2
「いつも思うけど、その顔不気味すぎる」
少しでも時間を稼がなければ、少しでもこの男から離れる算段をつけなければ。
時間が経てば気が変わるかもしれない、時間が経てば電話が鳴ったり来客があったり、なんか起こるかもしれない。
少なくとも今この一瞬よりは、時間がこの先の未来を解決してくれる。
ほんの少しのその希望に縋って、私は今日も憎らしいこの男に言葉を吐く。
――決して、逃げることが出来ないとしても。
首からほんの少し顔を上げたその唇が、微かな息を吐く。
ふわりとかすめる息が首筋をゾワリと刺激し、ピクリと肩が上がる。
「不気味って?」
私の質問にそう返してくる言葉、行為を一旦止めたことに、ようやく力み過ぎていた体の力を抜く。
握られている両手首の血流が悪くなり、徐々に手先の冷えていく感覚が気持ち悪い。
「その……貼り付けたように笑ってる顔が、不気味だっつってんの」
「別に貼り付けてるつもりはないよ」
そいつが言葉を紡ぐ毎に吹きかけられる息から、早く逃れたい。
「そこで話さないで、気持ち悪い」
「君、相変わらず口が悪いままだね?」
「だから、顔離して、キモイ」
そう口に出した直後だった。
更に上ってきた顔が耳に触れ、耳たぶを食み出し、続きを始めることにより背筋がひんやりと凍る。
顔を振り、その顔を全力で背けようが、捕まっている私なんかより自由度の高いその唇には簡単に捕らえられてしまう。
ぜっっっっったいに、そういう声は出さない!!!!
奴の喜ぶようなことはぜっっっっったいしたくない!!!!と決めているので、その隙が出来るまでは言葉を吐き出すことも叶わず。
息苦しさに乱れる、鼻から漏れ出す音だけがBGMだ。
いや、耳元でダイレクトに響くピチャピチャという水音もBGMに入ってきたけれど、断固として奥歯を噛みしめて声を殺すことに徹していた。
「君本当に声出さないの上手いよね。まぁ息乱れてるのはわかるから感じてないわけじゃないんだろうけど」
「殺す殺す殺す殺す殺……っ!!」
ペロリと耳全体を舐められれば、またゾワリと背筋に電気が通り抜ける。
が、しかしその直後でほんの少しの隙が出来るので、また首を振って距離を取ろうとする。
ついでに手足も動かそうとしたが、ガッチリと掴まれたまま動かない。
チッ。
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