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Nora
01話.[これで確定した]
「なんだかなあ」
ただただ同じ繰り返しでそろそろ飽きがきていた。
生まれてから十六年が経過しているわけだが、小学校に入学してからは学校に行って、授業を受けて、放課後になったら家に帰る、だからね。
「こら、そんなに寄りかかったら危ないでしょ」
「別に途端に支えがなくなったりしないから大丈夫だよ」
それでも指摘されたくないからすぐにやめた。
そしていま話しかけてきた相手を真っ直ぐに見る。
「
「はい? 全然つまらなくないけど、寧ろ過去一番で楽しい時間を過ごせてるけど?」
「そっか、羨ましいなあ」
「まさかまた飽きてきたの?」
「うん、なにも代わり映えないしない毎日だからさ」
モテモテだったりしたらそれで時間をつぶせるんだけどそれもなし。
残念ながら自分を好きになってくれるような人間はいなかった。
「よし、千と付き合えば――」
「嫌です、私には好きな人がいますから」
「ですよねー」
だけど恋をすることぐらいでしか楽しめる自信がない。
今日から頑張って同性でも異性でも探すとしますか。
こういう風に随時更新していけば嫌になってくることも少なくて済む。
決まっている人生なんてそれこそつまらないだろうからこれでいいのだ。
「
「趣味か……」
ゲームも本を読むのも別に嫌いではない。
嫌いではないが、家にないから話にならないという状態だ。
食べることがとにかく好きだからお菓子とかによくお金を使ってしまうことで他に回すことができなくなっていた。
優先順位を変えろってことか……。
「ま、飽きてきたからってすぐに変えられるわけじゃないからね」
「うん、そうだね」
「だからまあ、ゆるくやるよ」
飽きてきた、この先希望なし、あ、じゃあ死のうとはならない。
流石にそこまで絶望しているわけじゃなかった。
いまからでも楽しいことなんて簡単に見つけられると思うし。
「というわけで千さん、あなたの友達の女の子を紹介してください」
「嫌です、私の友達にも自由はあるべきだと思います」
「酷いなあ、僕が悪く扱うとでも思っているの?」
「それはないけど、そんなやり方じゃ長続きしないでしょって話だよ」
なるほど、確かに一理あるかと納得。
とりあえずは授業を受けるために教室に戻ることになった。
残念ながら千とは別のクラスだからそこも影響しているのかもしれない。
友達を作れるような能力がないからこっちではひとりだし。
そして千は中学生のときにたまたま話すようになった相手だからそれも実力とは言えないというなんとも……という感じだった。
「起立、礼、着席」
授業が始まっても静かになるわけじゃない。
教師もある程度は許容しているのか気にせずに自分のしたいことをしていく。
逆にうるさく言わないのがいいのかゆっくりと静かになっていった。
こちらもしっかり板書をしつつも意識はほとんど別のことに向けていた。
何故なら雨が降り始めたからだ。
今日は傘を持ってきていないのもあって悲しいことになることはこれで確定した。
でも、なんかそれが嬉しかった。
傘を持ってきていないときに途中から雨が降って~的なことは別に多くないから。
「壮」
「あれ、なにか用でもあったの?」
こっちの教室に来ることは少ないからこれはかなり珍しいことだった。
それこそ傘を持っていないときに雨が云々よりもレアかもしれない。
「違うところで一緒にお弁当を食べよ」
「え、友達はいいの?」
「うん、いつも一緒というわけじゃないから」
なるほど、それなら気にせずに一緒に食べさせてもらうことにしよう。
あ、お弁当を自作しているからというのもあるのかもしれなかった。
