第46話 「ほのかに笑う、ブロンズのくちばし」パンダ、調子に乗ってきたぜ⑯


「ほのかに笑う、ブロンズのくちばし」

その彫刻を見た瞬間、どうしても触れたい、と思いました。


天に向かって、やわらかく膨らんだ楕円形の体。

わずかな線によって削り取られ、生き生きと空気を含んだ羽根。

ほっそりした二本の足が大地を踏み、

マントを着ているかのような身体から、わずかに首を傾けてこちらを見る。

その表情はもの言いたげで

かすかに笑いを含み

こちらに問いかけてくる。


そこは。

幸せか?

おまえが、笑って過ごせる場所か?


飛びたくないか、ともに。

くだらぬプライドと俗事を捨てれば。

天の向こうへ連れて行ってやろう。


二度と戻らぬ覚悟と引き換えだ。



そんなふうに、言われている気がしたのです。

ほのかに笑うくちばしを眺めつつ

どうしてもそれに触れたいと

むやみに思いました。

完璧に作られた造形を、

計算されつくした角度を、

私をこの世から解き放つなだらかさを。

この手で体感したい、と思ったのでした。


『この世に私が私らしくれる場所なんて、どこにもない』


いつか。

あなたが途方に暮れてつぶやいた言葉が。

よみがえってきました。


フランソワ・ポンポンのハゲコウは

ブロンズの羽根をもち、

あなたを

月の果てへ連れてゆく。


ぐるりと月を回った後は。

あなたを、私のところへ連れ戻ってくる。


約束された場所へ。

あなたの足が、大地を感じ取れる場所へ。



★★★

フランソワ・ポンポンの作品「ハゲコウ」です。

オリジナルを模したものが見られます。よろしければ名古屋市美術館のサイトでご覧ください。

https://ncam.shop-pro.jp/?pid=163487277


無駄のない造形は、ちょっとブランクーシをほうふつとさせますね。

この優しい曲線を

あなたに。


今宵は雨のところも多いようです。

みなさんのところが、晴れていればいいのですが。


おやすみなさい。

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