残ってるって……」
「そいつらは今から退治しに行くから問題ない」
「こ、これから?」
「ソフィア」
「はい。馬車の用意はできております」
「ありがとう。それじゃあ行こうか」
俺が賊たちから話を聞いている間、ソフィアはどこぞへと消えていたが、それは馬車を用意するためだ。今日は賊を倒した後はアジトに行くって伝えてたし、予定通り賊が来たので馬車を用意してもらっていたのだ。
最初から用意しなかったのは、万が一この辺が戦闘で巻き込まれた場合を考えてだな。それから少しでもウマにストレスを溜めないようにするため。
そうして用意してもらった馬車に乗り込んで、スコットに軽く挨拶をしてから俺たちは賊のアジトに向かって進み始めた。
「馬車はここまでだな。……悪いけど、ソフィアはここで馬車の守りをしててくれないか?」
しばらく進んでいると森の手前までたどり着くことができて、その周辺には賊達が使ったと思われる道や痕跡なんかが残っていたのだが、その道を素直に進んでいくのは危ないだろうと言うことで、馬車は森の入り口に置いていくことにした。
だが、ただ置いていくと賊や魔物に見つかってしまい、壊されたりする可能性がある。なのでそのためにソフィアを守りに置いていくことにした。
ソフィアは戦闘系の職は持っていないが、『農家』を第三位階まであげたみたいだし俺の戦い方を見てきたんだから、多少の敵なら問題なく倒すことができるだろう。
「おまかせを。何人たりとも近寄らせはしません」
「危なくなったら俺も馬車も放って逃げていいからな?」
「はい。わかっています」
はっきりと頷いたソフィアだが……これ、絶対分かってないやつじゃないか? もし何かあったとしても逃げないだろこれ。
しかしこの場でそれを言ってもどうしようもないので、無事であることを願いつつも俺は先に進むことにした。
「まあ、行ってくるよ。そう長くはかからないと思うけど、気をつけろよ」
「はい。いってらっしゃいませ」
そうして歩きだした森の中なわけだが……
「《意思疎通》があれば森の中での追跡なんて楽勝なんだよなぁ」
森という周りが植物で囲まれている状態での《意思疎通》は些かうるさすぎて頭が痛く感じるが、それでも情報としては有益だ。周りの植物全てが味方なわけだし、この森で起きた出来事でわからないことはない。
一つ問題があるとすれば、植物と俺たち人間とでは時間感覚が違うのでその辺の食い違いなんかがあることだ。植物達にとってはつい最近のことでも、俺たちにとっては数年前、なんてことだって起こり得る。
だが、その点さえ注意していればこれ以上ないくらいに便利な力だ。
「いたな」
植物達からの情報を頼りに進んでいたのだが、ついに賊達のアジト付近にまでやってくることができた。
賊達は森の中にあった崖沿いに小さな村を作っており、木製ではなく土製の壁がしっかりと築かれている。多分あれは土魔法師が作ったものだろう。
賊達は百人近くいるらしいし、天職か副職かはわからないけど、数人程度は魔法師もいるもんだろうからおかしくもないか。
「さて、見つけたはいいけどどうすっかな」
賊達の村は土壁で囲まれていて、後方は切り立った壁があるから襲えない。ついでに見張り台もあるし、門番もいる。これは普通に戦ったらまず勝てないだろうな。
たとえ大領地や王都から派遣された騎士団がここを見つけたとしても、ここにくるまでの道は一つしかなく、その道だって馬車が通ることができる程度の狭いものだ。道以外の他の場所は森が邪魔をしているため大きなものを運搬することはできず、攻城兵器なんかは使えない。
そうなると人間だけで攻略しないといけないわけだ。
この世界では人間一人当たりの戦力が地球とは違うから、絶対に勝てないとか絶対に勝てるだなんて一概に言えない。個人で戦車と同じ武力を持ってたりするわけだしな。
だが、それでもある程度の予想というものはつけられる。
親父みたいな圧倒的な戦力がいた場合は別にしても、一般的な騎士や兵士でここを攻め落とすならかなりの被害が出るだろうな。
そんな敵の防衛に対して俺は……
「いつも通りでいいか」
何にも気負うことなくての中に種を握り込んでから近寄っていき、敵の門番が気がついたところでスキルを使う。
「種まき種まきっと。んで《生長》」
俺を見つけたことで武器を構え叫ぼうとした見張り達だったが、突然身体中に痛みを感じたことで口からは叫びの代わりに小さな悲鳴が溢れ、持っていた武器を落としてしまった。
そんな動きを止めたところで近寄っていき、首を掴んで肥料に変える。
すると見張り達の首は溶けてなくなり、声を出すこともできずに胴体と頭が別れることになった。
「なんかもう、流れ作業だよな」
隙を作って接近し、相手を掴んで《肥料生成》スキルを使う。そんな一連の流れがパターン化してしまった。淀みなく攻撃にうつれるってことだからそれほど悪いことではないんだけど、なんというかこんな簡単でいいのかって感じがする。まあ、このまま続けるけどさ。
「なんだよ今の声は。回収に向かった奴らが帰ってきたのか?」
小さいとはいえ悲鳴が上がったからだろうか。見張り達のいた門の向こう側から追加でもう一人賊がやってきた。
「あ? なんだこい——づっ!?」
門の外、土壁の囲いの外に出てきた賊は俺のことを見つけると訝しげに顔を顰めたが、俺はそんな賊に向かって迷う迷うことなくスキルを使った。
額に種を撃ち込んでのけぞった瞬間に接近し、先ほどと同じように首を掴んで肥料に変える。
それだけでさっきと同じ結果になるが、今度はそれで終わらない。
門の外に出てきた賊が倒れる瞬間を土壁の向こうにいる賊達に見られてしまったのだ。
まあ門は開いてたし、見つかってもいいという気分でやってたから構わないんだが。どのみち騒ぎを起こして見つかるつもりだったし。そうすればきっとここのボスを含めて大半の奴らが姿を見せてくれるだろ?
