第62話…襲撃

「お疲れさまシキちゃん、大変だったね」


「全くです。でも、わたしの苦労も意味なかったみたいですね」


わたし達がテルメを出発するとき、信者の見送りが大勢いたからだ。さすが聖女様人気があるのね…


「ルビィこれからどうするんすか?」


「うん、ドトロアに戻るつもりよ。ドトロアの王に全て話して、解決してもらう。それが1番確実だからね。わたし達にはオネがいる。ドンノッサ族の言語も翻訳することができた。オネの能力を見せれば信用すると思う。シキちゃんもいるしね」


「さすがにこの世界の終わりを黙って見過ごすとは思えませんからね」


「だねシキちゃん。奴隷商にはムカつくけど、今1番優先すべきはドンノッサ族の解放だからね。それには1番確実な方法をとらないと…」


「奴隷商は無くならないと思うけど、それなりにダメージは受けるはずですから、リベンジはそれからでも遅くないですね」


…うっ、追い打ちをかけるつもりなのね、シキちゃん…


「街道は危険だと思うから、また裏の道をゆっくり進んでいくよ」


「1月以上も温泉入ってたから、体がなまってきたぴょん。危険なくらいが丁度いいぴょん」

「だな、運動しながら帰るのも悪くないんじゃない」


…あんたらフラグ立てんなって…


「なに言ってんのよぉアンタ達は。安全安心が1番じゃないの」

…おっミリーたまには良いこと言うね…


「いや~この世界の人ってみんな血の気が多いんすね、あたしなんて戦闘が続くと、かなり滅入るんすけど…」

「時代のせいやない?」


「あはは、違う違う。あの2人が特別なんだって」

…だよなクロエ…


「シキなんて血の気が少ないのに戦いたがるから、更に厄介だよ」

…アルカその通りだよ、怒らせたら怖いよね。まぁ怒ってるのはアンタのせいだけど…


だけど、この時わたしは大きな勘違いをしていた。この世界は情報の伝わりが遅い、そのまま街道を最速で進めば、すんなりドトロアに着いていたのかも知れない…


◇◇◇◇◇◇


行きはゆっくり進行したけど、帰りは少し足を早めた。後1日もすればドトロアに着くだろう。


「意外と早く着きそうだな、10日くらいか」

「晴天続きだったのが幸いしたっすね」


「でも帰りは急ぐから疲れちゃった。着いたらゆっくりしたいわね」

…ミリーほとんど馬車に乗ってたよねぇ…


オネもすっかりみんなと仲良くなった。ただ、最初は自由を満喫できてはしゃいでいたのだけど、仲間のことが心配みたいで、最近少しふさぎ込んでいる。


ドンノッサ族は軟禁されているけど、生活水準は良かったみたい。簡単に言えば豪華な牢獄だろうか。


「ルビィ前に誰かいるよ。なんか怪しいよ」


確かに怪しかった、黒色のフードをかぶった人が草原ににポツンと現れたからだ…


「ホントだ、確かに怪しいね」


「おかしいです。わたしの索敵をすり抜けるなんて、人ではないかも。それと後方から馬が3頭来てます」


「あ、あれ魔王だ」

「セシアわかるの?」


「うん、わかる。うまく説明できないけど」


「あれはリッチですね」

「リッチってあれかな、魔法使いや僧侶が知識の追求の為にアンデッド化したやつ」


「はい、この世界のリッチはセシアと同じく死霊魔法が得意ですね、気をしっかり持たないと、恐怖に支配されます」


…さすがロボ、博識。頼りになるわぁ。セシアの言ったこともわかる。魔力量が半端ない、以前の魔王の魔力量そのままだ…


「みんな、気をしっかり持って!緊急事態よ」


「懲りないぴょんね。今度はあたしが引導わたしてやるぴょん」

「あはは、面白くなってきたなぁ」


…うん、あんたらお気楽すぎ、元はと言えばあんたらが立てたフラグのせいだかんね…


「おかしいですね、あの状態からリッチに転生したんですかね?少し腑に落ちません」


…シキちゃん冷静すぎ、まぁ頼りになるけど…


『セシアこっちに来い』


…うぁ、頭の中に声が響く。なんだこれゾクゾクする…


「あっ魔王、わたし行かないのです、そっち面白くないから。ルビィ達といる方が楽しいのです」


…うん何となくそういう子だって言うのはわかってたけど、魔王呼び捨てなのね…


『幼い子供を魅了で操るか、見下げたヤツらよ』


…う~ん、何だろう、おめでたい方なんですね…


「オラオラ系特有の思考ですね」


…シキちゃん相変わらずね…


「わたしには聞こえませんね魔王の声は、それより後方の馬が近づいてきます」


後方から近づいた馬、2頭はアザミだとすぐわかった、黒装束だから。1頭は多分奴隷商だろう、服の趣味が悪い。何か喋ってるけど、遠くて聞こえない…


「ロボ、なんて言ってるかわかる?」


「はい、先走るな、勝手に行動するな的な事言ってますね。この状況で悠長ですね…」


不意に魔王が振り向き言い放つ


『ならば力尽くで分からせてやる』

…あ、さっきの続きなのね…


草原一面アンデッドで埋め尽くされた。ほんと魔力量だけは褒めてやりたい。セシアの召還より遙かに数が多い。100体は優に超えてる。


「マジか、こりゃ凄いな」

「楽勝とはいかないぴょんね」

「少し見直しましたね…」


後方で奴隷商らしき男が大声を上げて叫んだ…


「命ずる、オォウネよ走ってこちらに来なさい!」


その瞬間オネがビクッと反応しアンデッドの群れに向かい走り出した…


「待って、行っちゃダメ!」


制止むなしくオネはアンデッドの群れに飲み込まれるように消えた。アンデッドはオネを避けるように道を作っている。微かに見えるオネの表情は笑顔だった…


「くっやられた。みんな追うよ!」

「まかせるぴょん」


聖属性のオーラを身にまとったレイラの体が白く輝き、オネの走り去った後を追うようにアンデッドの群れに飛び込む。それからそのすぐ後ろにシキちゃんが続く。


シキちゃんの鞭はゾンビ、スケルトン、グールなど実体のある者は対処できるけど、レイス、ファントムなどの実体を持たないアンデッドはレイラでしか対処できない。


以前の戦いではアヴァさんがいたから押し込めたけど、今回は効率が悪い。

と思っていたけど、今回はロボがいる。


ロボが選んだ武器は鉄の棒、直径5センチ長さ2メートルのシンプルな円柱だ。重さはなんと30kgもある。わたしも使ったことがあるけど、重すぎて扱えなかった。ロボはこの鉄棒を軽々と振り回す。


30kgの鉄棒をそれなりのスピードで振ると、アンデッドの頭は簡単に吹っ飛ぶ。吹っ飛ぶと言うか、砕け散る。ロボの腕力も特質すべきだけど、驚くのはバランス感覚。鉄棒の慣性を自在に操る。コマのようにクルクル回りながらアンデッドを蹴散らして行く。


ただ、残念なのはグロすぎる事だろうか。砕け散ったアンデッドの肉片、骨片、訳の分からない液体が周りにまき散らされる。当然わたしは距離を置いて戦った…


…ん?おかしい。以前と戦闘力は変わらない。いや、増しているのに押し込めない。なぜ?原因が判明した。魔王が次から次へとアンデッドを召喚している。底なしの魔力量かよ…


