09話.[嫌われたくない]

「壮さんってお兄ちゃんみたいですよね」

「そう? 僕的には弟みたいな感じだと思うけど」


 年上ではないが年上らしいことはできていない。

 他のことも怒られない程度に頑張っているだけで誇れることではない。

 真面目にやっていたからよかったと千は言ってくれたが、部活動などに所属したら自分にできる範囲で頑張らなければならないのは絶対だからだ。


「静枝はお姉ちゃん系かもね」

「小さいですよ?」

「小さくてもしっかりしているから。僕的には静枝みたいな子がお姉ちゃんでも、千みたいな子がお姉ちゃんでもしっくりくるけどね」


 あ、でも静枝は妹の方がいいかもしれない。

 若干口うるさいしっかり者の姉と、基本的に味方をしてくれるしっかり者の妹と。


「やっぱり静枝は妹の方がいいなあ」

「お兄ちゃん」

「おお、なんか新鮮だ」

「あ、お姉ちゃんが来たのでこれ以上はやめておきますね」


 後ろを見てみたら腕を組んで滅茶苦茶いい笑みを浮かべている千がいた。

 それだけを見て判断するなら普通にいいことだ。


「弟君、なんで妹ちゃんに変なことをさせているのかな?」

「静枝は妹っぽいなと思って」

「私よりしっかりしているからお姉ちゃんでもいいよね?」

「あ、じゃあお姉ちゃんって呼んだ方がいい、ぃい!?」


 ……手の甲をつねられると滅茶苦茶痛いって再度知った。

 そういえば昔にも似たようなことがあったなと思い出す。

 そう考えると千はあの頃から……?

 恋愛相談をしていた友達と付き合い始めたと言っていたし、絶望感をなんとかするためにもそうする必要があったのかもしれない。


「壮さんは駄目ですね、恋人がいるのにそんなことを言って」

「えぇ……」

「でも、だめだめな弟もいいかもしれませんね」


 おお、なんかこれはこれでいい笑顔だった。

 堅いだけではなくこういう茶目っ気があると一気にそういう対象として、ねえ。


「お姉ちゃん、私はちょっと弟君と話があるからいいかな?」

「ふふ、はい、分かりました」


 ああ、あまりに聞き分けのいい姉というのも困ったものだ。

 千は再度腕を組んでこちらを見てきた。

 怒っているようにもそうでないようにも見える。


「……静枝に優しくできる壮は好きだけどさ……」

「大丈夫だよ、触れたりしてないよ」

「うん……」


 なんかまだ納得できていない感じだったから抱きしめておく。

 普通に廊下だから誰かが出てくる可能性があるから結構ドキドキした。


「……離して、もう大丈夫だから」

「うん、分かった」


 あ、体を離したら顔を赤くしている千がそこにいた。

 こういうのは新鮮だったからいっぱい見ようとしたものの、嫌だろうからすぐに違う方を見ておくことにした。

 嫌われたくないからね。


「ありがとう」

「いや、僕が触れたかっただけだから」

「うん……」


 頭を撫でてから教室に向けて歩き出した。

 ずっと休み時間だったらいいのにって今日は強く思ったのだった。

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