第7話…魔法
その夜…
「ルビィ、これからどうするの?」
「はい、わたし、冒険者になろうと思ってます」
少し考えるマリアさま…
「むりですね…」
…いきなり完全否定かっ…
「いじわるして、言っているんじゃないですよ」
「今のルビィの実力では、冒険者の最下位ランクとタイマンして、百戦全敗します」
「薬草採取のクエストで稼ぐ方法もありますが、危険度と収入のバランスが悪いです」
「悪いことは言いません。普通の仕事を見つけた方がいいです。仕事が見つかるまでは、ここで働くのは、いかがですか?」
…
「わかりました。でも、チャレンジだけはしてみたいんです」
「2週間時間を下さい、その時にマリアがダメって言ったら、諦めます!」
「ん~、仕方ないですね、それでは明日から2週間、鍛えます。付いてきて下さいね」
「それに、多少無理しても、ルビィなら大丈夫ですからね」
背中に寒気がした…
何か、意味深なことを言われたような気もする…
おまけに、顔が怖い、薄ら笑いのような…
マリアさまの特訓って薬草の知識とかかなぁ…
――魔法訓練――
翌日の朝…
庭で魔法の訓練だ。ワクワクしてたまらない…
「では、魔法のレクチャーしますよ」
…相変わらず清楚、マリアさま…
「実は私、全属性持ちなんですよ、ふふふっ」
…え、凄い、マリアさま…
「と、言っても、ほとんどの人が全属性扱えるんですけどね」
「え?」
「相性は少しあるけど、ルビィも全属性つかえますよ」
全属性のスペルを教えてもらった。簡単な詠唱だ。一言で言えば、単文節の詠唱…
言葉にする必要はなく、念じれば済んでしまう。
「私と相性のいいのは火属性ですね」
「試しにそこの、枯れ葉を燃やしてみますよ」
マリアさまが右手を出して、何か念じている。カッコイイ…
…
30秒後
集められた枯れ葉に火がポッと灯った。
「ど~ですかぁ」
…ドヤ顔である。まぁドヤ顔も清楚なんですけど…
「おぉ~スゴイ、スゴーイ」パチパチパチ…
一言で言えば、劣化版のパイロキネシスだろうか…
「フフ~ン、ではちょっと苦手だけど水魔法いきますね」
…何だろう、鼻高々である…清楚だが…
マリアさまがコップを出し、拳をコップの上に持ってきて、念じ始めた。
1分後…
拳の中から水が1滴コップの中に落ちた…
「ふぅ、調子悪いわ、天候のせいかしら…」
…マリアさまの顔が暗くなる…清楚だが…
多分空気中の水分を集めているのだろう。秋は乾燥してるから…
「よし、気を取り直して、次は風魔法よ」
そよ~…
私の顔に扇風機の小くらいの強さの風が吹く…
「うん、いい感じ…」
…そうなんだ…
雷魔法はピリッとする程度だった…
…おもちゃの嘘発見器程度だね…
「土魔法いきますよ~」
と言って、粘土で手のひらくらいの人形を作り始めた…ゴーレムかな?…
人形が立った、それから、1歩歩いて、パタンと倒れた…
うん、対象指定タイプのサイコキネシスだね…
「やっぱり、土魔法は難しいですね」
「大体これで、全部ですね、例外的に聖属性魔法と契約魔法があるけど、あれは完全に別物ですね。」
「おぉ~パチパチパチ」
確かに、前にいた世界でこれが出来れば、超人扱いされるな…
でも…
ちが~~~う!!
私の中で魔法のイメージがガラガラと崩れてゆく…
「あらら、浮かない顔してますね?」
「はは、イメージしていた魔法と実際の魔法が違ったので…少し…」
「あら、どんな魔法を想像してたんですか?」
「例えば、火の玉を作って投げつけるとか」
…いわゆるファイヤーボールだね…
「あははははっ、そんなの風圧で火が消えちゃいますよ」
「確かに…」
「水の刃で切り刻んだり…」
…ウォーターカッターだね…
「うふふふふっ、水で物が切れるわけないじゃないですか」
うん、実際は切れるんだけど、遠距離で使うと霧になるし、そもそも、堅い物を切る水って研磨剤が入ってるから、水じゃないんだよね…
「風で体中を切り刻んだり…」
…エアカッターだね…
「もう、風で体が切れたら、お外歩けないじゃないですか」
うん、かまいたち現象で切れるんだけど、寒い地方でしか、めったに発生しないし、血も出ないんだよね…
「そもそも、戦闘では魔法なんて使いませんよ、魔族くらいですかね」
「魔王が使ってきた、重力魔法は身動き取れませんでしたからね」
「え?」
マリアさま、魔王と戦った事あるの?
