聖剣、抜いちゃいました。
さぼてん
トラック1 轟々咆哮、氷の刃
プロローグ
「あ……う……」
白い吐息を吐き出しながら、男は声を絞り出す。血にまみれた手を伸ばした先には、泣きじゃくる少年の姿。
「やだよ、死なないで、父さん!」
すがり付き、必死に呼びかける少年。それが無意味なことは、彼にも理解できていた。
だがそれでも、止められない。
死なないで。死なないで。喉が裂け、血を吐いても尚、叫び続ける。
「強く……生き……ろ」
しかし無情にも、別れの時は訪れた。男の手が、少年の頬を撫でたその刹那。
ぴきぴき、ぱりん。男の全身はたちまち凍り付き、無数の破片となって砕け散る。
同時に、より一層大きくなった少年の嘆きが高く、轟く。
少年のその手には、氷を纏った剣が握られていた――
※
「……うぉあっ!?」
絶叫ともとれるほどの大声を上げ、俺は目覚めた。カーテンの隙間から差し込む日の光に、朝の訪れを感じながら、あれが悪夢であったことを認識し、頭を軽く振る。
「ったくもー、朝っぱらから縁起の悪いもの見せんなっての……」
誰にも届くことのない文句を吐き捨てながら、俺はベッドを降り、鏡を見た。
「もう、16年か」
鏡に映ったその姿を見て、呟く。そこに映る像はただ一つだったが――俺には二つの姿がはっきりと見て取れた。
一つは、フードの付いた服を着た黒髪の青年――ヨロイ・ジン。
もう一つは、ロングコートを着た銀髪の青年――ジン・レクスウオード。
その二つとも、よく見知った顔だった。それも当然だ。どちらも俺なのだから。
俺には、二つの人生の記憶がある。
地球、日本で過ごした20年の記憶と、この世界――『メモリア』で暮らした16年の記憶。
言うなればそう、「異世界転生」という奴だろうか。
物語の中の出来事でしかないとばかり思っていたが、実際に我が身に降りかかると、何とも奇妙なものだ。
そんなことを考えていたら、ドンドンと戸を叩く音。続いて俺を呼ぶ声がした。
「ジンさん、そろそろ下りないと遅れますわよ?」
いかにもなお嬢様口調で俺に声をかける、ドアの向こうの女性。
彼女はロゼッタ・スティングス。同居人――とでも言えばいいのだろうか?
「わかってますセンパイ!先、行っててください!」
俺は返事をすると、急いで着替え始める。
何をこんなに急いでいるのか?その理由は、すぐ明らかになる。
着替えを終えた俺は目をこすり、階段を駆け下りる。
「こぉらジン、ギリギリじゃねぇか」
ちょび髭の似合うダンディな男が、軽い口調で俺を叱る。
「おやっさん、すんません!バリバリ働きますんで、勘弁してくださいっ!」
「おっ、言ったな?じゃあそうしてもらう、っぞ!」
「へへへ……うっす!」
俺の額を軽く指で押し、おやっさん――バイセンは笑みを浮かべる。
「さ、それはいいとして!」
手を叩き、おやっさんが叫ぶ。それを合図に、俺は気を引き締める。
「今日も一日、笑顔でいこう!カフェ『スターズ』、開店――っ!」
「いよっしゃあーー!」
こうして今日もまた、異世界における俺の日常が幕を開けた――
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