そんな考えの元俺は行動したのだが、それは正しかったようで賊がどんどんと湧いてきた。
ただ、まだそれほど大きな騒ぎにはなっていない。精々が門の周辺の奴らを呼び寄せる程度のものだ。
とはいえ、ある程度は集まっているんだから、この騒ぎを維持していればそのうちボスが来るだろうし、こうして集まってきた奴らを殺していけば全員集まってくるのを早めることができるだろう。
というわけで、集まってきた賊達は死んでもらうとしようか。
「なにもんだてめえは!」
門の前に集まってきた賊達を排除していると、他の賊達に比べてやたらと偉そうな男が現れた。多分こいつがボスなんだろう。
「ちょっとした慈善活動をしにきた旅人だ」
「旅人だあ? てめえ何ふざけたこと——」
冗談めかした俺の言葉にボスは苛立った様子を見せながら口を開いた。
だが、ボスの言葉は途中で止まり、訝しげな様子で俺のことを観察するように視線を向けてきた。
「……てめえ、東のクソガキか? 何でこんなところに居やがる!」
「ん? なにお前ら。俺のことを知ってるわけ? ……そういやあ、カラカス出身のやつがいるとかいないとか言ってたっけ」
カラカス出身の奴がいるんだったら俺が東のボスの息子だってわかってもおかしくはないな。だって俺、これでも結構有名だし。孤児とか路地で生活してるような下の方の奴らは知らないかもれしれないけど、一定以上の奴らは俺のことを知っている奴は多い。
「クソがっ。こんなところまでなんのようだよ」
「用件は言ったろ。俺が厄介になった村を襲ってる賊がいるからそれを退治に来たんだよ」
「厄介って……てめえはそんなんで手助けなんてするようなガラかよ」
「まあ……気分が乗れば?」
「チッ、そうかよ!」
ボスの男がそう言った瞬間、物見の上から矢が飛んできた。
それは植物達のおかげでわかっていたのだが、矢が飛んでくると同時に賊達にも動きがあった。
「やれええ! ぶっ殺せえええ!」
ボスの言葉を受けてその場にいた全員が俺を襲うためにそれぞれの武器を構えて突っ込んできた。
剣に槍に斧に拳。弓に魔法にナイフに岩など、いろんな攻撃が俺へと向かってくる。
逃げ場のない攻撃。そのまま食らえば俺は容易く死ぬことになるだろう。だが……
「《天地返し》」
俺の視界を埋め尽くすように飛んできた攻撃は、突如俺の目の前の地面が持ち上がったことで防がれることとなった。
天地返しは、何も人を落とし穴に突き落とすだけのスキルじゃない。いやまあ、本来は落とし穴として使うもんでもないけど、それは置いておこう。
このスキルは指定した範囲の地面を持ち上げてひっくり返すスキルだが、持ち上げた地面はすぐに反転させなくてもしばらくそのまま空中で待機させることが可能だ。
だから俺は天地返しで半径三メートルくらいの半球状に地面を持ち上げ、それを空中で待機させることで盾とした。
とはいえ、所詮は地面を持ち上げただけ。それを投げたりすることはできない。だがそれで十分だった。
攻撃を防がれた魔法使いや弓兵たちは突然目の前の地面が持ち上がったことに驚いて攻撃を止め、俺に近づいて攻撃を仕掛けようとしていた賊達もその動きを止めることとなった。
そして持ち上がった地面がくるりと反転したことで何が起こるのかと注目しているが、悪いな。それ、別に意味ないんだ。ただ反転して落とすまでがスキルとしての効果ってだけ。
そうして出来た隙をついて俺は全員を視界内に収められる位置に移動し、両手をポーチの中に突っ込んで中に入っている種を取り出した。
スキルによって浮かんでいた地面が音を立てて落下するのと同時に、俺は《播種》スキルを使って種をばら撒いていく。
そこからはいつもと同じだ。種を食らった賊達は悲鳴を上げながら武器を落としたり顔を押さえたり地面をのたうち回ったり……まあそんな感じだ。