って魔王いるの?平和な世界って聞いてたんだけど…
つか、重力魔法ってただのサイコキネシスでわ…
でも、話聞いてて、何となく分かった事がある…
物理現象に関して、限りなく、リアルに近いってこと…
「戦闘に使うのは1つだけ、身体強化魔法ですよ」
おっ、きたこれ、定番の魔法ですね!
でも、何となく想像できる…
いわゆる、火事場の馬鹿力の事だよね…
「じゃぁ、教えますので、やってみましょう。意外と簡単ですよ」
「うわー、わかる、わかる、スーパー○イア人になった気分です」
「ん、何ですかその、スーパー○イア人って?」
調子に乗った私は近くにある木を叩いてしまった…
イメージでは木っ端みじんに砕ける予定だったのだが…
「いだだだだっ!」
手を押さえてうずくまる…
「大丈夫ですか、そんな事したら、手の骨が折れてしまいますよ」
「ふぅ、幸いヒビ程度で済んだみたいですね」
「元々、筋力がないから、よかったですね」
うわっ、さらっと、ディスられてしまいました…
ハードパンチャーはグローブしてても骨折するって言うからなぁ…
骨は身体強化の対象外だったのね…
マリアさまにヒールをかけてもらっている。痛みは消えない。ヒールの原理も想像つく。細胞活性化だ。
「あんまり無茶してはダメですよ。ヒールは治りが少し良くなるだけだから」
「でも、マリアのヒールは強力ですよね?」
「ふふっ、私のヒールが強力なんじゃないんです」
「先日ルビィが受けた傷だと、私がヒールかけても1週間しないと完治しません」
「えっ」
「ルビィが特別なんですよ」
翌日…
手の痛みが治まらないので、訓練は中止して宮廷に魔法の勉強をしに行くことに決めた。目的は魔法図書館だ。
魔法の内容はガッカリだったけど、もう少し知識を深めれば、何とかなりそうな気がしたからだ。それと、宮廷には公国最高と呼び声の高い土魔法使いがいるらしい。
アヴァさんに会うだろうか?
会わせる顔が無い、なんて言ったらいいんだろうか?
不安を胸に宮廷へ向かった。
身分証のお陰か宮廷図書館にはすんなりと入れた。勉強するのは魔法そのものではなく、魔法の原理、根源の探求だ。
魔法書の貸し出しもしてくれた。
必要な事を済ませ、土魔法を見て教会に帰った。
「どうでしたか、宮廷図書館は」
「はい、とても勉強になりました」
「土魔法も凄かったでしょ、人型のゴーレムが動くんですからね」
実はそうでもなかった。結局、マリアさまが見せてくれた土魔法のスケールアップ版だったからだ…
「あれは、あり余る魔力量で土を浮かしているだけだと思います」
「あら、どういうことかしら?」
「例えば…」
ぬいぐるみを机の上に置いた
「このぬいぐるみを、魔力の力で浮かせると、立っている様に見えますよね」
「そうね」
「そのまま腕を浮かせると、腕を前に出しように見えます」
「そうね…」
「でも、浮かさないと、倒れるんじゃないかしら?」
マリアさまが、ぬいぐるみをつまみ上げ、手を離した。パタンとぬいぐるみが倒れた。
「はい、でも、人は浮かせなくても、たってますよね?」
…
「あ、あぁ、そうね、でも、それは人だから…」
…
「私の前いた世界では、鉄の人形を立たせる事ができて、歩くことも、踊ることもできたんです。魔力を使わずに…」
「えっ、そんな事が…」
マリアさま混乱してる。無理もない、テクノロジーの違いだから…
私からすれば、ゴーレム操作は魔力を
詠唱…
詠唱は体内魔力を外に出力するための変換装置
単純な仕様になっている。故に誰にでも使える。そして、単文構成…
契約魔法の方がまだ複雑な事ができる。
例えば
「炎よ出でよ」である。
「2000度の炎よ私の半径3メートルに渦を巻いて10秒後に消えよ」
はできない。
仕様なので、変えることができない。
変えるとするなら、詠唱の仕様を1から作り直す必要がある。
詠唱を作るには、メタ言語が必要になる。
簡単に言うと、詠唱を作るための詠唱が必要になる。
今はそれを探っている状態だ。短い期間で結果を出すには、多分、この方法しかないだろうと思っている。
間に合うか…
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