縁切り代行
僧侶A
第1話
私は縁切り代行屋。あらゆる方の縁を切るお手伝いをさせて頂いております。
今回はどのような方が現れるのでしょうか。
おや、これは珍しい客が。
「いらっしゃいませ。今日はどのような御用で?」
私はマニュアル通りに出迎えます。といってもこのお店は私一人なのですが。
「夫との縁を切りたいの!!!」
非常に元気よく言いきりましたね。つまりは離婚の依頼のようで。
「承知いたしました。どのような形で縁を切りましょうか?」
よくある依頼の一つです。だからこんな重い話題でも眉一つ動くことはありません。
「慰謝料の支払いと財産分与無しでスパッと離婚したいの。こちらから切り出すってことは流石に私が払わなきゃいけないのでしょう?」
ということは夫には離婚する気がそこまで無さそうですね。だから裁判ルート濃厚と。
「それに完全に縁を切ってしまいたいから」
なるほど。理由はそこでしたか。確かに金銭のやり取りがある限りは一定以上の関係は続くわけで。それすら嫌だから相談しに来たのですね。
「それはどうしてでしょうか?」
普通結婚までたどり着いた夫婦の一方が完全な縁切りを望むレベルまで到達することはないのですが。
「決まってるでしょ。バツイチであることを隠し通すためよ。この年齢でバツイチなんてバレたら人間性に不安を持たれてしまうわ。そのせいで良い男を捕まえられなくなるなんてまっぴらごめんだわ」
そこまで重苦しい理由ではありませんでした。
確かに理にかなっていますね。確かにこの年齢でバツイチなのは色々とありますものね。
それで人間性を警戒されることが懸念点なのでしょう。
戸籍上のバツイチは消せますが預金通帳のバツイチは残りますものね。
まあこんなこと言ってる時点で感は否めないのですが。
「そうでしたか。かしこまりました」
ただ依頼の理由に犯罪性は無いですね。依頼を受ける条件は満たしていますね。
それではお仕事開始です。
あの話ぶりから推測するに浮気は互いにしてらっしゃらない。
そして、夫は別れる気は無いといったところでしょうか。
兎にも角にも実物を見てみないことには本当の事は分かりません。奥様から聞くと変に色眼鏡がかかりそうですし、実際に会いに行ってみましょうか。
奥様に教えてもらった職場の周辺を探してみるとすぐに見つかりました。現在は昼休憩の途中のようで、同僚の方と仲良くご飯を食べていらっしゃいます。
それでは早速秘儀その1!半年前に使ったきり押し入れの中で埃被っていた透明になれる布!これを被ることによって周囲の人に私の姿が見えなくなるのです!
ワンワンッ!!!!
まあ見えないだけなので犬にはバレますが。人間には分からないので大丈夫です。
周囲が一斉にこちらを向きます。あれ?
本当に大丈夫ですよね?犬が虚空に向かって吠えてるからこっち見ているだけですよね?
気を取り直して。
客が店に入ると同時に中に滑り込みます。普通にドア開けたらそれは心霊現象になってしまうので。
「相変わらず妻のこと大好きだよな」
「当然だろ!あんな可愛くて優しい奥さんなんてこの世にいねえよ!ほら」
同僚にスマホのロック画面を見せつつそう言いました。
どれどれ。見せていたのは奥様の実家らしき場所で犬や猫たちと戯れている写真でした。
美人さんのこういった写真は非常に眼福です。
ちなみにロック画面を解除したら夫婦のツーショット写真でした。
「しかもお前を結婚するために大学まで付いてきてやったこともない家事も特訓したとかほんと神かよ」
離婚する気が無いのは予測通りでしたが、まさかこのレベルで愛してらっしゃるとは。
せいぜい普通の夫婦くらいだと思っていたのですがね。
それに彼女意外と尽くすタイプなのですね。普通に理想の奥様じゃないですか。
その後も二人は妻の話や、趣味の野球の話をしていました。そしてご飯を食べ終わった彼らは会社に戻っていきました。
それでは旦那様の仕事ぶりを見てみましょうか。
奥様からの情報によると確か26歳の院卒だったはず。ということは入社して2年かそこらですかね。なのに今の段階で部長なんですよね。流石にこのペースは速い方なのではないですかね。
私は社会人になってからこの仕事しかやってないので詳しいところは分からないので、単なる予想ではありますが。
ブラックで人が残らないからというわけでもなさそうですし、将来有望株なのではないでしょうか。
まあ会社は大きくないので収入自体はそこまでなのかも。
もしかしたらそこが原因かもしれませんね。
どこかの社長や御曹司と熱愛したいとか思っているのかも。
先立つものは金。よく分かります。
金がないと本当に…… もやしを茹でて食べるだけの生活はもう嫌です……
久々にお肉が食べたいの……
「今から飲みに行かないか?」
今日は金曜日ということもあり、定時で帰ろうとする旦那様に同僚がそうお誘いしていました。
「誘ってくれてありがとう。だけど妻が待ってるから早く帰らないと」
旦那様はそう言って断りました。偉いですね。
「じゃあ今度はお前が誘ってくれよな!」
同僚はあらかじめその返答を知っていたかのように次の約束を取り付けていました。
「すまないな!ありがとう」
素晴らしい夫としての心構え。惚れ惚れします。
共働きだから妻が家に帰っているかどうかも分からないというのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます