第35話…奴隷アルカ


護衛は付いているけど、どう見てもモブのNPC的な存在だね。いざという時の盾が欲しい、それに奴隷制については詳しく知る必要があるし…



奴隷商におもむいた。


「お邪魔します。奴隷を見せて頂きたいのですが…」


「いらっしゃいませ…」

「…あなた様は召還された落ち人様では…」


妙に警戒されている。それに、なぜわたしの正体を知っているのかな?奴隷商の情報網は凄いのかしら…


「本日はどの様なご用件で…」


「奴隷を見せて頂きたいのですが…」

…先程言ったと思うけど…??…


「は、はぁ…もちろんいますよ。奴隷商ですから」

…ん~歯切れが悪いね。少し詳しく探ってみようか…

なるほど、理解しました。召還者つまり落ち人は奴隷制に対して良い感情を持っていない。これは文化の違いだから仕方ないのに…で、忌避きひするのが8割、歓喜かんきするのが2割。それから忌避きひする人の中で奴隷制を無くそうとする独自の正義感持ちが2割ほどいるらしい。


故に奴隷商は落ち人に注意を払っている訳だ…なまじ力を与えられてるからね落ち人は…正義を振りかざすヤツほど厄介なモノは無いな…


「確かに、わたし達の時代には奴隷はいませんでした。ですが時代をさかのぼれば奴隷制は存在していました。それで北と南に分かれて戦争した国もあります。奴隷制を無くそうとしても、需要があれば、供給があるのは必然です。無くすことに意味はありません」


「そ、そうですよね…」


顔が明るくなる。警戒心も薄らいだみたいだ…

奴隷制度の基本的な事を聞いた。契約システム、エグいかな、色々な事ができるね。まるで人を物としか扱ってない…確かにこの文化レベルの違いは許容しがたいものがあるか…


「屈強な男の戦士を探しています」


「かしこまりました。いいのがいますよ」


見せてもらった。奴隷が監禁されているさまは気分が悪くなるね、ここは我慢か…

いない…

良くても護衛とほとんど変わらない程度か…

リザードマンは強そうだったけど、さすがに王宮に連れて行くわけにもいかないし…

まぁこんなものか…期待もしていませんですし…


「ほんとに契約はこれでよろしいのですか?」

「えぇ構いません。追加は自由にできるのでしょ。必要に応じて追加しますので…」

やってしまった…

「あの…よろしくお願いします。ご主人様」


奴隷商を引き上げようとした時に目にしたフェネックの獣人…

つい衝動買いしてしまった。どうしてなんだろう自分でもよく分からないな。寂しかったのかな…それとも誰にかに似ていたから…とか?


「アルカ、シキと呼んで下さい」

「はい、シキ様…」



さすがに王宮での評判は悪かった…

特にデニス王子の批判が激しかった。恨みをかった覚えは無いのだけれど…


「あの…いいんですか?わたしここにいても…」

「問題無いわね…」

…言わせたい奴には言わせとけばいい。だけど、心証よくするのは必要か…


「買い物に行ってくれるかな。アルカ」

「はい、シキ様」


アルカには豚の膀胱ぼうこうと酸味の強い果実を買いに行かせた。

戻ってくるかな?



「何を作るんですか?」

「細胞外マトリックスよ。いわゆる妖精の粉ってやつね…」

「妖精の粉??」

「何かしらの役には立つでしょう」



意外と妖精の粉の出番は早かった…

デニス王子が隣国との小競り合いで負傷した…


至急慰問いもんしたのだが…


「何をしに来た。あざ笑いにでも来たのか!」

「傷を見せて頂けますか」

「断る。貴様ごときに見せても何もならん」

…子供か?指が無くなったので、ショックが大きいのかしら…


「そうはいきません。ダリア様に助力を約束した身。殿下を助けるのもわたしの役目です」

無理矢理、包帯を剥がし、傷を見る…

これはひどい。親指以外の指が無くなっている。日が浅いのか、傷口はふさがっていなかった。これなら間に合うかな…


「痛かったら、我慢してください」


細胞外マトリックスを振りかけ、傷口をふさぎ、ヒールをかけ続けた…


「無駄だ。ヒールでは元に戻らん」


疲れていたのか、王子は眠ってしまった。

数時間後、わたしも魔力枯渇で寝てしまった…みたい。

頭をさする感覚で目が覚めた。


「すいません。いつの間にか寝てしまって…すぐに治療を再開します…」


「う、うん。疲れているなら、もう少し休んでもいいんだぞ…」


「いえ、殿下は国の宝。可能な限り尽くさせて頂きます」


「そ、そうか。よろしく頼む…」

「今まで、その、すまなかった…」


…ん?わたしへの批判のことか?気にも止めてなかったのですが…


「お気になさらずに…すべてこの国を思っての言動だと理解しております。わたしもこの世界に不慣れですから、これからも今までと同様に叱咤激励してください」


「それよりも、殿下の事を少しだけお教え下さい…」


…よく喋る…まぁ元より人はお喋りだからね。指が無くなった不安と看護の関係か。

王子も立場柄それなりの苦労があるんだね…わたしには関係ないけど…とりあえず完全肯定が定石かな…


「大丈夫ですよ殿下、きっとうまくいきます。微力ながらわたしにもお手伝いさせてください」

「あ、あぁ…よろしく頼む…」

「それから…い、いや、なんでもない…」



治療してから5日目…指はほとんど再生した。

細胞外マトリックスは万能細胞を呼び寄せる作用がある。傷口がふさがっていないなら再生が可能だ。ヒールを掛けているので再生も早い。


「これは…こんな、信じられない。あなたは神なのか?」


「いえ、ダリア様の加護のまたものです。それよりまだ動かしてはいけませんよ。治療が終わったら手を動かす練習をしましょう…」



報奨金を頂いた…

功績が認められたのか、はたまた王子の一声なのか、経費のたぐいはドトロア公国支払いが認められた。目的は達成した。これ以上王子がわたしに依存する事が無いように注意しよう。


資金面はクリアできたけど、対魔王攻略をどうすれば良いのかがさっぱりだね…

とりあえず武器屋に行ってみようか、いえ、その前にもっと重要なことが残ってたな…

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