誰かが作ってくれたらお昼になる度にテンションも上がるだろうし。
「好きな人とはいいの?」
「いい」
「もったいないなあ」
兎にも角にもご飯を食べよう。
何度も同じことを聞いて怒られたことがあったから気をつけなければならない。
これで実は僕のことが好きだった、とかだったら面白いんだけどな。
千は優しいし真面目だし優秀だしでかなり魅力的な女の子だから。
ま、だからこそ僕にはもったいない女の子なんだけど。
「壮こそ中学生のときに仲良かったあの子とはもう会っていないの?」
「仲良かった……ああ、あの子のことか。ないよ、高校も別れちゃったしね」
喧嘩別れとかではなく自然とそれで消滅となった。
付き合っていたとかではないんだから当たり前と言えば当たり前かもしれない。
同じ場所に通わなくなったら基本的にはそんなものだろう。
もしそれでも続けられているということならそれはもうその人と相手の人がすごいと褒めるしかなかった。
「連絡先を交換しているんじゃなかった?」
「したけど全くやり取りをしていないんだよね」
だから今月いっぱいまで残してなにもこなかったら消すことに決めている。
今月終了まであと十日というところだから完全に終わりかもしれない。
「勇気を出してたまにはあなたから連絡してみなさい」
「それって勇気を出すって言えるの?」
「うん」
「そっかー」
よし、それなら送ってみようじゃないか。
軽い挨拶と元気なのかどうかを聞いておく。
それをちゃんと千にも見せて合格を貰ったからご飯を食べることに専念した。
「あー、千が付き合ってくれればなあ」
「それは無理ですね」
「なんで断るときは敬語なの……」
無駄だからこれ以上は言うのをやめた。
何故かかなりしょっぱく感じてきて不思議な感じがしたのだった。
「つ、つまらなさすぎるっ」
相変わらず返ってこないし、千は相手をしてくれないしで退屈すぎた。
休みだからラッキーみたいな感じでいたのにこれではあんまりだ。
「……もしもし?」
「相手をしてよっ」
「嫌、休日ぐらい壮の顔を見ないで過ごしたい」
そしてがちゃりと切られてしまうと。
なんだかなあ、まだたかだか四年も続いていない関係だからなのかもしれないけど千って僕に対して厳しいんだよなあ。
そりゃまあ分かるよ? 休日ぐらいゆっくりしたいということは。
平日になればまた学校に行かなければならなくなるんだし、繰り返していけばテストや行事なんかもあるんだからしっかり体力を回復させておかなければならない。
そう、それは分かっているのだ。
ただ、ここまで暇すぎるとそれはまた事情が変わってくるといいますか……。
「仕方がないから外にでも行くか」
外に行ったところでなにかが変わるということはないが、まあ気分転換にはなるだろうから無駄ばかりではないと片付け外へ。
この前とは違っていい天気で気持ちがい、
「なんでじゃー!?」
い、はずだったのに急に雨が降ってきて一瞬で濡れ鼠になってしまった。
どちらかと言えば千の家の方に近いからそちらに行こうかとも考えたものの、なんか可哀相な気がしたから慌てずに歩いて帰ることにした。
だってすっ転んで怪我なんてしたら最高に馬鹿らしいし。
「あっ」
なんか家の前に制服を着た女の子がいた。
高校が別々になって現在進行系で消滅しかかっている子ではなく全く知らない子だったので気にせずに中に入ろうとしたのだが、
「東壮さんですよね!?」
と後ろからかなりの大声量をぶつけられて足を止めることしかできなかった。
「確かに東だけど……きみは?」
「あ……」
「あ、言いたくないなら別にいいよ。それよりこれ以上いても酷くなるだけだし帰った方がいいんじゃない?」
こちらは濡れ鼠だから早くお風呂に入りたかった。
千の友達なのかな?
