第4話(3) ヤベエ奴らの集まり

 勇次は急いで隊服に着替えた億葉とともに作戦室へ向かう。


「全員揃ったな」


「愛と千景は?」


「愛は出張中、千景は燕市での別任務に向かってもらった。万夜、状況説明を頼む」


「新発田市のスーパーマーケット内に妖の反応が多数見られます。ただ、級種は癸級と壬級のみによる構成の模様ですね」


 万夜の説明に御剣は頷く。


「よし、私と億葉、勇次の3人で向かうぞ」


「姉様⁉ あまり無理はなさらない方が……」


「無理はするが無茶はしない。現場では主に億葉たちに任せるつもりだ」


「それならばその役目はわたくしが!」


「負傷した箇所は貴様の方が多い。疲れもあるだろう、今回は待機していてくれ」


「……了解しました」


 万夜はおとなしく引き下がった。御剣は億葉と勇次に向き直る。


「では、行くぞ、二人とも」


「はい!」


「了解したであります!」


 勇次が元気よく返事をし、億葉は大袈裟に敬礼ポーズを取る。


「私に続け!」


「はい! ……って、億葉さん、それは……?」


「? 何か?」


 転移鏡に吸い込まれていった御剣に続こうとした億葉の姿恰好を見て、勇次が思わず呼び止めてしまう。


「その大きいリュックは?」


「女の荷物はどうしても多くなるものです、お気になさらず!」


「いや、気になりますよ! 登山にでも行くつもりですか⁉」


 勇次の指摘は至極もっともなものであった。億葉は彼女の小柄な体がすっぽり入る位の大きさのリュックを背負っていたからである。


「山登りの趣味はありませんが……出来なくもないですね!」


「出来るんですか⁉ 本当に何が入っているんですか?」


「そこは乙女の秘密というやつです」


 そう言って億葉は自分の唇に人差し指をあてる。


「はあ……大体そんなの背負って動けるんですか?」


「意外と軽いですよ、背負ってみますか?」


「お二方! 今は一刻を争う事態ですわよ!」


 万夜が大声を上げる。


「どぅおふ、お叱りを喰らってしまいました、それではお先に」


億葉は苦笑しながら転移鏡に吸い込まれていく。


「だ、大丈夫なのか……?」


 勇次は首を傾げながら、それに続いた。


「どわっ!」


 転移先はスーパーマーケットの駐車場で勇次は車の縁石に躓いて転び、目の前にいた億葉を押し倒すような形になってしまう。


「うおっ、こ、これは噂以上の破廉恥ぶり……」


「す、すみません!」


 勇次は慌てて立ち上がる。


「いきなりとは面食らいました。ところで起こして下さいますか?」


 仰向けに倒れた億葉が両足をバタバタさせながら勇次に頼む。背負ったリュックが大きく、足が地面に着いていないのである。


「ああ……はい」


 勇次が若干呆れながら、手を引いて起こす。御剣が冷静に告げる。


「じゃれ合っているところ悪いが、状況を確認するぞ」


「は、はい!」


「見ての通り、駐車場を含むこのスーパーの敷地全体に狭世が発生している」


「ふむ……ただ、妖の反応は店内のみに見られますね」


「そうだな。とりあえず店内に入るぞ」


 御剣に続き、勇次と億葉も店に入る。何体かの妖が侵入者を撃退するかの様に、三人に向かって襲い掛かってくる。御剣は素早く刀の鯉口を切る。


「早速来たな!」


「あれは……蜂⁉」


 勇次の言葉通り、襲ってきたのは蜂の妖だった。普通の蜂よりも一回り以上大きいが、飛ぶ速さはそれ以上である。億葉が叫ぶ。


「飛行スピードが速い! これは厄介ですぞ!」


「問題ない!」


 声を上げながら御剣が刀を振るう。襲い掛かってきた数体の蜂は御剣による氷の術によって凍らせられて、力なく床に落下し、砕け散る。


「すげえな……対空戦も問題なしか……」


 勇次が感嘆する。そこに腕に着けている妖レーダーが激しく振動する。


「なんだ⁉」


「反対方向から蜂の大群来襲であります!」


「億葉、任せるぞ!」


「任されました!」


 億葉はとてとてと前に進み出る。本人は軽いというものの、端から見ればそのリュックは明らかに重そうである。


「だ、大丈夫ですか⁉」


 心配そうに声を掛ける勇次に対し、億葉は振り向いて答える。


「鬼ヶ島氏、先程説明し損ねたことがあります!」


「え?」


「霊力が極めて高い者、或いは特別な才のある者、はたまた血筋の影響による者、もしくは幸運に恵まれた者が、隊長や万夜氏の様に術を使うことが出来ます!」


 億葉が急な早口で捲し立てる。勇次が戸惑う。


「は、はあ……って、ってことは億葉さんもなにか術を使えるんですか⁉」


「使えませんよ! ヤベエ奴らと一緒にしないで下さい!」


「ええっ⁉」


「術を使えない、かといって千景氏の様にフィジカルバカでもない、そんなか弱い拙者は……科学の力を駆使して戦うのです!」


 そう言うと、億葉の履いているブーツの靴底部分にローラーが、踵の部分に噴射ノズルが飛び出してくる。億葉が叫ぶ。


「ブースト、マックス!」


 噴射ノズルが火を噴き、凄まじい速さで億葉が妖の群れに向かっていく。


「は、速い! あっという間に距離を詰めた! で、でも、どうやって攻撃を⁉」


「ふふん! 『一億個の発明! その17! フライスワター!』」


「い、一億個⁉ すげえ!」


「あくまで自己申告だがな」


 純粋に驚く勇次の横で御剣が呟く。億葉が背中のリュックから網付きの棒を取り出す。


「って、ハエ叩き⁉」


「これはただのハエ叩きにあらず! 伸縮自在のハエ叩き! 伸びろ!」


 億葉は伸びた棒を豪快に振るう。網に当たった数体の蜂型妖が四散する。


「縮め!」


「ハエ叩きが手鏡程のサイズに⁉」


「あまり意味のない機能だな……」


 尚も蜂型妖は複数飛んでいる。億葉はリュックからプラスチックの小箱を取り出す。


「『一億個の発明! その33! ネイルミサイル!』」


 小箱を開け、ネイルを指に着けると、両手を上にかざす。そこから超小型のミサイルが発射され、スーパーの天井の一部もろとも残っていた妖を消し飛ばした。


「ミ、ミサイル⁉ なんつう破壊力だ……ってかネイルにする必要あったのか?」


「年がら年中、ああいう怪しげな発明をしているヤベエ奴、それがアイツ、赤目億葉だ」


 唖然とする勇次に対し、御剣が淡々と説明する。

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