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それまでは私の気持ちに寄り添っていたような、そんな話し方をしていたのに、ここに来てその視線が挑発的に変わったのだ。


私は彼を睨みつけ、その矛盾を指摘する。




『殺していいって言うのに、殺される気はない?』


『それとこれとは別だよ。いくらでも襲いかかって来てもいい、文句は言わない。でもそれを受けるか受けないかの選択はこちらでする』




この男の言い分が理解出来ず、さらにイラつきは加速していく。




『楽になりたいんじゃない?』


『どれだけぶつけて来ても、楽にはならなかったのに、あなたにぶつければ楽になるとでも?』


『なるよ。だって君は被害者で、こちらは加害者なんだから』




被害者だから、その言葉が私の心を支配していく。


私は被害者だから、加害者に同等の苦しみを与える権利がある。


私のこの苦しみを、悔しさを、憎しみを……ぶつけてもいい。


だってこの男は、加害者側の人間だから。






それは、洗脳といえば洗脳だったのかもしれない。


けれど、わざわざそれを焚き付けてくる理由にまで思考を巡らせることは出来なくて。




『君に危害は加えないけど……そうだなぁ』




男は、考えるように視線を彷徨わせてから再び私にその瞳を向け、この空気感とは似合わない笑みを張り付けて口を開く。




『殺したいなら殺してもいいよ。ただし──殺せなかったら何されても文句言わないでね?』




加害者なのに、そう吐きやがったのだ。




顔がカッと熱くなるのを感じると共に、奥歯を強く噛みしめる。


男の腕はまだ私の腹に回っているままで、その強い腕の中から逃す気は無いらしく、臨戦態勢に入った私は体ごと男に振り向いて襟首を掴む。




『ふざけんな、なにそれ、加害者のくせになにそれ』


『じゃあその加害者を、ここで逃す?』


『は?』


『君は加害者の情報を、何か一つでも持ってるの?』




私は、この男が来るまでなにも知らなかった。


加害者の存在があることは頭にあった。


あの時確かに、その存在を感じたから、頭ではわかっていた。




しかし、頭で解っていることと実際に自分で目の当たりにしたのとでは、気持ちの受け止め方がまるで違う。


こんなにも腹立たしく感じることだとは、思いもしていなかった。




しかし相手を責めようにも相手のことなど何一つ知らず、責めようもなく、これまで自分の中で消化しようとしていたのだ。


だって、相手がわからなければ、ぶつけようがないから。




『ここで俺を逃がしたら、二度と君の前には現れないよ』




そんな誘引するような言葉に、それでも私の心は惑わされていく。


この男の口車に乗ってしまうのは、果たして正解か否か?


でもここで逃したら、二度と……復讐の機会は叶わない?

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