敬語を使うってことは恐らく年下……だと思うけど。
「あの、中……いいですか?」
「え? あ、まあ……」
なんか怖いがこのままだと風邪を引くから大人しく従った。
飲み物だけ渡してこちらはシャワーを浴びさせてもらうことに。
信用していない人間ひとりをリビングで自由にさせるのは少々引っかかるところではあるものの、これはしなければならないことだから仕方がない。
何故なら掃除をするのも僕の役目だからだ。
「……はぁ、なんですか」
「あ、なんか女の子が家に来てさ」
「ん? あの子?」
「いや、全く知らない子。できれば千が家に来てくれるとありがたいんだけど……」
「……分かったよ、行くから待ってて」
お礼を言って電話を切る。
この調子だと知っているということはなさそうだ。
とりあえずささっとシャワーを浴びて――というところまではよかったのだが、
「着替えがない」
濡れた状態で部屋に行きたくなかったんだから仕方がない。
仕方がないから家に来てくれた千に頼んだら滅茶苦茶嫌そうな顔をしながらも取りに行ってくれた。
残念ながら下着は持ってきてくれなかったからノーパンで短パンを履く羽目になって色々な意味で泣きそうになったが。
「鍵をしてないとか危なすぎでしょ」
「あの子も急に帰りたくなるかもしれないしさ」
それに連れ込まれた、軟禁されたとか言われても困るのだ。
その点、いつでも出ることができる環境であれば問題もない。
まあ中からであれば自由に開けられるんだから……そう! 千を迎え入れるためにしたのだと考えておけばいい。
「で、壮さんが連れ込んだ女の子というのは?」
「リビングにいるよ、別に連れ込んではいないけど」
リビングに戻ったらソファに静かに座ってくれていた。
千にも普通に挨拶をして笑みを浮かべたりもしている。
こちらは千にも飲み物を用意した後に濡れた場所を拭いておいた。
「唐突で申し訳ないんですけど、あなたは東さんの恋人さんですか?」
「え? ぷっ、あははっ、恋人のように見えた?」
「はい、こんな雨の中でも来てくれるような人ですし」
なにも知らない彼女には悪いけどそんなことがあるわけがない。
もしそんな甘いことがあるならここまで退屈な毎日は送っていない。
「私は壮の彼女じゃないよ、壮なんてありえないし」
「そうなんですね、いきなりすみませんでした」
千のこういうところは残酷だった。
でも、これのおかげで勘違いしなくて済むと考えれば、後のことを考えれば結果としてはいいのかもしれない。
僕だって恋とか女の子とかに興味がある年頃の男だ。
優しい言葉を何度も投げかけられていたら簡単に惚れてしまう。
退屈な毎日だ(笑)とか言っていられなくなってしまうから恐らくこれでいいんだ。
「もしかして壮に興味があるの?」
「いえ、どちらかと言えばあなたに用があったんです」
「え、そうなんだ?」
そうなのか……だったら直接千の家に行けよ、そう言いたくなってしまった。
なんかこれじゃあノーパン野郎で馬鹿みたいじゃん。
この子がいなければお風呂に入った後に全裸で部屋に行けたというのに、ぐぐぐ。
「東さんの家は知っていたので教えてもらおうと思って今日はここに来たんです」
「そっか、それなら私の家に行こうか」
「そうですね」
おいおい、こっちのことなんて最後の方は一度も見ていなかったぞ。
千もこちらに声をかけることなく帰ってしまうって……。
なんか一緒にいるのも微妙な気持ちになってきた。
そのため、月曜から頑張って避けようと決めたのだった。
「暇だ」
それでも学校にいるときの方が気が紛れることも分かった。
授業を受けていれば時間もつぶれるしなにかを言われることもない。
ただ、暇だということはどうしても変わらなかった。
ここに来る前に千のクラスを覗いてみたが、今日も今日とて向こうは楽しそうだった。
結局、土曜日はあの後どうしたんだろうか。
「あの――」
「うわ……」
まさかのまさか、実は高校生だったうえに同じ高校だったらしい。
流石にこれは予想外だ。
あと、千のところに行けばいいのになんで行かないんだ。
「こんなところでどうしたんですか?」
「ただの暇つぶしだよ、きみは千のところに行けばいい」
それでも無視することができないのが本当に弱いところだ。
こう言っても離れて行こうとしない彼女を思わず凝視してしまう。
「こら壮、その子が可愛いからって凝視しない」
まあこうなるよなあ、と。
この子が来れば千も来るに決まっている。
こうなったらもう僕の敗北は決まってしまっているため、教室に戻ることにした。
いまさっき反応してしまったのはあまりに衝撃的だったからだ。
小学生みたいな身長や見た目をしているくせに高校生だとは思わないでしょ?