そこにさらに《生長》を使ってしまえば、もうおしまいだ。戦闘ではなく一方的な蹂躙でしかない。
辺りから悲鳴が聞こえる中、俺は一人だけ《生長》を使わなかったボスの男に近づいていく。《播種》の方は食らわせたので全身から血を流しているが、それでもまだ立っていられるようだ。
だが、持っていた武器は落としてしまっているみたいだし、まともに戦うことはできないだろう。
「で、何でお前らはこんなところで賊なんてしてるわけ?」
特に聞く必要はないんだが、ここ最近賊の被害が増えてるっていうし実際に俺たちも賊に遭遇したので、カラカスの出身の奴がなんでこんなことをしているのかが気になって尋ねてみることにした。
「くそっ! てめえのせえだよ! てめえがエルフどもの森に行ったおれらの仲間をぶっ殺しやがったから上から俺らに対するあたりが強くなったんだよ! あのままいたら搾取されるだけでいつか死んじまう! だからこっちに来たんだよクソッタレ! これで満足か? ああん!?」
なるほど。つまりは俺のせいか。それを知ったところであの時のことを悔いるつもりなんてないけど。だってあの時はあれが最善だった。じゃないと俺たちが殺されていたし、エルフが捕まることになっていたはずだ。
というかこれは逆恨みだろ。迎撃されるのが嫌なら襲ってくるなよって話だ。
親父に後で手紙でも送っとかないとな。今回の件みたいなのは今のあの街じゃよくあることだろうし。何せ五帝のうちの一人が死んだんだ。そう言った混乱やそれに伴う人の流出はあって当たり前だ。
親父が在り方を変えたからそれについていけねえって感じで出てった奴らとかもいるだろうし、豚がいなくなって多少は住みやすくなるだろうけどそれが嫌だって奴もいるだろう。あいつらは犯罪上等な奴らなわけだし。
中央区のボスが消えたことで、そんな今までは抑え込めていた不平不満が溢れてもおかしくはない。
「ああ、満足だ——さようなら」
「ざっけん——ぎゃああああああ!」
武器はなくとも襲い掛かろうとしたのだろう。男は一歩足を踏み出し、叫びながら地面に倒れてのたうち回ることとなった。
そして最後に賊達の集まっているところの真下を発動地点に設定し、結構大きめな範囲をの地面に《天地返し》を発動させた。
岩山のように思えるほど大きな地面は賊を乗せたまま浮かび上がり、いつものようにくるりと反転し、俗を下敷きにして落下した。
「これでおしまいか。アジトん中には残ってんのかね?」
大雑把な天地返しだけでは巻き込めなかった賊達を始末した後、俺は村の中に残党がいないか植物達に聞いてみたのだが、村の中には賊の残りはいないようだ。
だが、村の中〝には〟だ。村の奥、切り立った崖には洞窟があるようで、その中には人がいるとのこと。
「……人はまだ残ってんのか。面倒だな」
でも、それだとなんで外に出てこないんだ? 中に仲間が残ってるんだったらそいつらを呼ぶだろう。けどそれでも呼ばないってことはなんか理由があるのか?
「いや、そうか女を攫ってるんだったな。ならそれか」
使いやすいであろう村の中に場所を作るんじゃなくて洞窟に閉じ込めておくってのは、そのほうが管理がしやすいからだろう。洞窟の中だと周りは岩なんだし、建物に閉じ込めておくよりは逃げづらいだろう。
「とりあえず、確認してくるか」
人数としては八人程いるらしいから俺一人じゃ運べない。捕らえられてるってことは弱ってるだろうからすぐに動けないかもしれないから歩かせるのは無理だろう。
そうなると森の前で待たせているソフィアを呼んで馬車を持ってきたほうがいいんだが、本当に中に賊が残っていないのか確認する必要がある。万が一にでも賊が残っていて、ソフィアと合流後にここにきて奇襲を受けただとか人質を取られたとなったら面倒だからな。
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