「シキちゃん、魔王のアンデッド召喚止められない?」


「やってるんですけど、リッチになって魔法の使い方がうまくなってるみたいで、レジストされます」


わたし達が足止めを喰らってる間に、オネを乗せた3頭の馬は戦線を離れている。マズい…


「なんや苦戦してるみたいやね。わたしも加わってええ?」

…あ、そうだ、うちにはもう1人聖属性魔法の使い手がいるんだった。何で忘れてたんだろう…

「うん、できるんだったらお願い」


「任しといて、セシアは少し下がってた方がいいかもね」

「ルビィさん亜子さんの魔法凄いっすよ」


…先に言って欲しかったな北斗。少しでも戦況がよくなればラッキーだ…


「いくよ~」

「女神ダミアとの盟約に従い顕現せよ浄化の円環」


亜子が詠唱を始めると草原一面に光の魔方陣が出現した。それは中心から徐々に広がり戦闘が行われている8割を包み込んだ。

昼間なのに発光しているのがわかる。キラキラとした光りの粒が魔方陣から吹き上がっている。凄いまるでサイピクのアニメみたい…


――――

女神ダミアの名の下にウメザワアコが命ず

神聖なる光りよ 生と死の法則に従い 不浄なる魂を輪廻の摂理へ還元せよ

――――


「ターンアンデッド!」


キラキラ更に強くなってる。つか眩しいくらいなんですが…

アンデッドの悲鳴なのか歓喜の声なのか分からない叫びが一面に響き渡る…

アンデッドの体はまるで霧のように消失していった…

魔王もタダではすまなかった。パリンパリンと何かが弾ける音がして膝をつきうずくまった。

何これ?凄いんですが…


そう言えば亜子は聖属性魔法を任意の場所に打てるって言ってたな。どれ位の威力か聞くの忘れてたよ…

残りのアンデッドは数十体、魔王もかなりのダメージを負っている…


「魔王は無事みたいやね、範囲広げると威力もおちるね」


…いや、充分ですっ!たたみ込むチャンス…


「ならトドメはわたしの番ですね」


そう言ってボウガンを構えたミリーの体は白く輝いていて、スノーフレーク家の聖属性魔法使い独自の模様が体に浮き出ている…

準備万端じゃない。やる時はやるねミリー。いつもポンコツ扱いしてゴメンよ~


「我が名はミリー・スノーフレーク!スノーフレーク家の長女にして娟麗けんれいの存在。我が才能と日々の研鑽にひれ伏すがいい」


…え?ミリー前回そんなこと言ってなかったよね?てか今即興で作ったでしょ。詠唱じゃなくて、痛い自己紹介になってるんですが…つか、早く打て!


「ホーリーアロー!」

…え?それ必要?気持ちは分かるけど…


ヒュン


ボウガンから放たれた聖属性魔法を纏った矢はハレー彗星の様な光りの軌跡を残し魔王の顔面1センチ右をかすめ、後方の木に突き刺さった…


「あ…」

…『あ』じゃねぇよ!


「そう言えばミリー、おまえさっき何か飲んでたな」

「えっ?」

…『え』じゃねぇよ!昼間っから呑んでたのか…

でも、今はそんな事言ってる場合じゃない…


「みんな、詰めるよ」


『ぐぅぅぅ…全くもって忌まわしい聖魔法よ』


そう言い放ち、アンデッドを召喚した。驚いたがさすがに魔力も尽きる寸前なのだろう、30体程度だ。残りとあわせて40体ほど。

よし、勝てると思ったその時だった…


「わたしもオネを助けるのです」


後方に待機していたセシアが不意に叫んだ…


「あ、待ってセシア」


止めるのが少し遅れた。わたし達の目の前にセシアの召喚した60体程のアンデッドが現れ、魔王の召喚したアンデッドと戦い始めた…

なんだこの混沌…

敵味方入り乱れて戦ってる。わたし達は唖然となった…

これ100体の敵アンデッドの方がまだマシだよ…



「ルビィこれどうするぴょん。戦いづらいぴょん…」

「これ、どっちが敵か味方かわかんねぇな…」

「魔王いつの間にかいなくなっちゃいましたね…」


「ロボ、逃げた馬は索敵できる?」

「範囲外ですね、でも安心して下さい、オネの所在はつかめますよ」


「え、そうなの?」


「はい、特定の周波数に反応する金属をプレゼントしました。逃げた方向は特定できますから、見つけるのに時間はかからないかと…」


さすがロボ頼りになります。ならばここは放置してオネ奪還作戦を練りますか…


――――――――――――――――――――――――


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