「おーい、無視は酷いでしょ」
あ、そういえば千相手にはできたのかと気づいた。
最初の一歩を踏み出せたのならいけるということでさらに無視して教室へ。
予鈴という最強の防御壁も発動してくれたし、千も戻ってくれたしで最高だ。
悲観しているわけではないが、まあ元々なにもなかったということなんだろう。
寧ろなんでここまで関係が続いたのか分からない。
元はと言えば同じ競技を頑張る者同士ということで繋がっていただけなのにね。
とにかく授業が終わったら逃げるように教室を飛び出してを繰り返した。
放課後になっても同じ――ではなく、少しだけ時間をつぶしてから帰ることに。
「帰らないんですか?」
「まあね」
もうこの子は神出鬼没すぎて怖い。
現れるときは静かに現れるから幽霊よりも怖いかもしれない。
やはりなにが一番怖いって人間なんだろうなあ。
「山田さんが怒っていましたよ」
「山田さん? 誰それ――って、そんな顔をしないでよ」
山田千、友達なのかどうか分からなくなっている存在。
まだまだ無視を続けるつもりだから多分今月で関係が終わるか。
「きみはなんで僕のところに来るの?」
「山田さんの味方だからです」
「なんで家を知っていたの?」
「山田さんの味方だからです」
駄目だこりゃ。
千の味方ということは不利になるようなことばかり情報を流すに違いない。
もう前回のでないわーと片付けているから一緒にいるのはやはり必要ないわけだ。
「いいから帰りなよ」
「もしかして私、敵視されてます?」
「ゆ……山田に興味があるなら最初から山田の家に行っておけばよかったんだよ、家が分からないということなら学校で待って教えてもらえばよかったでしょ」
なんで僕の家は知っていて本人の家は知らないんだよ。
絶対に知っていたに違いないんだ。
そして僕の家で自由にすることで山田を味方にすることに成功したと。
「別に悪く言いたくてあなたの家に行ったわけではありません」
「分かったから、理由なんかどうでもいいから来ないでよ面倒くさいから」
で、何故か千も来るというね。
あの言い方的に帰ったと思っていたのになんでこうなるのか。
「もしかして拗ねてるの?」
「は、はい?」
「この前、ありえないって言ったから怒ってるの?」
この前……ああ、まあそれもあるのは確かだ。
言葉で刺してくるところは変わらないからなあ。
「そういうのは一切ないよ、僕的にも山田とかありえないし」
一緒にいて安心できるときは確かにあった。
だが、いまも考えたように悪く言ってくることは変わらないから意味がない話だ。
悪く言われても適当に笑ってその話を終わらせるようにしてきただけ。
つまり僕が我慢していなければそもそも続いていなかった関係だということで。
「ふーん、そういうことを言うんだ」
「うん、だって強がりでもなんでもなく事実だし」
「私がいなきゃひとりだったのに?」
「じゃあ今日から離れればいいよ、悪く言われるばかりで辟易としていたんだよね」
退屈になるような理由を作っていたのは自分だったということだ。
なので、今日から変える。
まあこうしたところでいきなり都合のいい女の子が現れたりはしないだろうが、少なくとも彼女といるままよりは可能性も上がるわけだ。
だって特定の女の子といたら勘違いされてしまうかもしれないからね。
彼女は名字も名前も知らない子を連れて教室を出ていった。
こちらは特に急ぐ必要もないから教室でゆっくりしたのだった。
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