異世界最強の『農家』様 〜俺は農家であって魔王じゃねえ!〜

農民ヤズー

第1話始まり

 

 これはきっと神罰かなんかなんだろう。

 ああ、確かに俺が悪かった。それは理解している。

 あの時、俺は万引きをした。特に理由があってのことじゃない。いやまあ理由はあったんだが、単にコンビニで飲み物を買おうとした時に財布を忘れて、でも喉が渇いてて、深夜だったし店員もいねーしバレねーだろ、なんて考えたっていうしょーもない理由だ。


 後はそうだな……強いて言うなら癖みたいなもんだ。


 ものを盗めば盗まれた誰かはその分の損をする。——だからどうした?


 自分が良ければ他人なんてどうでもいい。他人の損害? そんなの知ったことか。


 そんなふうに考えて暮らしてきた俺は自分のが楽になるのを最優先の生活を送ってきた。万引きだって今回が初めてじゃない。

 だって金を払わなくてもものが手に入るんだったらそっちのほうがいいじゃないか。たとえその陰で誰かが泣いているんだとしても、それは俺には見えないから興味ないし、意味がない。好きなだけ勝手に泣いてろ。そう思ってた。


 つまるところ、対岸の火事なわけだ。テレビの向こうの出来事と同じ。たとえ自分が原因で引き起こされた悲しみであっても、自分は悲しくないからどうでもいい。そんなクソったれな考えをしているのが俺だった。


 ついこの間ようやく成人もしたし、未成年の時とは違ってリスクとリターンを考えて万引きや詐欺まがいのことをやめたが、まあ基本的な考えは変わらないで生活してきたし、今更になってそんな『癖』が表に出てきたんだろう。


 しかしまあ、そんなふざけた理由で万引きをした俺だが、どこから見ていたのか店員にバレることとなった。

 今考えても飲み物なんてバカだった。カバンも何もない無手の状態なのにあんなでかい物できる訳なかったんだ。

 いやまあ、問題はそこじゃなくて万引き自体するなってところなんだが。


 でだ、店員に気づかれた俺は店員に追われることになったんだが、まあ捕まるわけにはいかないんで当然逃げた。あの時は正直何考えてたかわかんねえな。多分何も考えてなかったと思う。頭ん中真っ白で、とりあえず逃げなきゃってただひたすらにまっすぐ走った。


 でも、それがいけなかった。

 そのコンビニは大通りに面してる店で、ちょっとした田舎の道で深夜とはいえ十数分に一度は車が通る場所だった。

 そんな道をよく確認することもなくまっすぐに突っ込んでいってみろ。んなもん轢かれるに決まってる。というか実際に轢かれた。


 あの時は何がどうなったのかよくわからんが、わかっていることといったら俺は宙を舞ったってことだ。車の天井を見下ろした光景は覚えてるんだから間違いないだろう。

 そんな轢かれた時でさえ自分の行動を棚に上げ、俺のことを轢いた相手に「ざっけんなよクソ野郎! ちゃんと前見て走れってんだよ!」なんて悪態をついていたのだから、我が事ながら今思い出してみても救えない。

 まあ、今でもあの車がいなきゃ……、なんて思ってもいるが、自分本位な性格ってのは死んでも治らないんだろう。仕方ない。


 だが、そう。そんな自分最優先で他人の迷惑なんて知ったことかなんて考えていた俺は、死んだのだ。

 車に轢かれた後は……どうなったんだろうな? そのまま頭から落ちたのか、何かあって死んだのかわかんないが、ともかく俺は死んだ。

 そして生まれ変わった。いわゆる転生ってやつだ。


 しかし。しかしだ。ここで問題が発生した。これが俺の言った神罰云々って話に繋がるんだが——どうやら俺は今から捨てられそうになっているらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る